気持ちを表す言葉


異世界の塔の中、アーロンとの再会を果たしたあたしたち。
再会直後に現れたウルフラマイターを無事に退け、今改めてアーロンと言葉を交わす時間を設けていた。





「本当に見ているだけだったな。そっちの世界では名のある人なのか」

「ああ、伝説のガードって奴だ」





宣言通り、本当に手を貸してくれなかったアーロン。

その姿に妙な感心を覚えているフリオニール。
そんな彼をはじめとした皆にワッカやユウナがスピラにおいてのアーロンの肩書を説明をしていた。





「ガードって確か…旅の召喚士を守るって言う?」

「そう。そんで召喚士は世界を救うんだ。アーロンさんにはその経験があんだよ」

「アーロンさんは私のお父さんと旅してシンを倒したことがあるの」

「ええと、つまり…そのシンってのを倒したから伝説になったって事なのか?」

「…そういう事らしいッス」





スピラの住人ではないティーダにとってアーロンの伝説の肩書はいまだにピンとはこないものであろうか。
そんな反応ややり取りを見てるのは純粋に面白い。

だけどあたしはそうして話される様子をぼんやりと聞きつつ、じっとアーロンの姿を見ていた。

ああ、本当にアーロンだ。

今、そこにある確かに瞳に映ってるよく見知ったその姿。
再会出来たその姿を見ては、あたしは何度もそんなことを思ってた。





「ちなみにね、ナマエもその時一緒に旅してたガードなんだよ」





そんな時、ユウナが微笑みながらそんなことを口にした。
その言葉にぱっと自分に注目が集まった事に気が付く。

おおっと、あたし?

あたしはぼんやりしていた頭を呼び戻した。





「そうなのか?じゃあ、ナマエも伝説ってことか」

「いやいやいや、あたしは別にそんな大層なものじゃないんだよ、フリオニール」

「謙遜してるのか?」

「そうじゃなくて、あたしはその旅、途中までしかしてないから。あたしはシン、倒してないんだ」





そう。あたしの旅は目的地であるザナルカンド遺跡に辿りつく前に終わってしまった。

それでも大召喚士のガードを務めたというのはスピラにとっては大きな事だから、伝説なんて大層な肩書がひとり歩きして物凄いよいしょされちゃってたりしたわけだけど。





「なかなかの戦いぶりだった。腕を上げたな」

「そんな、私の力なんて…まだまだです。皆の力があったから私はここまで来れたんです」

「ふっ、素直に喜んでいい。ガードの数は信頼できる物の数と同じなんだろ?ガードの強さはお前自身の強さだ。もっと胸を張れ」

「は、はい!ありがとうございます!」





あたしがフリオニールにそう説明をしていれば、その時アーロンはユウナの事を褒めていた。
その言葉は同時に、共に戦った者たちにも掛かる言葉。





「俺たちも褒めて貰えたな」

「素直に喜ぶんだな、フリオニールって」

「良いじゃないか。伝説と呼ばれるほどの手練れが仲間たちを褒めてくれたんだから」

「…フリオニールは意外なところで素直と言うか、純真だよなあ」





言葉を素直に受け止め喜ぶフリオニールにティーダやワッカが笑う。

まあ、アーロンに褒められるってのは…こう、確かに嬉しい事ではあると思うけどね。
伝説と呼ばれるほどの手練れ…というか、実際に腕が立つのは確かだし、そういう嘘は言わない人だから。





「あの、アーロンさん。もしよろしければ、私達と一緒に…」





そして、ユウナはアーロンに旅について来ては貰えないかと頼んでいた。

さっきは手伝ってくれなかったアーロン。
だけど、今度は特に何もなくすんなりと頷いてくれた。





「無論、そのつもりだ。この先敵も強さを増していくだろう。俺は再びガードとしてお前を護衛する」





あ、来てくれるんだ。
その言葉を聞いてそんな事を思う。

多分普通に嬉しいって感じたと思う。





「伝説のガードか…。伝説とまで呼ばれるほどの実力とは…?」

「…世界の理が違えば伝説など無力なものだ。俺がいるからといって気を抜くな」

「…世界が変われば肩書きは関係ないか。それも当然の理だな」

「ああ、そうだ。それに強さとはひとりの肩書きや力だけでどうかなるものでは無い」





アーロンの加入が決まった直後、なにやらアーロンとヴィンセントが事を難しそうに考えた話をしてた。
そんな空気が最も苦手であろうティーダはさっくとそこにシンプルさを持ってくる。





