無慈悲なる天使


無事にヴィンセントも見つけたあたしたちはまた世界を歩きはじめる。
そうして次に辿り着いた場所は、あたしたちの星にあるひとつの集落だった。





「ここ…!ゴンガガだ!俺の地元だよ」





その場所につくなり、そう大きな反応をした人物がいた。

それはザックスだった。

ゴンガガ…。
あたしたちの旅では、あまり印象が残ってる村ではないけど…。

でも、立ち寄ったことはある。





「ゴールドソーサーでバギーを貰った後、寄ったんだっけ?」

「ああ。壊れた魔晄炉があった、あそこだ」

「ああ!あったね!」





クラウドにも聞きながら、記憶を辿っていく。

そうだそうだ。
確かに壊れた魔晄炉があった。

森の中にあった、小さな集落。

ここが、ザックスの故郷…。

でも、それを言われてちょっと思い出した。

そういえば、ここの村に立ち寄った時、ティファとエアリスの様子がちょっと変だったんだよね。
それで、確かエアリス…ここでザックスのこと、教えてくれた。

話が、繋がった感覚。

他の世界の皆もいるし、今それを話したところで関係のない話だけれど。
でも、ああ、そうだったんだな…なんて、ちょっと自分の中ではすとんと落ちたような感覚があった。

でも、そうしてぼんやりとしている場合ではない。

ザックスやシスネにとって思い出深いこの場所は…セフィロスとの決戦の地でもあったのだ。





「やはり、示したか…」





ぞわっ…と震える。

突如、あの低い声がした。
皆でハッと振り返れば、そこになびいた長い銀髪。





「次は、ザックス、ナマエ、お前たちだ」

「…セフィロス!!」





ザックスがその名を叫んだ。

この場に現れたセフィロス。
その瞳は、まっすぐにザックスとあたしを捉えていた。

…やっぱり、狙いは羅針盤?

そう考えながらそっと手を剣に触れさせた時、ぱっと目の前に立ってくれたクラウドの背中があった。

クラウド…ありがとう。

守るって言ってくれたクラウド。
その約束、しっかりと守ろうとしてくれてる。

うん、すっごく心強い。

なんだか少し、落ち着けたかも。
もちろん気は抜かないけど。

そうしてセフィロスを見据えれば、その手には眩い光が握られていた。





「あれは…クラウドが奪われた光の羅針盤か!?」





ライトニングが自分の手の中にあるものと見比べて言う。
確かにあれは、光の羅針盤だった。

クラウドは「くっ…!」と悔しそうに歯を食いしばる。
あたしはそんなクラウドの背に触れた。

大丈夫。だって、絶対取り戻すって言ったもの。





「何しに来た、セフィロス!」





そしてザックスがセフィロスに問いかけた。

わざわざ向こうから出向いてきたセフィロス。
目的が無きゃ、わざわざ来ないよね。

するとセフィロスは薄く笑った。





「どうやら光の羅針盤はお前たちを示したいらしい…。この羅針盤はザックス、ナマエ…お前たちの光をいまだに求めているようだ。クックック、どこまでも哀れだな、クラウド。さあ、ザックス、ナマエ、渡せ」

「断る!」

「渡すわけないじゃない!」





ザックスとあたしは強く拒否した。

当たり前だ。
絶対、頷くなんてありえない。





「お前こそクラウドから奪った光の羅針盤を返せよ!」

「その羅針盤があたしたちを示したなら、持つべきなのはクラウドだって一目瞭然じゃない!」





そして、ザックスとふたりで剣を構えた。
渡さないし、取り返す!





「もうやめろ、セフィロス…まさかお前…」

「クックック…あくまで拒むというのなら…手段は問うまい」





何かに気が付いたようなクラウドの言葉に、セフィロスは笑いながら己の手にある羅針盤をこちらに差し向けた。
するとその瞬間、あたしたちの元にある羅針盤が輝きを増して反応した。





「私たちの羅針盤が…!」

「反応しているというの?」





あたしやザックスの元だけじゃない。
ライトニングやセリスが持つものも、すべて。





「息の根を止め、全て奪うだけだ」





そしてその直後、長刀を構えたセフィロスがこちらに襲い掛かってきた。

…早い…!

