旅の記録
「マジかよ…本当にザナルカンド遺跡だな」
ワッカが呟く。
ブラスカさんに案内され、あたしたちはビサイド村の景色を通り抜けた。
すると、辿り着く…。
確かに、本来ならありえない。
南の島のビサイドから、北の最果て…。
あたしたちは再び、この世界のザナルカンド遺跡に足を踏み入れた。
「ここは俺たちだけでなく、お前たちも通った道だ。やはり全員の思いが呼び出したのかもしれん」
アーロンはそう言った。
以前ここを歩いたときは、アーロンは自分が呼び出したと気にしていた。
アーロンとジェクトさんの…過去の、あの日のザナルカンド遺跡。
でも、意思の力が大きく働くこの世界では…きっとその景色もその都度色を変える。
今のこの場所は、確かにあたしたち全員の思いが関係しているのかもしれないと思った。
「皆で話し合ったよね。最後かもしれない…そんな話もしたわ」
「うん…皆で焚き火、囲んでね。思う事、色々ありすぎたよ…」
「あの頃は不安だったね。究極召喚を手に入れられるのかなって。だけど今はもう大丈夫。ちゃんと向き合える」
ルールーとあたしとユウナ。
3人で並んであの時と同じ景色を見渡す。
でも、ユウナの言う通り、今は大丈夫。
不安なことなんて無い。
すると娘のそんな姿をブラスカさんも改めて見直した様子。
「…強くなったな。ユウナたちも立派に旅をしてきたようだ」
「父さんたちも迷った道なのかな、向き合った問題なのかなって、考えながら進んだの」
「その通りだ。我々も、きっとユウナたちのように何度も考えて、諦めずに進んできた」
「ああ…そうでしたよね」
その会話を聞き、ワッカが思い出したように呟いた。
それを聞いたブラスカさんは不思議そうにワッカに振り向く。
ああ、そりゃそうだ。
まるで見たように言うから、ブラスカさんからしたら不思議だよね。
「ごめん、実は見ちゃったんだ。父さんたちのスフィア…」
「記録したスフィアと、あと、この場所でも溢れる幻光虫に焼き付いていて過去の姿が見れたんです」
「うん…楽しそうなのもあったけど、葛藤してたよね。エボン・ドームでの最後の決断も…」
ユウナとあたしは過去の旅の姿を実際に見たことを伝えた。
最後の決断…。
それを聞けば、ジェクトさんの表情も少し固くなる。
「あれか。俺が究極召喚になるって決めた時の…」
「す、すんません!だけどあのおかげで俺たち、考え直すことが出来たんです」
「父さんの達の決断や、歩いてきた道があったから、私たちスピラを解放することが出来たんだよ」
「そうか、あのスフィアが…」
見てしまったことを謝るワッカとユウナの話を聞き、ブラスカさんは旅の途中何度も撮影したあのスフィアのことを思い出しているようだった。
すると旅の中で見ることを勧めた張本人であるアーロンが小さく笑った。
「フッ…見られて減るものでもないだろう。ジェクトの情けない姿は映っているがな。なあ、ナマエ」
「え?…あー!あーれねー!」
「ちょっと待て、どれの事だ!」
アーロンに話を振られ、映像を思い出す。
あれでしょ!
雷平原のドッカーンってやつ!
あ、でもシパーフ斬りつけてアーロンに怒られてるのもなかなか。
あははっ、と笑えばジェクトさんに詰め寄られそうになって、慌ててシュパッとアーロンの背中に逃げる。
ていうか、いらんこと言ったのアーロンですから!
するとそんな様子にブラスカさんは笑ってジェクトさんをなだめた。
「まあまあ、いいじゃないか。そういえば私も見つけたんだ」
そしてブラスカさんは懐から何かを取り出した。
差し出されたそれに、皆で目を見開く。
それはまさに、今の会話の中心にあったモノ。
「これ…スフィア?えっ、どこで?どうして?」
ユウナは驚きながら差し出されたスフィアを見る。
そんな娘の姿にブラスカさんは微笑みつつ、このスフィアの使い道を話した。
「どうしてかはわからないが…意志の力と言うものかもしれないと思ってね。我々のスフィアが役に立ったように、これも誰かの為になるかもしれないな」
「私たちの旅の記録…今度は父さんも一緒だね!」
「まずは今のユウナを映しておこう。ルールーとワッカも一緒に入ってくれないか。ナマエも」
「ええ、喜んで」
「はーい!」
成長したユウナの姿と、そんな娘の周りにいる人物の姿を。
あたしはルールーとワッカと一緒にユウナの傍に寄り、思い思いにその半球に笑顔を向けた。
「ブラスカめ。はしゃいでいるな」
「そりゃそうだろ。ようやく会えて…一緒に旅ができるんだからよ」
そんな撮影風景を、アーロンとジェクトさんは一歩引いたところで見ていた。
アーロンは、笑ってる。
ちょっと目が合うと、ふっと微笑んでくれる。
ブラスカさんに会えて、話して、アーロンは少し気持ちに整理も付けたかな?
「ナマエ、あとでパインとも映ろうよ!」
「ああ、うん!そうだね!カモメ団しよっか!ひとり足りないけどねー」
「うん…リュックも一緒に映りたいね」
あたしはユウナと揃いのポーズを決めながら、そんな話をした。
そしてその時、アーロンの隣のもうひとり…ジェクトさんもちらりと見る。
ジェクトさんは…まだ、ちょっと浮かない顔。
ジェクトさんも、ブラスカさんとユウナが会えたって凄く喜んでた。
諦めたことが叶っていくって、その気持ちを噛み締めていた。
でも、まだ何か…。
多分アーロンも気付いてると思うけど…。
あたしも、そんなジェクトさんが気になっていた。
END