唇から酸素といえば


「ん〜…!海は気持ちいいなあ…!」





潮のにおいの風がなびく。
踏めばしゃくりと鳴る砂の上でうんと体を伸ばせばなんとも気持ちがいい。

現在、あたしたちは歪みを探して海辺を歩いているところだ。

遊んでるわけじゃないけど、ちょっとしたお散歩みたいにも感じられて、あたしは結構ご機嫌だった。





「見ろ、みんな!あそこに誰か倒れてるぞ!」





そんなのーんびりした気分の中、突然ジタンの大きな声が響き渡った。

何事だって皆が振り返る。
勿論あたしも例外じゃない。

誰か倒れてるって言った?





「クポ!本当だクポ!行ってみるクポ〜!」





真っ先に向かっていったのは叫んだ本人であるジタンと、案内役のモーグリだ。

ふたりの向かっていく先に目を見やれば、確かに誰かが倒れていた。

大変じゃん!
自分で実際にそれを目にした事ででその感覚はちょっとした焦りに変わる。

わらわらと皆が自然とそこに集まれば、その中でひとり「ああ!」と声を上げた人物がいた。





「…って!ちょっと待ったぁ!あの格好はひょっとしてファリスじゃないのか!?」





そう叫んだのはバッツだった。
その叫びにあたしとティファは首を傾げる。





「ファリス?」

「てことはあの日ともバッツと同じ世界の?」

「ああ!一緒に旅していた仲間さ!」





2人で尋ねればバッツは大きく頷いた。
そして傍にしゃがみ呼びかけるジタンの隣に座り、倒れるその人の顔を確かめ確信を得ていた。





「やっぱりファリスだ!聞こえるか!?俺だ!バッツだよ!」





仲間であると言うその人に呼びかけるバッツ。
でもその人はぐったりしたままバッツの声に答えることは無い。





「…まずいな、かろうじて息はあるけど放っておくと危ないぞ」





返事が無いことを見て、簡単に状態を確認するバッツ。
旅の経験からかな。バッツって結構色んなこと出来るよな…ってそんなことに感心してる場合ではないよな、うん。

ここは浜辺で、そこで気を失っていると言うところを見ると…まあ、おのずとその理由は明らかだ。





「溺れちゃったみたいだね…。となると…」





ティファが呟いた言葉。
それを聞いたあたしは思わず視線を隣にいた金髪の彼にへと向けてしまった。
そしてそれは呟いたティファも同じ。

あたしとティファ、ふたりの視線を集めたクラウドは怪訝そうな顔をした。





「なぜ、俺を見る?」





なぜ、って…ねえ。
そう言われたあたしとティファは顔を合わせた。
そして互いに思わず溢れた笑み。

そしてそのまま、また視線をクラウドへと戻した。





「いや〜、だってさあ〜」

「ふふ、人工呼吸は得意でしょ?」





あたしたちの言葉を聞き、クラウドは眉間にしわを寄せた。
その反応を見たあたしは思わずぐっと吹き出しそうになった。

あれは、そう。
あたしたちの世界のアンダージュノンという街での話。

そこでクラウドは人工呼吸によってひとりの女の子を救ったのだ。

いや〜あれを間近で見ていた身をしては色々思うことはありますよ。
あの時は妙にドキドキしたっけなあ。

今となってはちょっと笑い話になってるとこあるけど。

まあとにかく、そんなわけであたしたちにとっては人工呼吸と言えばクラウドなわけです。

相変わらず、クラウドはすっごい顔しかめてるけどね!

すると、そんな人工呼吸というワードに妙にジタンが食いついた。





「人工呼吸…って?息をしてない人を口移しで蘇生するあれのことか?よぉ〜し!待ってろ!すぐに俺がアツ〜い人工呼吸をしてやるからな!」





突然張り切りだすジタン。
え。なんでジタンそんなに意気揚々としてるんだ。

そんな疑問が浮かんだところで「ううん…」と小さなうめき声が聞こえた。





「う…ここは…?」





初めて聞く声。
言うまでも無く、それは倒れていたバッツの仲間だというファリスの声だ。

間一髪…?っていうのもおかしい?





「あ、意識戻った!」

「ああ。どうやらその必要は無さそうだな」

「そうみたいね…」





あたしとクラウドの言葉を聞き、そして意識を戻したファリスを見てガクッと残念そうに肩を落とすジタン。

だから、なんでそんなに残念そう…?

一体どういうことなんだろうか?
そんな目でクラウドを見やれば、その視線に気が付いたクラウドに肩を竦められた。

うん、まあそうなるよね。

とりあえず、バッツの仲間だっていうなら味方のはず。
それなら意識が戻った事は純粋に喜ばしいことだ。

モーグリも光の意思を感じると言っているし。

意識が戻ったなら治療の方法も変わってくる。
バッツとジタンはポーションを取り出し、傷口の手当を始めていた。

しかしそんな中で、またジタンはファリスの顔をじっと見つめ、その表情をふにゃりと緩ませていた。





「…しかし綺麗な顔だな。ドキドキしちまうぜ…」

「あんまりジロジロ見てるとあとで怒られるぞ」

「へえ、優しいねえ。バッツも隅に置けないな」





手当をしながらの、バッツとジタンのそんな会話。
それを後ろで見ていたこちらサイドは絶好調に頭に「?」が浮かびまくっていた。





「あのファリスって人、男だよね?隅に置けないなって…どういう意味だろ?」

「さあな」

「それにジタンってばさっきからやけに張り切ってるし…」

「…趣味が変わったんじゃないか?」

「ちょいちょいクラウド〜…」





疑問を言葉にするレムに適当なことを言って返すクラウド。
あたしは苦笑いして肘で軽くクラウドを小突いた。

だってなんかさらっと物凄い事言ってるぞ!

いや、クラウドってたまにこういうとこあるよね。
そういうとこも魅力だけどね!あっは!

…とか思ってるあたしもアホだけども。

でも、そうなのだ。
レムの言う通り、そこに倒れてるファリスは男の人。

ジタンは女の人が大好き…なはず、なんだけどなあ。

そう思って改めてそのファリスの顔を見てみる。
スッとした線の、整った顔立ちの人だ。





「まあ、確かに綺麗な顔はしてるよね。カッコイイ!」





ジタンが先ほど言ったように、彼は確かに綺麗な顔をしていた。
その意見には同意だとあたしはそう言いながらうんうんと頷く。

すると、それを聞いたクラウドに問いかけられた。





「…ああいうのが好みなのか?」

「うん?」





目が合って、思わずぱちくり。
いや、そんな質問されるとは思わなくて。

でも、回答に困る事は無い。
あたしはすぐに首を横に振った。





「ううん。そういうわけじゃなくて、ただ整った顔してるよね〜ってハナシ」

「…そうか」





クラウドはそれだけ言うと視線をバッツ達の方へと戻した。

だってあたしのタイプはクラウドだし!!
…なーんてことは口に出しませんけども。

まあ、ね。
これが、新しい仲間になるファリスの第一印象のお話でしたとさ。



END
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