あやふやな思い出


「改めて言う必要もないかもしれないけど…光の羅針盤は僕たちにとってすごく重要なものなんだ」





少し、静かな場所。
そんなところに移動し、オニオンナイトはクラウドとあたしに向き合う。

彼はふと、クラウドとあたしに声を掛けてきたのだ。
「ねえ、ふたりとも。ちょっと話せないかな」なんて。

そう言われて断る理由は特にない。
だからあたしたちは頷き、少し3人で話す時間を設けることになった。





「そうだな…クラウドとナマエは、その光を託してくれた光の戦士の事を覚えてる?」





オニオンナイトに聞かれた質問。

光の戦士の事を覚えているか。

それを聞いたあたしとクラウドは顔を合わせた。
多分、思ってることは同じ。





「光の戦士は、あんたのことじゃないのか」

「うん。託してくれたっていうのはわからないけど、光の戦士は君だよね?」

「…クラウドとナマエの記憶も書き換わってるみたいだね」





あたしたちの答えにオニオンナイトは少しだけ寂しそうな顔をした。

光の戦士…。
その肩書を持っているのは、あたしたちは今目の前にいる彼だと認識している。

彼を中心とし、今までこの異世界で旅をしてきたから。

でも、違うの?





「それじゃ、光の羅針盤から何か感じなかった?」





するとオニオンナイトは質問を変え、そう尋ねてきた。

光の羅針盤から感じたもの…。

聞かれて、ふたりで考える。
あたしは光の羅針盤を取り出して、じっと見つめた。

あたしは、これを初めて見た時…あたたかいと思った。
なんだかホッと出来る、不思議な光。

するとクラウドは、持っていた時のことを思い出して、ぽつりぽつりと口にした。





「懐かしい…光だと思った。いつか、どこかで見たような…」

「あ、それわかるかも」

「…ナマエもか?」

「うん。今見てても、そう感じるよ。あたしはホッとできると思った。なんだろう…誰かの優しい意思みたいなもの、感じる気がして」

「ああ…」

「だからはぐれてひとりでいた時も、そんなに不安とか無かったんだ。勿論クラウドと会えた時は嬉しかったけど。でも、落ち着いていられた感じ?」

「そうか」

「うん、でもそっか、懐かしいか…。うん、そうだね、これ、懐かしいだ!」





クラウドが言う、懐かしいという感情。
それはあたしも理解出来た。

するとそれを聞いていたオニオンナイトはさっきとは対照的に嬉しそうに小さな笑みを浮かべた。





「その懐かしさの正体が、僕じゃない光の戦士の思い出さ。あの人は今、孤独な戦いに身を投じてる」

「それってもしかして、さっき言ってたあたしたちが忘れ去った戦士って言うやつ?」





さっき再会してすぐの時、話していて引っかかったこと。
ライトニングが言っていた、「私たちが忘れ去った戦士」と言う言葉。

もっとも、ライトニングも覚えていないみたいなんだけど。

オニオンナイトは頷いた。





「うん。そうだよ。彼を救い出すためには、すべての光の羅針盤が必要なんだ」

「そっか、すべての羅針盤が揃った時に指し示される場所って、さっき言ってたもんね」

「奪われた俺の分も含めてか…。元から奪い返すつもりだったが、理由がひとつ増えたな」





クラウドは光を失った手のひらを見つめ、ぎゅっと悔しそうに握る。

そうしていると、そこにプリッシュがやってきた。





「お?説教か?」

「説教なんて大したことじゃないよ。ただちょっと、光の羅針盤について話してただけさ」

「あいつのところへ行くための話だな」





プリッシュはニカッと笑う。

プリッシュも、その光の戦士のことは覚えているのだという。
皆が忘れてしまった光の戦士を、オニオンナイトとプリッシュだけが覚えている。





「ま、難しく考える必要はねぇよ。最初から取り返すつもりなんだろ?」

「もちろんだ。セフィロスの好きにはさせない…!」





クラウドは力強く頷いた。
失ったことに落ち込んでいたクラウドだけど、取り戻すことに迷いはない。





「うん、手伝うよ!」

「ああ、…ありがとう」





だからあたしも力になることを約束する。
もう何度だって言ってるけどさ。ううん、何度だって言うよ。

そうすれば、クラウドも少し表情を柔らかくして微笑んでくれるから。





「セフィロス…か。あいつ羅針盤を奪って何がしたいんだろうな?」

「仲間を指し示す特性はセフィロスには適用されないだろうしね」





そしてオニオンナイトとプリッシュはセフィロスが光の羅針盤を奪った理由を考え出した。

あたしたちも考えはしたけど、どうもハッキリとしない。
オニオンナイトたちの方が状況には詳しいから、何か心当たりはあるだろうか。

そうして考え込むふたりと見ていたけど、やっぱりふたりも確証は持てなさそうだ。





