かつての仲間たち


シーモアはいつの間にか消えていた。
目に見えるひずみも閉じ、ビサイド村の景色に再び本来の穏やかさが戻る。

そうして落ち着いたのち、あたしはアーロンとジェクトさんと一緒に、ついさっき再会したあの人との場を設けていた。





「ずいぶんと待たせたようだな。長い旅をしてきたと聞いた」

「おう。お前まで来るなんてちっとも考えてなかったぜ。ユウナちゃんと会えて良かったな。もう立派なお嬢さんだろ」

「ああ。亡くなった妻によく似ている…。目にすることなどないと覚悟していたのにな」





ブラスカさんとジェクトさんが話してる。

本当にブラスカさんだ…。
ブラスカさんが、そこにいる…。

何度まばたきしても消える事のない現実に、あたしはすごく不思議な気持ちになっていた。





「ブラスカ…すまなかった」





するとそんな時、隣にいたアーロンがブラスカさんに頭を下げた。

急な謝罪に視線がアーロンに集まる。
ブラスカさんも目を丸くしていた。





「あの時どんな手を使ってでも止めていれば…お前はユウナの成長を見守ることが出来た。俺の力不足を詫びさせてくれ…」





この世界にあのザナルカンドが出現してから…いや、きっとそれより前からずっとアーロンの心に残っていたであろう後悔。

それを聞いたブラスカさんはゆっくりと首を横に振った。





「あれでよかったんだ、アーロン。あの時は最善の手段だった。ひとり遺して辛い思いをさせたな」

「ブラスカ…」





直接、ブラスカさんから言葉が、反応が返ってくる。

アーロンは今、どんな気持ちだろう。
凝り固まった心が、少しでも解けるような感覚はあるかな。

するとブラスカさんは重苦しい空気はやめにしようと言うかのように、少しアーロンの事をからかった。





「はは、そういえばいつに間にか私の事を呼び捨てにしているじゃないか」

「むっ!いや、これは…!」





昔はブラスカ様と呼んでいたのに。
その指摘にアーロンにしては珍しく狼狽える。

それを見たらあたしは思わず隣で「ぶはっ」と吹きだした。
…ギロッとサングラスの奥から睨まれた。





「それにだいぶ老けたな…我々の方が若く見えると思うが、どうだ?」

「おっ、そうかもな。ひとりだけジジイになるんじゃねえか?」

「ジェクト…茶化すな」

「いやでも本当老けましたよねえ?ほらほら、いつも言ってるじゃんかー。あたし間違っていないよー」

「……。」

「あだッ!!何であたしだけ殴るの!!」





いつもの調子。
にへら〜と満面の笑みでおちょくったら脳天に拳が落ちてきた。

暴力反対!このおっさんめ!!

すると、そんな様子を見ていたブラスカさんは声に出して笑ってた。
そして改めて、アーロンに向かい感謝する。





「ははは、君はこの村にユウナ託してくれた。約束を守ってくれたことに感謝してるんだ」

「当然だ…反故にするわけがないだろう…!」

「へへっ、堅っ苦しい奴だぜ。気にすんな。俺たちの間に貸し借りなんてねーんだからよ!」





穏やかなブラスカさん。真面目なアーロン。豪快なジェクトさん。

ああ…すごく、すごく懐かしい。

その場にある空気をあたしは確かに知っている。
それはかつて、はじめてスピラを旅した時そのもの。

そう感じたのはあたしだけじゃなかっただろう。

ブラスカさんもジェクトさんとアーロンを見て目を細めていた。





「君たちは本当に変わらないな…。素直じゃないし、なにより不器用だ」

「なっ!」

「そりゃこの堅物だけだろ!」

「はははっ、そういうところが変わらないと言っている。なあ、ナマエ。君もそう思うだろう?」

「ふふ、はいっ!全然変わってないですね!」





話を振られ、あたしは同意した。

うん。そういうところ、全然変わってない。
それはきっと、楽しくて、嬉しくて、いいことだ。

そしてそれからブラスカさんは、あたしの姿についても不思議そうに聞いてくれた。





「しかしアーロンに比べて、ナマエはそんなに変わっていないね?少し髪が伸びたくらいか。ユウナとそう変わらないようにさえ見えるが」

「あっ、それは…」





聞かれてはっとした。

あたしの姿はブラスカさんと旅をしていた時から約1年後の姿だ。
つまりは大して変わってないわけで。

そうだ。その辺ブラスカさんにも説明しないと。

そう思った。
だけどその時、はた…と、言葉に詰まった。





「…、」





あ、なんか…ダメかも…。

ぐっ…と、込み上げてくる。
耐えようって頑張ってみるけど、抑えられない。

自分でも、ちょっとびっくり。
だけどその瞬間、だばっ…と瞳から涙がこぼれてしまった。

そんな様子には周りの3人もぎょっとしていた。

でも、もうそうなったら止められない…いや、止めても仕方ない気がした。





「っ…あの、ブラスカさん…、…っ、ごめんなさい…!」

「おっと…泣かせているのは私かい?どうしたんだい、ナマエ」





あの頃と変わらない、優しい声。

違う。違うんです。
あなたのせいじゃない。

あたしはいっぱいいっぱいになりながら、それは伝えるように首を横に振った。





「…あたし、ガードの務め、最後まで果たせませんでした…。ナギ平原で消えたあの時、一度元の世界に帰ったんです…。この姿は、あたしの世界はスピラより時間の流れが遅いらしくて…。でも、でも、本当は…っ、最後まで旅がしたかった…、いたところで大して役になんて立たなかっただろうけど、でも…一緒にいたかったんです…!アーロンと、ジェクトさんと、ブラスカさんとっ…ちゃんと最後まで一緒にいたかった…!!」





