ダメな考え方
「やっと会えたのに、ジェクトもアーロンもぎこちないね」
気遣う様に言ってくれたキアラン。
その言葉にあたしとユウナは小さく息をついた。
「…ごめん。この間の一件で、少しは落ち着いた部分もあるんだけど、やっぱりまだちょっと…引っ掛かりあるみたい」
「うん…ふたりは過去の旅の事を気に病んでるんだ。一緒に旅した私の父さんを…死の運命から守れなかったって」
「そっか…すごく大事な仲間だったんだな」
キアランと同じく、ザックスも気遣いの声をくれる。
ブラスカさんは大事な仲間。
掛けがえのない、大切な。
だからあたしは少しだけ笑みを浮かべて頷いた。
今、アーロンは別の仲間たちのところで話している。
あたしは、ユウナとキマリと一緒にその場を離れ、気落ちしているジェクトさんとアーロンの事について皆にも話を聞いてもらっていた。
「ナマエも、前より気落ちしてしまっているね」
「ああ、大丈夫か?俺たちで良ければ話聞くぞ?」
「ありがと…。うん、あたし自身は、元気だよ。大丈夫。でもまあ…ごめん、ちょっとね、ちらっとダメな考え方、過っちゃって」
「ダメな考え方クポ?」
話を聞くと言ってくれたキアランとザックス。
そして背丈の小さなティナたちの世界のモグがひょこっと顔を覗き込んでくれる。
あたしは苦笑いし、少し聞いてもらうことにした。
「あたしは、アーロンやジェクトさん、ユウナのお父さんと一緒に旅させてもらってた。でも、最後までは一緒に行けなかった。それさ、実は結構な後悔なんだよね…。まあ、いたところで、何もできなかったと思うけど…。でも、ただ、一緒にいたかったんだ…。だから一緒にいられる今、力になりたいって思った。それはアーロンとジェクトさんにも伝えた。傍にいて、支えるって…決めた。そうやってずっと思ってる。でも…結局、あの瞬間に傍にいられなかったあたしには、寄り添うなんて出来ないんじゃないかって…」
「そんなことはない。アーロンもジェクトもナマエに励まされている」
「…うん。ありがと、キマリ。ごめん、わかってるんだ。だから言ったの。ダメな考えだって。この考え方はダメだって、わかってる。でも、あはは…過っちゃって…」
すぐに否定してくれたキマリ。
あたしは苦笑いしながらお礼を言った。
そう。わかってる。この考え方が正解じゃないこと。
アーロンも、感謝してるって言ってくれた。
でも、寄り添いきれないんじゃないかって…そんなこと、考えちゃって。
「傍にいて、支えるって決めたけど…ううん、ずっと思ってるけど…なんか、自分のちっぽけさを痛感するよ…。力不足でさ…」
「ナマエ…ううん、そんなことないよ…。ナマエがいたから、アーロンさんとジェクトさんに私たちが託されたこと大切にしてるって伝えられたよ。…それに私こそ、全然ダメで…。どんなに言葉を尽くしても届かないのは私が父さんより頼りないからかな…」
「ユウナ…」
ユウナも俯いてしまった。
ユウナも何度も声を掛けた。
でも、ふたりの気持ちが晴れることはない。
自分は父のようにはなれないと、自信を無くしてしまう。
「言葉は届いている。ただ、受け入れられないだけ」
すると落ち込むあたしとユウナにキマリがそう言った。
あたしたちは顔を上げてキマリを見る。
ユウナは首を傾げた。
「キマリ、わかるの?」
「ロンゾ族はシーモアに皆殺しにされた。生き残ったアーロンの心、キマリにはわかる。許されることは仲間を忘れる事…そう錯覚してしまう」
そうか…。
ガガゼトを進んだ時、ロンゾ族は…。
残された者の気持ち…。
それを聞いたモグやシャドウも同意する。
「その気持ち、ちょっとだけわかるような気がするクポ。皆の事が大好きだからこそ、自分だけ進むのは申し訳ないクポ」
「自責の念に駆られ、影が付いて回るのかもしれんな」
ケフカの暴走でキマリと同じような経験をしているモグ。
シャドウも、仲間を失うということには覚えがある…か。
その答えにユウナは更に悲しそうな顔をする。
「そんな…!アーロンさんは私たちを導いてくれて、一緒に戦ってくれた仲間です。アーロンさんがキマリに託してくれたから私はスピラを開放できたんだよ」
「…ユウナの言いたいことは、わかる。キマリもアーロンにユウナと言う生きがいを貰った。アーロンもわかっているはず」
「うん…。あたしも、言葉は届いてるとは思うんだよね。それは、思うんだ…」
「じゃあ…!」
言葉は、届いてる。
あたしたちの気持ちや想いは、ちゃんと伝わってるよ。
だけど…。
キマリはユウナに首を横に振った。
「だが、アーロンの心に決着がつかなければ、キマリたちの言葉は無意味だ」
「だったら私たちは…ただ見守るしかないの?」
「アーロンを許せるのはたったひとり。きっと、ジェクトも同じ」
アーロンとジェクトさんの心のモヤ。
限りなく確信に近くても、想像するしか出来ないその気持ちを確かなものに変えられるのは…ひとりだけ。
「…ユウナの父親だな」
シャドウがその核心に触れた。
キマリも頷く。
「アーロンたちは対等に、強い絆で結ばれた仲間。誰も、立ち入ることは出来ない。でも、ナマエはその仲間。もっと自信をもっていいとキマリは思う」
「キマリ…」
「アーロンにとっては、ナマエ以上に力になれる者もいない」
「……うん」
キマリのこれは本心だろう。
彼は、嘘の慰めはしないから。
強い絆で結ばれた仲間…。
そして、一番アーロンの力になれるのは、あたし…。
…自惚れても、良いかな?
「ナマエ、ユウナ、諦めんなよ…きっと何か、出来ることはあるって!」
「そうだね。君たちは彼らにとって掛けがえのない子なんだ。だから…希望を探し続けよう。いつか皆で笑えるように」
「うん…私、やめない。アーロンさんのこともジェクトさんのことも、絶対に諦めないよ…!ね、ナマエ!」
またザックスとキアランに励まされ、ユウナは顔を上げて頷く。
そしてあたしの手を取ってくれた。
あたしもそれに応えるように頷いた。
「うん。出来る事、探そう。それに、傍にいて、一緒に考えたりしたい。抱えてるものも、一緒に持ちたい。そう決めてる。それは揺らがないから、頑張るよ」
うじうじしてごめん。
ていうかあたしまでうじうじしてどうすんだ!
そう思い直す様に、あたしもユウナの手を握り返した。
END