「考えられるのは記憶の断片…。確かクラウドやナマエたちはまだ元の世界の記憶を取り戻してなかったよな?」

「ああ。ザックス以外はまだだ。曖昧なところがいくつもある」

「そーだねえ。タークスとか見ててもあたしたちより記憶あるみたいだしね」

「その記憶の断片に、セフィロスが接触してるかもしれないぜ」





プリッシュに言われる。
記憶の断片にセフィロスが接触している…。

オニオンナイトは気重そうに首を振った。





「もしそうなら、話がややこしくなるね。記憶の断片が何だかわかったら、セフィロスが無事に済ますとは思えない」

「俺たちの思い出だ。あいつが一番嫌うものだろう」

「思い出せないその穴につけ込んでくるような感じ。ことクラウドに関しては特にね」





思い出の穴に刃を入れて、更に切り裂くような。

セフィロスは、そういう隙に付け入る。
だから想いによる強さとか、きっと煩わしいと思ってる。

正直、目的が何なのかはわからない。
でも記憶の断片がセフィロスの手に渡っていいことはひとつもない。

急いだほうがいいと、皆で頷き合った。





「そうと決まりゃ、行こうぜ!羅針盤同士は引かれ合うんだ。俺たちの羅針盤がクラウドのを見つけてくれる」

「頼るしかなくて情けないが…よろしく頼む」





羅針盤を手にし、行こうというプリッシュ。
その様子にクラウドは、オニオンナイトやあたしも含め、頼むと頭を軽く下げた。

あたしは笑った。





「任せてって!どーんと頼っちゃってね!」

「ふっ…ああ。頼りにしてる」





ドンと胸を叩いて満面の笑みで。
するとクラウドのもふっと表情をやわらげ、小さな笑みを零してくれた。





「ふふふー、クラウドに頼られるってなかなか気分いいぞー♪」

「…変な奴だな」

「何とでもお言いなさいな〜」





それじゃあ戻ろうと、合流すべく皆の方へと歩き出す。

クラウドと肩を並べて歩く。
そんな些細な事もあたしは嬉しいのですよ。





「でも記憶か〜、早く取り戻せたらいいね」

「ああ…そうだな。必ず」

「うん」





記憶の断片。
失った記憶は、どんなものだろう。

ザックスの時みたく、生易しいものではない可能性もあるのかな。

でも、他の世界の皆も含め、取り戻して受け入れる様を何度も見た。
きっと、忘れたままでいたくないものも、あるはずなんだ。

…話に聞いた、忘れ去ってしまった戦士のように。





「失った記憶、かあ…」





ぽつ、と呟いてみる。

そういえば、取り戻した記憶の中…例えば未来では、クラウドと一緒にいられるのかな?

今はこうして、笑って隣を歩ける、そんな距離にいるけれど…。

いや…。
考えれば、それもなんとなく少し曖昧なのかもしれない。

あたしは、クラウドの事が大好き。
それこそ旅に出る前…ミッドガルにいるときから。

そして、信じてる。揺らぐことなく。
空虚じゃない。あたしは、あたしの見てるクラウドを信じてるよ。

それは、なにより大切にしようと思ったこと。

あたしはそれを手放してない。失ってはいなかった。
だからあたしは今、ちゃんと前を向いて歩けてる気がする。

…クラウドも、良く思ってくれてるのは…わかるよ。

名前を呼ぶと、優しく振り向いてくれる。
何だ、ってこっちに来てくれる。気に掛けて、構ってくれる。

いつだって手を伸ばして、助けてくれる。

信頼、してくれてる。

…お互いに、大切に思えてるのは…わかる。

でも…。
それは色々と積み重ねて、築いたもの、だよね…。

その積み重ねた思い出が…今はちょっと、あやふやなのかもしれない。





「…なあ、ナマエ」

「ん?」





そんな時、クラウドに声を掛けられた。
あたしは「なーに?」と彼を見上げる。

するとクラウドは、なにか聞きづらそうな…少し思い戸惑う様な顔でこちらを見ていた。





「あんたは…俺のこと、」

「え?」

「……いや、何でもない」

「はい?」





クラウドは何か言いかけて、でも何も言わなかった。
何?って聞き返しても、ゆるやかに首を振るだけ。





「悪い。やっぱり、いい」

「いいとは?」

「い、いいんだ、今は」

「んん?今は?」

「あ、ああ…気にするな」

「ええー…なんじゃそれー。まあ、いいけどさあ…」





言いかけてやめて、気にはなる。

でも、そのうち話してくれるのかな?

まあとりあえずは引けば、クラウドは軽く微笑んだ。
あ、優しい顔。

う…きゅんとした。
惚れた弱みぃ〜…弱いんだってば、もう。

まあ、こんなダラダラしてる場合じゃないのは確かだ。





「んー、じゃあまあ、クラウド。急ご?」

「ああ」





こうして、あたしたちは皆の元へと向かう足を速めた。



END
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