助ける、頼って、その代わり


「クックックッ…当たりだ」





背後から低い声がした。
それは聞いただけでぞくりと背筋が強張る笑い声。

あたしたちは知っている。

その声の脅威を、なによりも。

だから咄嗟に、その場にいる全員で振り返った。





「セフィロス!?」





ザックスがその場に現れたその人の名を叫ぶ。

振り返った先にあった長い銀髪。
ザックスたちとの再会を喜ぶあたしたちの前に、セフィロスは突然現れた。





「…クラウド。その光はお前には過ぎた玩具だ。こちらに渡せ」

「誰がお前に渡すか!」





セフィロスはクラウドを見て光の羅針盤を渡せと言った。
勿論クラウドは拒否して剣を構える。

それに合わせてあたしたちも皆で武器を構えた。

だけど、少し気になった。
セフィロスは、光の羅針盤を欲してる…?

一体何のために?





「おいおい!問答無用で襲ってくるのかよ!」





長刀正宗。
それを構えたセフィロスにザックスが皆を庇う様に前に出てくれる。

でも相変わらず、セフィロスの視線はクラウドを捉えていた。





「お前に私以外の導きなど必要ない…。導きの光は、私の手にあるものだ」

「何を言っている!?」

「耳を貸すな、クラウド!どうせろくでもないことを考えてるに決まってる!戦いに集中しろ!ナマエ、ちょっと手貸してくれ!」

「わかった!ザックス!」





ザックスに呼ばれたあたしは前に出ている彼の傍に寄り、剣に魔力を込めた。

何回か試した連携技。
あたしが剣を振るうと、その魔力は斬撃となって放たれる。





「クラウド!行くぞ!」

「任せろ!」





それに合わせてクラウドとザックスが飛び込み、セフィロスに向かって剣を振り下ろした。





「クックックッ…」





セフィロスはあたしの斬撃を避けると、振り下ろされたふたつの大剣を正宗一つで弾いた。

パワーも勿論だけど、重心…いなし方…何をとっても完璧に等しい。
相変わらず、なんて戦闘能力だ…。





「くそっ、まだまだ余裕って面しやがって!」





ザックスはクラウドと共に距離を取りながらそう言ってセフィロスを睨む。
ふたり掛かりで飛び掛かってもその表情は崩せない。

そしてセフィロスは再び、クラウドの瞳を刺すように見つめた。





「お前からは奪えない。奪うのは…こちらだ」

「何の話だ!?」

「クラウド…お前は私の人形だ。羅針盤を渡せ。人形には不釣り合いな代物だ」





一直線に、クラウドを射抜く瞳。
それを見ていると、クラウドの瞳は揺れる。

ぐらりと、クラウドは頭を押さえた。





「う…あ…やめろ…これは、大切な…」

「大切なものほど私に渡したくなる。お前はそう作られている」





セフィロスは薄い笑みを浮かべたままクラウドのことを好き勝手言う。

その物言いには腹が立ってくる。
だからあたしはエアリスと一緒にセフィロスに言い返した。





「ふざけんな!クラウドは人形じゃない!好き勝手言うの、許さないから!」

「つくりものみたいな言い方、やめて!」

「つくりものだ。欠陥だらけの、しかし忠実なつくりもの」





でもセフィロスはそんな声もあざ笑う。
そしてクラウドに向かい手を差し出した。





「さあ…渡せ」

「…渡して、たまるか…」

「渡すんだ」

「…、ううっ…」





クラウドは頭を押さえて拒否する。
でも、セフィロスの声には抗えないみたいに…光の羅針盤を手渡してしまう。





「クラウド!」

「クラウドっ!」





また、エアリスと一緒に呼びかける。
その瞬間クラウドはがくりとその場に膝をついた。

セフィロスの手の中には、光の羅針盤が煌めいている。





「光の羅針盤がセフィロスに…どうなっちゃうの?」

「返せ!今すぐにだ!その光はお前が持っていていいものじゃない!」





狼狽えるティファ。
ザックスはその不安も掻き消す様にセフィロスに怒鳴る。

セフィロスは手にした光の羅針盤を満足そうに見つめていた。





「世界を渡る道標。有効に使わせてもらおう」

「待てっ!逃げ足の速い奴…!」





ザックスはセフィロスに向かっていこうとした。
でもセフィロスの方はもう用は済んだとでも言う様にサッとその場から一瞬で消えてしまった。

逃げられた…。

あたしは膝をついているクラウドの傍に駆け寄ってしゃがんだ。





「クラウド、大丈夫?」

「う…、ナマエ…俺は」

「大丈夫。とりあえず、具合は?平気?立てる?」

「ああ…」





あたしはクラウドの腕に触れて、支えるようにして一緒に立ち上がった。

うん、一応は支えたけど、でも大丈夫そう。
顔色も悪くなさそうだし。

あたしは「よしっ」と笑った。
でもクラウドはそんなあたしの笑みを見て、しゅん…と目を伏せた。





「無くしちゃいけない大切なものだった。それを、俺はみすみす…!」





ぐっと苦い顔をして、握った手を震わせるクラウド。

あー…うーん。
まあ、気にはしちゃうよなあ…とは思った。

でも別に、それをどうこう言うなんてことはない。

だって悪いのはクラウドじゃない。
セフィロスだもん。





「奪われたなら、奪い返せばいい。幸い、俺とナマエの分の羅針盤がまだ残ってる。一緒に行動していれば、仲間にもまた会えるさ」

「うんうん!大丈夫大丈夫!一緒にいるもん!皆の事は探せるし、べっつにそこまで気にすることもないでしょ!」





ザックスと一緒にクラウドを励ました。
励ましたっていうか、別にここからどうとでもなるよっていう事実確認?

