自責の念にとらわれる


ブラスカさんがいたような気がする。
そう言って走り出したジェクトさんをあたしとアーロンも追いかけた。

もし、もしも本当にブラスカさんがいたとしたら…。

そんなことを考えながら走って、その先にあったもの…。
それは、誰かの手によってズタズタに破壊されていたビサイド村の街並みだった。





「うおっ!なんだこりゃ!」





先頭を走っていたジェクトさんがその光景に声を上げる。
すると、その声に反応したように返された声があった。





「親父!アーロン!」

「ナマエ!」

「あっ!ティーダ!ユウナ!皆も!」





そこには前にザナルカンドの地形で別れたティーダやユウナ、それにオニオンナイトたちの姿があった。

皆もここに来てたんだ!

思わぬ再会。でもあたしは嬉しくて、タッと駆け寄りユウナに抱き着いた。
するとユウナも抱きしめ返してくれて、「無事でよかった!」とふたりで喜んだ。





「なんでお前らがここに…ブラスカはどこ行ったんだ…?」





一方、追っていた人物がおらず、戸惑うジェクトさんはそう零す。

ブラスカ。
その名前を聞いたユウナは当然反応した。





「えっ…?父がいたんですか?ナマエ、父さんがいたの?」

「あ、いや…あたしは見てないんだけど、ジェクトさんが…」





少し体を離して、ユウナに聞かれる。
でもあたしは見たわけじゃないから何も答えられなかった。





「俺たちこっちから来たけど誰にも会わなかったよな…大丈夫かよ」





そんな様子を見たティーダは自分たちは誰を見てないことをジェクトさんに告げる。

確かに、もしも誰かがいたなら歩いてきた方向的にティーダたちが見かけてないのは変なんだよね。
多分挟むことになるはずだから。

…ということは、ジェクトさんの気のせい?

ジェクトさんもおかしいとはわかっているらしく、軽く後ろ頭を掻いていた。





「そうだよな…すまねえ。この村見たら余計に混乱しちまった」

「えっ?ジェクトとアーロン、それかナマエが召喚したんじゃないの?」





するとオニオンナイトがこの地形を召喚したのがあたしたちじゃないのかと尋ねてきた。

あれ。ユウナたちは心当たり無い感じなのかな?
でもそれはこちらも同じだ。





「俺たちにそこまでの思い入れはない。せいぜい旅の途中で立ち寄った程度だ」

「そうですよね…じゃあ、やっぱり私たちなのかな」





ユウナは「うーん…」と考え出した。
ビサイドに関しては自分たちの方が思い入れがあるという自覚はあるのだろう。





「そっか、ここはユウナちゃんが育った村だったな…」





そして、ジェクトさんは俯いた。





「もしかしたら、ブラスカと一緒に暮らす未来があったかもしれねえって事か…」

「えっ?」

「それなら、あんな過酷な旅に出る必要もなかった。…悪いことしちまったな」

「ジェ、ジェクトさん…!」






俯いて、自責の念を口にするジェクトさん。
あたしは慌てて声を掛けた。

すると何か察したらしいユウナも慌てて口を開く。





「あ、あの、ジェクトさん、私思うんです。旅の終わりが辛くて苦しくても…本当は楽しいこともあったんじゃないですか?だってスフィアにもそう映って…」

「フォローしてくれてありがとな。でもあの頃は何も知らなかったから能天気でいられただけだ。ユウナちゃんは真っ直ぐに育ったな。ブラスカに見せてやりたかったぜ」





旅の途中、たくさん笑った。
辛いこともあったけど、でも、いっぱい笑って旅…してたよ。

その様子は、幾度となくスフィアに記録した。
ユウナたちと旅をした時も、そのスフィアを見る機会があって…。





「それにしてもひっでぇ痕跡だな。ちっとあっちのほうも見てくらあ」

「ジェクトさん、待って…!」





ユウナが呼び止める声も聞かず、ジェクトさんはひとり走って行ってしまった。

様子がおかしい。
それは誰の目から見ても明らかだ。





「あいつ、変だよな…ちょっと行ってくる!」





そんな様子を見かねたティーダはジェクトさんのことを追いかけてくれた。
うん…今は、ティーダに任せるのがいいのかもしれない。

そうして追いかけていくその背を見ていると、アーロンもユウナに向かい頭を下げた。





「すまん、ユウナ。あいつに考え直させることは出来なかった」

「そんな、アーロンさんまで…」

「アーロン…」





あたしはユウナから離れ、アーロンの傍に駆け寄った。

アーロンも…少し、引きずってる。




「アーロン…。ブラスカさんは…」





言いかけて、止まる。

ブラスカさんは、ジェクトさんやアーロンに対して…恨むようか気持ち、持ってない。
それはわかる。でも、それは限りなく確信に近くても、想像にしか過ぎないのは確かで…あたしがいくら言葉を並べてもどうしようもない。





「よければこの場所について教えてくれるかな。思い入れがなくても、思い出はあるんでしょ?」





ちょっと重くなりつつある空気。
それを変える意味と、事情がわからないんじゃ何もできないからとオニオンナイトがそう聞いてきてくれた。

アーロンは頷き、答える。





「ああ。ここはブラスカが俺にユウナの事を頼んだ村でな。あの時の頼みを聞かなければユウナを思って引き返してくれたかも…と考えることはある」

「そういう思い出か…。なら、呼び出したのはふたりじゃなさそうだ。ナマエも違うんだよね?」

「うん…あたしはユウナやパインとまた少し別の思い出があったりするけど、でも思い入れってなるとやっぱり弱いかな」





ビサイドはユウナが召喚士になった場所でもある。
つまり、召喚士ユウナが旅だった場所。

でも、あたしやアーロンはその時はまだユウナのガードじゃなかったから。

アーロンにとっては、ブラスカさんにユウナのことを託された場所…か。

旅の中のスフィアに映っていた。
ブラスカさんに頼まれたアーロンは「お任せください」とすぐにその願いを聞き入れていた。

でも、それすら今は引っ掛かりに変わってしまっているのだろうか…。





「だけど、とっくに覚悟を固めた旅なんだろ?アーロンが拒んだところで引き返したかな」

「フッ…違いない。外野の方がよく見えるか。確かにあいつは頑固だった。石頭の俺よりもずっと。だからこそ世界の為に殉じることが出来たんだろうな」





話を聞いたバッツに指摘されると、アーロンは小さく笑った。

きっと拒んだとしても、ブラスカさんは旅をやめなかっただろう。
あたしもそう思うし、アーロン自身もそう思ったみたいだ。





「ねえ、アーロン…」

「ああ…少し待ったら、俺たちもジェクトの様子を見に行くか」

「…うん」





声を掛けたら、そう返された。

ティーダと少し話したら、ジェクトさんの気持ちも少し落ち着くだろうか。

…アーロンは。

アーロンも、凄く引っかかってる。
遺されたアーロンは、もっともっと何か出来ることがあったんじゃないかと自責の念にとらわれる。

あたしは、そんなアーロンの傍にいて、寄り添って、支えたいと願ったけど…。
ジェクトさんとブラスカさんの為にも…出来ることがあったらしたいって。

でも、結局は最後まで一緒にいたれなかったあたしに、そんなこと出来るのかな。

…あ、この考え方、きっとダメだ。
そう気が付くけれど、でも…ちらりと、そんなことを思ってしまったのは事実だった。




END
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