ぼたぼた、ぐしゃぐしゃ。
言葉も全然整理できてない。

ああ、もう。なんか最悪だ…。

アーロンにも言った。
最後まで一緒に旅がしたかった。傍にいたかったって。

そうやって吐き出して、受け止めてもらった。

だけどやっぱり、その後悔は思ってるよりもあたしの中で根深かったらしい。

すると、ブラスカさんはそんなあたしに優しく微笑んでくれた。





「そうか…やはり元の世界に戻っていたんだね。私たちもだいぶ探がしたが、見つからなくてね…。もしかしたらそうなのかもしれないと思っていたんだ」

「…はい」

「あの後、我々は厳しい選択を迫られた。だから君が無事でいてくれてよかったと、心からそう思う。それはアーロンも、ジェクトも同意見だろう。でも、そうだね…矛盾するようだけれど」

「…?」

「私も、ナマエと最後まで旅がしたかった。そう思うのもまた本心だな」

「ブラスカさん…」

「でも、気に病む必要なんてひとつもない。ナマエ、私はね、君をガードにしてよかったと心から思っているよ。旅の中、君はたくさん笑顔を見せてくれた。だからこそ私もたくさん笑うことが出来た。私も君に言いたかった。君がガードで本当に良かった。ありがとう、ナマエ」





また、優しい笑み。

足手まといになる事もあった。
最後までガードの務めを果たせなかった。

でも、ガードにしてよかったと言ってもらえた。

なんだか、じわっ…と胸に沁みてくる。

そうしたら、伝えたかった言葉がフッと浮かんできた。





「あたしも、貴方のガードになれて良かったです!!」





なんだか、心の中がいっぱいになる。
満ちていくような。

そうだ。あたしは、ブラスカさんにそれを伝えたかった。

あたしは、最後まで旅が出来なかった。

だから、ザナルカンドのあの瞬間の気持ちをどんなに考えても、理解して、共有するっていうのは…正直限界がある…。それは、事実なんだよね…。

でも、でもね。
それでも、ガードになって良かった、一緒に旅が出来てよかったって言うのは、紛れもない心からの本音だ。





「ブラスカさんと、ジェクトさんと、アーロンと、一緒に旅が出来て良かった!」





涙まじり。
でも、それは笑って言えた。

するとアーロンに目尻を拭われた。





「何を号泣しているんだ…お前は」

「ううう…自分でもわからんんん…なんか今急にきたぁ…」

「酷い顔だな」

「うるせえええ、アーロンのばあああか!」





グイっと腕で一気に涙を拭う。

いやあたしも思ったよ!
なんでこんな突然大号泣してるのかと!!

するとアーロンはフッと笑う。
そしてポン…と頭を撫でられた。

…その手がまたずるいくらいに優しいから、またちょっとうるっと来そうだった。
いや今回は耐えたけど。

するとその様子を見ていたジェクトさんがブラスカさんに言った。





「おう、ブラスカ。こいつらよ、いつの間にかくっついてやがるんだぜ?」

「ほう…?」





ジェクトさんはブラスカさんの傍に寄って、ポーズだけ耳打ちするかのような形を取る。
それに対してブラスカさんもわざとらしく興味深そうに頷く。

いや、何ですかその反応は。





「そうか、アーロンもやっと素直になれたんだな」

「だーよなー。ったく、こっちはもどかしいったらなかったよなあ?」

「ははは、まあ、そうだな。我々はお似合いだと思っていたからね」

「自覚がねえっつーか、にっぶくてよお。特にあの堅物は、変な意地も張ってたよな。ンなことにうつつ抜かしてる場合じゃねえみてえな」

「天邪鬼だったな。いや、そこは今もかな?」





な、なんか、言われたい放題…?
いやまあ、今更隠すようなことでもないんだけど…。

でもあの当時にそんなことを思われてたと思うとちょっとむず痒くなってくるような…。

そう思いながらちらりとアーロンを見上げると、無言で凄い顔をしかめてた。
まあ、アーロンの方が言われてるし…。

するとブラスカさんは小さく笑った。





「はは、すまないすまない。でも、良かったじゃないか。アーロン、君は、口にはしていなかったけど後悔していたんだろう?ナマエが消えた後、伝えればよかったと、そう思ったことがたくさんあったんだろう?それを伝えられたなら、良かったよ」

「……。」





そう微笑むブラスカさんにアーロンをちらっと見上げる。

アーロンはだんまりだ。
でもむすっとしてるわけではなく、反応に困ってるような感じ。

否定は、しない…か。

うん、でもきっと、再会して、また一緒に旅が出来て…。
伝えたいって思ってくれたこと、きっと色々話してくれたんだろうなと思う。

そしてブラスカさんはまた少し懐かしむように笑った。





「ははは、だが、色々と安心した。君たちとまたこんなやるとりが出来るんだ。…この世界は不思議だな。ユウナの成長を目にすることもできた…。叶うはずが無いと諦めていた夢だ」

「へっ…よかったな、ブラスカ」





この世界に来て、大変なこともいっぱいあった。
でも、本来なら叶うはずがなかった…そんな願いも叶っていく。

考えなきゃならないこと、思うことも色々とあるけれど。

でもね、大好きな人たちが笑っている。
そのことは素直に、良かったって、そう思った。



END
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