するとそれを見たエアリスはくすっと笑った。





「ナマエとザックスがいて、助かったね」





その笑みからも、気にしなくていいよという空気は伝わる。
そこからは、じゃあ何でセフィロスは光の羅針盤を欲したのかという話になった。





「世界を渡る道標ってセフィロスは言っていたけど…仲間を指し示すほかにそんな機能があるのかな?」

「わからない。けどどうせろくな使い道じゃない。今のセフィロスは何を考えてるかわからないしな」





ティファがさっきセフィロスが言っていたことと振り返ると、ザックスはやれやれと首を振る。

世界を渡る…。
まあセフィロスとしては仲間を探せる機能とかどうでもいいだろうし。

すると、それを聞いていたクラウドはまたズン…とひとり落ち込んでいた。





「俺は…そんな大切なものを…」

「過ぎたことをと悔やんでも仕方ないぜ。奪い返せばいいって言ってるだろ?当面は俺とナマエの羅針盤もあるし、困ったら頼れよな」

「そうそう!まっかせといてよ!まだ出来ることはあるんだし、ね!」





もう一度、ザックスと声を掛ける。

光の羅針盤は、まだこちらの手元にもある。

光はまた新たに仲間たちの居場所を示してる。
仲間が集まれば、セフィロスと戦うにしても心強い。

そう話していれば、クラウドも顔を上げてくれた。





「ああ、そうだな…。光の羅針盤を奪い返す。ナマエとザックスの羅針盤を使って仲間も集める。当面の目的は定まった。動けるよ」

「おし!その意気だ!そうと決まれば、元気にいこうぜ!」





動けると言ったクラウドにザックスは頷いて拳を突き上げた。
こうしてあたしたちはまた光の羅針盤を使い、その指し示す方へ歩き出した。





「はあ…」

「あ。まーた溜め息ついてる」





歩き出すと、クラウドがまた溜め息をついているのを聞いた。
あたしは光の羅針盤を手にしたまま、クラウドに振り返る。





「…悪い、ナマエ」

「だーからそんなに気にしなくて大丈夫だってば!悪いのはセフィロスなの!クラウドじゃないの!」

「…ああ」





クラウドはやっぱり責任を感じてる様子。

でも悪いのは絶対セフィロス。
その辺わかってますかー、クラウドさーん。

まあ、手渡してしまったっていうのはあるから、そりゃわかるけどね。

うーむ。でも、それならば。
落ち込むクラウドに、あたしは少し、考えた。





「ま、別に皆も気にしてないけど…よし、じゃあ考え方変えよう。あたしには、迷惑かけていいよ!」

「…え?」

「あたし、クラウドと別行動する気もない。一緒にいられるなら一緒にいたい。傍にいて、あたしがクラウドに出来ることはなんだって力になる。光の羅針盤のことも頼って。その代わり、」

「その代わり…?」

「あたしも迷惑かけるから。クラウドも助けて。頼らせて」

「え…」





そう言って、にっこり笑う。
するとクラウドは少しだけ目を丸くしてた。





「あははー、まあでもそれって今までもずっとそうだけどね。あたし、クラウドに何度も助けてもらってるし、頼りにもしてる。迷惑いっぱいかけてるよ!だから、クラウドが困ってたら、あたしも助けるよ」

「……ナマエ」





落ち着きなくて、突っ走って。
振り返って数えたら大変なことになる。

いや、はい…その辺の自覚はあるんですよ、まあ…。

でもそうやって困ってたら、クラウドはいつも助けてくれる。
だからこっちだって助けるの。

ね!と、そうしてまた笑みを向ける。
するとクラウドもそこでやっと笑みをこぼしてくれた。





「…俺の方が、いつも助けられてるけどな」

「え?」

「いや…。ああ、わかった。ナマエが辛いときは、必ず力になるよ」

「うん!よろしくお願いします!」





あたしが辛いとき、クラウドが力になってくれる。

わーい!
なんかむっちゃくちゃ嬉しい台詞頂いちゃったね!?

テンション最高潮。
ええ、あたしは今幸せです!

とっても幸せ噛み締めた。

まあでも、本当にそんな悲観しなくてもいいと思うわけ。
皆だってクラウドの味方だし。

こうしてあたしたちは散らばった仲間を探してセフィロスを追うべく、光の羅針盤の導く先へと向かった。



END
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