はじまりの海が見える村


「わ!ビサイドだ!」





駆け出して、目の前の光景を見渡す。
さわ…と吹いた風は、潮の香りが混じってなんだか気持ちがいい。

アーロンと、ジェクトさんと。
しばらくの間、皆と別行動を取ることにしたあたしたちは、気が付くとスピラにあったひとつの村…ビサイド村によく似た場所に迷い込んでいた。





「んんー…いい潮風〜…」





あたしは腕を広げて、すうっ…とその空気を大きく吸い込んだ。

ビサイドはよく知った場所。
スフィアハンターになってからも、何度か足を運んだなあ。

本物じゃないとわかっていても、その光景にはホッとするものがある。

そうしてちょっとその空気に触れていると、ジェクトさんとアーロンの足音が近づいてきた。





「…こいつは驚いたな。お前らと旅で立ち寄ったちっぽけな村じゃねえか。なんでこんなとこが…」

「ビサイド村はユウナの育った土地だ」





あたしの隣に来て、辺りを見渡したジェクトさん。
そしてその疑問に答えるアーロン。





「すべてが終わったらここへ連れてくるようブラスカに頼まれてな」

「お前にか!?俺は聞いてねえぞ!」





ジェクトさんは驚いた。
そんな会話にあたしはふたりに向き直った。

ああ、そういえばジェクトさんはユウナがここで生活してたこと知らないよね。





「まあ、俺も自力では果たせずじまいでキマリに頼むことになったが…」

「へっ、あてにならねえのはどっちも一緒って事か」

「フッ…あいつには頭が上がらんな」





アーロンはキマリにユウナをビサイドに連れて行ってほしいと頼んだ。
キマリはその願いを聞き入れてくれたんだよね。

当時を思い出しているのか、アーロンはふっと小さく笑う。

でも、ここに思い入れがある人は他にもいる。
だからあたしはそのこともジェクトさんに話した。





「ユウナとキマリもですけど、ルールーとワッカの故郷でもありますよ。だから結構、皆にとっては思い入れの深い場所だと思います」

「へえ…あいつらのなあ」

「だからルールーとワッカはユウナを妹みたいに可愛がってるってわけです。送り届けたキマリも去ろうとしたらユウナに行かないで〜って泣きつかれちゃったらしくて、だからそのままユウナについて、ここで生活してたらしいですよ〜」

「なるほどねえ」





ユウナから聞いた話も織り交ぜたつつ話したあたしの説明に、ジェクトさんはふんふんと納得してくれた。
でもそんな中、村の景色を見たアーロンはぽつりと呟く。





「…ここで旅を終えていれば…そんなことにはならなかった」





暗い台詞。
思わずガクッとズッコケた。

あたしはバッとアーロンに振り向く。

折角明るい空気作ってたのに!!





「ちょっとちょっと!何でそういう…っ、マイナス思考禁止!!」





おいこの野郎と近づいてドスッと脇腹を殴った。
するとアーロンにしては珍しく「…すまん」と小さく返される。





「やめろって、思い出せば思い出すほど湿っぽくなるじゃねえか」





するとジェクトさんもやめろと言ってくれた。
…けど、ジェクトさんの方もまだもやもやとした気持ちは晴らせていないのが正直なところだった。





「気晴らしの手合わせじゃあどうにもならねえみたいでよ…」

「ジェクトさん…」





ジェクトさんの声も沈む。
いや…ここに来る間も、本当はずっと。

気を紛らわす様に、時折ふたりは剣を交わせていた。
でもその効果も薄く…。

アーロンはふう…と息をついた。





「…この世界が妨げているのだろう。ザナルカンドに続いてビサイド村の出現だ。何らかの意思すら感じるな」

「ああ。まるで目を逸らすなって言われてるみてえだ」





ザナルカンドが出現して、ふたりは後悔の記憶から気落ちした。

簡単なことじゃない。

でも、あの時の選択は決して無駄じゃなかった。
ティーダとユウナと、そんな思いをいっぱい伝えた。

向き合って、受け止めて、…迷う気持ちを断ち切った。

だけど、後悔の気持ちは拭い切れない。
心の奥底で引っかかって、もやもやとしたまま。

あたしは少しでも気持ちが切り替えられるように明るく話してはいるけれど。

でも、もっと根本的なところ…。
まだきっと、向き合わなきゃ解決出来ないものがあるのだろう。





「ガラフのじいさんも言ってたなあ…。気持ちに蓋をせず向き合えってよ。もしかしたら、今度こそその時が近づいてるのかもしれねえな」





ジェクトさんはそう言いながら後ろ頭を掻いた。

それを聞いたあたしとアーロンはぴくっと反応する。

ジェクトさんにはもうひとつ気がかりがある。
自分の中にある力のこと。

それがあたしたちが皆から離れて行動している一番の目的だ。





「ジェクトさん…」

「…暴れだしそうなのか」

「いや、分からねえ。だがその時が来ちまったら…頼むぜ、アーロン、ナマエちゃん」





ジェクトさんの中の力が暴走したら。
それを全力で止める目付け役。

あたしはアーロンと一緒に頷いた。





「もちろん。全力で止めます!」

「ああ。どんな手を使ってでも止めてやるさ」

「へへっ、心強いねえ…。んじゃ、進むとすっか。何があっても向き合えるようにな」





立ち止まっていても何も動かない。
だから再び、あたしたちは歩き出す。

舞台はビサイド村。
ここを呼び出したのは、いったい誰だろう。

なんにせよ、スピラが元となっている場所なら、アーロンの言う通りなんとなく気になる事はある。

少しだけ、気を引き締めて。
その足を動かし始めた。



END
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