「ふたりとも何難しい顔してるッスか、ようは皆の力が大事って事!なっ?」

「…フッ、無邪気なものだ」

「まったくだ。何かと迷惑を掛けただろ?」

「なんで迷惑を掛ける前提なんだよ!」

「こいつの目付け役も兼ねて、これからよろしく頼む」

「フッ…こちらこそよろしく頼む。あんたもにぎやかなのに振り回されて苦労してそうだな…」




挨拶を交わすアーロンとヴィンセント。ふたりは気が合うのだろうか。
赤繋がり…いや、関係ないな。普通に年長組だからってとこだろう。

まあ、何だかんだティーダが入った事で空気が軽くなった気がする。
そんな風に弾みだす会話たち。

でもあたしはそこに何か言葉を発する事無く、またぼんやり聞くに留めていた。

いや、話自体は聞いてるよ。
だからさっきだってちゃんと自分に話が振られた時は反応したし。

今だって別に笑ったりはしてる。

でも、こう…なんだろう。
ちょっと頭の隅っこで別の事を考えてる、言うなればそんな感じだ。

ひとまず、会話はこの辺りで一端の区切りを見せた。
皆が足を動かし始め、ぞろぞろと先を歩き出す。

あたしは、ちょっとだけ足を止めていた。
そしてそれはもうひとり。

そのもうひとりは、こちらへと振り返ってあたしをその目に映した。

多分、ここに来て初めてしっかり視線が交わった気がした。





「おっす…アーロン」





目があったから、あたしは軽く手を挙げてそのもうひとり…アーロンにそう言った。

するとアーロンはこちらへと歩み寄りあたしの目の前へと立った。
そして、いつものようにフッと笑った。





「随分と物静かだったじゃないか。普段やかましいお前にしては」

「失礼な!」





安定の、いつも通りの嫌味である。
あたしもいつも通りに言い返す。

そう…いつものままで、本当なんか懐かしさみたいなのが溢れてくる。

でも同時にぐるぐると何か纏まらないものが引っ掛かってる感じだ。





「どうかしたか。しおらしくなったわけでもあるまい」

「いや…その、なんていうか…ちょっと色々考えてたっていうか…」

「考え事か、何だ」

「う、うーん…」

「…何だ」





怪訝な顔された。
物凄く失礼な顔である。おっさんめ。

いやでもね、確かに自分でも煮えないなあ…とは思うんだ。

考え事の理由。
それは今、こうして目の前にアーロンがいるという事実だ。

あたしさ…アーロンに会えたらいいなって、それって本当に凄く思ってた。
で、いざこうして会えて…そうしてみたら、なんか上手な言葉が出てこなかった。

きっと、話したい事いっぱいあったと思うのに。

気持ちって伝えようとしたとき…それを表す言葉ってなかなかハマるの見つけるの難しいよな。





「アーロンもこっち来たんだね。ね、異世界だって。凄いよね」

「お前にとってはスピラも異世界だろう」

「あー…あはは、そうなんだけどね」





うぐう…考えすぎか?
なんかやっぱり言葉が変になるような。





「…でもさ、やっぱりビックリするよ。はじめてこの世界に飛ばされた時は周りにだーれもいなかったから、結構焦ったし」

「…お前はこの世界に来て、だいぶ経つか」

「んー、まあそこそこ?まあわりとすぐユウナとかワッカとか、ティーダにも再会出来たから良かったけどね」





また、考える。

今、心の奥から湧き上がる感情がある。
でも、それをなんて言葉にしたらいいのかよくわからなくて。





「ねえ、アーロン」

「なんだ」





呼んでみる。
すると、ちゃんと返事が返ってきた。

目の前にいるんだから当たり前だけど。

でも、その声を耳が捉えて傍にいるとまた実感する。

うん…やっぱり。
…そう、凄く嬉しいのだ。

そう感じたら、自然と小さく笑みが零れた。





「ううん。ふふっ…また、会えて嬉しいなって」





零れた笑みと共にそう伝える。

するとどうだろう。
サングラスの奥の瞳が少し見開かれたような。





「わっ…」





そして、頭に伸びてきた大きい手。
その手は雑に、でもどこか優しく頭をわしゃっと撫でてくれた。



END
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