話には聞いていた、力の増したセフィロス。

防がなきゃ…!
とにかく直撃だけは避けなければと、咄嗟に反応する。

だけどその刃はあたしたちの元に届く前に、何かが受け止めてくれた。




ガキン…!




響いた刀のぶつかる音。
見ればそこにいたのは、セフィロスによく似た銀髪の彼。





「カダージュ!?」

「カダージュ…っ!!」





クラウドとあたしは彼の名を口にした。
カダージュが、セフィロスの攻撃を止めてくれた…!

カダージュはギリッ…とぶつかる距離で、セフィロスの事を睨んでいた。





「許せないよ、セフィロス…光の羅針盤まで独り占めするの?」

「愚かだな…母さんの望みとも知らず…」

「愚かなのはどっちだ!どうせ使いこなせなかったんだろう!僕にはわかるんだ…あんたの思念体だからね」





セフィロスはクラウドの光の羅針盤を使いこなせなかった。
それはきっと、事実だったんだと思う。

だって最初、クラウドから光の羅針盤を奪ったセフィロスは、きっとそれだけで事足りると思ったんだ。
だからザックスやあたしの羅針盤には見向きもせず、クラウドだけを狙った。

それに本人も言ってたけど、セフィロスの思念体たるカダージュが言うなら間違いないだろう。





「そうか…セフィロスは光の羅針盤が一つでは機能しないと気づいたんだ…!」

「…成る程。そういうこと…」





クラウドは傍にいるあたしに小声で言った。

それで納得する。

オニオンナイトが教えてくれた。
すべての光の羅針盤が揃った時、指示される場所があると。

だから光の羅針盤が真価を発揮するためには、すべて揃える必要がある。





「だったら尚更…」

「ああ、渡すわけにはいかないな…!」





セフィロスもすべて揃える必要性に気が付いてる。
あたしとクラウドは顔を合わせて頷き、剣を構え直した。

そしてクラウドとザックスが駆け出し、カダージュが抑えているセフィロスの刀をふたりで弾き飛ばす。





「一緒に戦ってくれるんだね、兄さん!さあ、セフィロスを倒そう!」

「足掻くというか、クラウド…」





カダージュとセフィロス。
ふたつの声がそれぞれクラウドに掛けられる。

あたしも駆け出し、クラウドとザックスに並んだ。

足掻くか…なんて、聞かれるまでもないよね。





「当然だ…俺たちの切り札を渡すわけにはいない!」

「クラウド!約束!手伝うから!一緒に取り戻そ!」





ザックスの言葉に合わせて、あたしはクラウドに明るく言う。

助けるよ!って、そう言ったよね。
そうすればこくりとクラウドも頷きを返してくれる。

覚悟は決まった。
よし!戦える!!

そう、こちらの思いは全員で固まった。

すると、セフィロスもそれを感じ取ったのだろうか…。

その瞬間、セフィロスの体の禍々しい力がまた強まった…そして。





「な、なんだこれ!?」

「セフィロス…なのか」





姿を変え、目の前に降臨した…それ。
ザックスが声を上げ、クラウドが狼狽える。





「天、使…?」





あたしも見上げ、呟いた。

そこにたセフィロス…。
その姿は、白い翼を持った…これはまるで。





「あんたたちの知らない、母さんの力さ…」





カダージュが教えてくれる。

ジェノバの力…。
これが、あたしたちの覚えていない、セフィロスの異形の姿…?

あたしたち、この姿のセフィロスと戦ったことがあるの?





「こんな姿になっちまうのかよ…本当に、もうセフィロスじゃないんだな…。分かった…、あいつを倒す!」

「ああ!あんたたちの光の羅針盤は、絶対に奪わせない!」





ザックスとクラウドの強い声ではっとした。

うん、覚えていようがいまいが、やることはひとつだけ。
あいつを倒して、光の羅針盤を守る!それだけだよ!





「うん!奪わせないし、クラウドの羅針盤も取り返す!」

「…ああ!」





クラウドも応えてくれる。

さあ、行こう!

異形の力。
今のあたしたちにとって、未知の敵。

でも、ちっとも怖くない。

皆が一緒だって知ってるから、それなら怖いことなんてなにひとつないって、本気で思えた。



END
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