不安の本音


ブラスカさんを囲み、ユウナやパインをはじめ、異世界の仲間たちが会話に花を咲かせている。

新しい誰かが来ると、自然とその人を中心とした話にはなりやすいものだ。
で、今回は以前から話に出ることがあったユウナのお父さんだから、特にかもしれない。

そんな賑やかな様子を、ジェクトさんは少し離れたところで眺めていた。





「話がしたいなら、さっさと行け」





そんなジェクトさんに、アーロンはそう言った。
ジェクトさんは、ちらりと視線を寄越す。





「それとも気づかれるのを待っているのか?フッ…子供でもあるまい」

「そんなんじゃねえよ」





アーロンの物言いにフイッとまた顔をそむけるジェクトさん。
そしてブラスカさんたちからも視線を逸らし、ぽつりと呟いた。





「せっかくユウナちゃんと会えたんだ。…邪魔したら悪いだろうが」

「水入らずと言うわけでもない…それに、こちらの仲間とも話している。気にせず行ってこい」

「うるせえな…ほっとけよ」

「ジェクトさん…」





ジェクトさんはぶっきらぼうに言って、その輪に加わろうとはしなかった。

ブラスカさんの事を気にしてる。
それは正直、誰の目からでも明らかなのに。

浮かない顔。

ジェクトさんは、まだやっぱり何か引っかかっているような表情をしていた。
あたしはそれが気になってて、そしてやっぱり、アーロンもそれには気が付いていた。

そむけたジェクトさんの背中。
アーロンは少し考え、そしてその背中に指摘する。





「まさか、怖気づいているのか?」

「!」





すると、ジェクトさんが少しだけ反応した。
それは図星と言うに等しい。

その反応をアーロンも見逃さない。





「やはりな…向き合う勇気がないだけか」

「あ、アーロン…」





あまりにストレートに言う。
いや、うん…まあこれくらいハッキリじゃなきゃダメなのかもしれないけど…。

だけど、このまま続けていくと、ジェクトさんは多分怒って…喧嘩になる。

その空気が読めたから、あたしはちょっと慌てた。





「違うに決まってんだろ…!首突っ込んでくるんじゃねえよ!」





案の定、ジェクトさんは怒鳴って振り返った。

ただ、アーロンは冷静だ。
まあアーロンの方はわざとこういう言い方をしてるんだろうとは、思う…けど。

でもあんまり煽るのは…。





「ムキになるなら、図星だな」

「なんだと、てめえ…!」

「じぇ、ジェクトさん…!アーロンももうちょい言い方!」





なんでこう、煽る方向で行くかな…!

睨み合うふたりを慌てて止める。
いや正直止められるかはわかんないけど…!





「どうしたんだ、ふたりとも…!ナマエも!」

「ぶ、ブラスカさん…!」





その時、言い争いに気が付いたブラスカさんがこちらに駆けてきてくれた。

救世主様!ブラスカ様!!
あたしはちょっとホッとした。





「子供の前で大声を出すのは感心しないな。いったい何があったんだ?」

「……。」





尋ねるブラスカさんをじっと見つめるジェクトさん。
でもまたすぐにふいっと視線を逸らした。





「ジェクト、意固地になるな」

「…ジェクトさん。話は、あたしもした方がいいと思います」





再び促したアーロン。
あたしも、考え方的にはアーロンと同じだから今度は一緒に促した。

するとブラスカさんも言い争いの原因が自分だと察する。





「…私に関わる事なんだな。何でも腹を割って話してきたじゃないか。今更遠慮などいらないだろう」

「……。」

「言ってくれ、ジェクト。どんな言葉も受け止めるさ」

「いや、そんなんじゃねえんだ。俺は、ただ…。…ただ…」





真っ直ぐなブラスカさんの言葉。そして包容力。

腹を割った話。
そう…旅の中、そいう場面はいくつもあった。

でも、ジェクトさんはなかなか向き合えない。





「ああ、クソッ…!」

「逃げるな、ジェクト!」





もう一度、アーロンが強く言った。

全員からの、向き合えという視線。
それを感じたジェクトさんはガシガシと頭を掻き、半分ヤケにブラスカさんに向き直った。





「わかったよ!聞いてやらあ!俺はずっと不安だったんだ…!ブラスカが俺の事を恨んじゃいねえかってな…!」





赤裸々なジェクトさんの本音。
ブラスカさんが、ジェクトさんを恨んでいるんじゃないか…。

弾ける様に叫んだその不安の意味を、ジェクトさんはぽつぽつと話し始めた。



END
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