瞳に映る赤


神の創造する異世界。
モーグリに導かれ、旅を続けてきたあたしたち。

新たなる歪みを閉じる為、現在はカプタエストの塔という高い建物を上っているところ。

モーグリはあたしたちの強さにあわせて閉じられる歪みを選んでくれているという。
だから力が通用しないということは無いけれど、なかなか厄介な戦闘を強いられる事もしばしば。





「ふう…この塔の魔物もなかなか手強いね」





だから塔を途中、ユウナが少し疲れたように小さな溜息をついた。





「召喚士の修行にはうってつけだ。俺たちががっちりサポートするから安心しな」

「そうそう。ユウナの修行、全力でサポートしてやるからな!」

「うん。精一杯支えるよ〜」





ガードは召喚士の身も心も支えるのが務め。
だからワッカ、ティーダ、あたしは彼女にそう笑って声を掛ける。

勿論、ユウナがそう思える相手だからっていうのがあるからこそだけどね。





「頑張って、ユウナお姉ちゃん。僕も頑張るから!」

「ありがとう、みんな。私…強くなれてるのかな?」

「きっと大丈夫よ!エーコが応援してるんだもの」

「うん!ユウナお姉ちゃんがいると、僕凄く安心だよ!」





ユウナを慕うのはあたしたちだけではない。
接して人柄を知った子供たちにもユウナはよく懐かれている。

だからビビやエーコもユウナにいっぱいの笑顔を向けていた。

そうして皆でユウナに励ましの言葉を合わせていると、ビビはもうひとり、誰かに向かってその声の同意を求めた。





「ねえ、おじちゃんもそう思うでしょ?」

「…どうだかな」





ビビに答えた低い声。

え。

それを聞いた瞬間、あたしの頭にはその一文字が浮かんだ。

ビビは今どこを見てる。
自然と追ったその視線の先、映ったのは赤色の衣。

それが瞳に映った瞬間、あたしは目を丸くした。





「たはは…相変わらず辛口だなぁ、アーロンさんは…」

「まったくッス。そんなんだからアーロンは…」





なんか凄く見慣れた光景。
凄く見慣れた調子でそのおじさんに話してるワッカとティーダ。

物凄く気が付くのが遅い。
でもそこに来てはじめてふたりも違和感に気が付いて顔をギョッとさせた。





「……って!?いいい、いつからそこにッ!?」

「ついさっきだ」





気が付いてハッとしてテンパるワッカに何事も無いように返すその人。

少し白髪の混じった黒髪。片目の傷を隠す様に掛けられたサングラス。
真っ赤な衣に身を包むその男は、凄く、凄く良く知っている人だ。





「アーロン…」





そう、そこにいたのはアーロンだった。

皆に聞こえてたか、わからないくらいの声。
あたしは目を丸くしたまま、思わずその名前を呟いた。





「あわわっ…僕、知らないおじちゃんに話しかけてたんだ…」

「あ、あなた誰よ!?こんなに突然出てきてレディに失礼じゃない!エーコ、ビックリしたわ」





本当に突然現れたからビビとエーコも戸惑いを隠せていない様子。
話しかけていたわけだからビビにはちょっと今更だねえなんて思ったりもしたけどね。





「ビビ、エーコ、大丈夫ッスよ。知らない人じゃない。むしろ俺たちはよく知ってるんだ…」





慌てふためくふたりに慌ててフォローするティーダ。
ティーダがそう二人をなだめる中で、ユウナはニコリと笑顔を浮かべて嬉しそうにアーロンに頭を下げた。





「お久しぶりです、アーロンさん。またお会いできて嬉しいです」





そう言って頭を上げたユウナ。
でもアーロンはそんなユウナを見てはいないような。





「…再会を喜んでいる暇はなさそうだ。あそこを見ろ」





視線の先はあたしたちよりずっとずっと先。
アーロンは静かにそう言ってその先をすっと指差す。

え、と振り返ればビビが大きな悲鳴を上げた。





「わぁ!魔物だぁ!!」





あたしたちなどすっぽり隠す大きな大きな影。
アーロンに気を取られてまったく気が付かなかったけど、そこにいたのはウルフラマイター。

げえっ!と思った瞬間、エーコがその心情を代弁してくれた。





「もう!なんでみんな突然出てくるのかしら!出てくるなら出てくるって言いなさいよ!」





まったくだね!
と思いつつ、あたしはサッといつでも魔法が唱えられるように構える。

すると背後からアーロンがフッと小さく笑う声が聞こえた。





「ちょうどいい。ユウナ、ティーダ、お前たちの成長を見せてみろ」

「えっ…?」





いきなり試験の様なことを言い渡されたユウナは戸惑ってアーロンに振り返る。
それを見たワッカはヘッと軽く笑いユウナの肩をポンと叩いた。





「大丈夫だってユウナ!アーロンさんが加わってくれりゃ、こっちは怖いモン無しだ!」





確かにアーロンは強い。物凄く強い。頼りになる。
それは絶対的な事実だ。

あたしも、この戦闘はそんなに苦労しないであろうと漠然と思ってた。

でも、その考えは次のアーロンの一言でいとも簡単に崩れ去る。





「誰が加勢すると言った?」





はあっ!?
その一言にその場の全員が再びぎょっとアーロンに振り返った。





「…えええーっ!?ユウナの仲間なんでしょあなた!?少しはお手伝いしたらどうなの!?」

「俺はここで見極めさせてもらう。手助けは一切せんぞ」

「そ、そんなぁ!もしやられちゃったらどうするの?」

「その時はその時だ」





幼いエーコとビビにまでバッサリ。
おいおいおいおい…なんて思いつつ、でも何だか凄く懐かしい感覚を覚える。





「相変わらず厳しい人だぜ…。うっし、やるか!」

「アーロンに俺たちの力、見せつけてやるッス!」





多分ワッカやティーダも同じような感覚を覚えたのだろう。
ふたりは瞳を強気の色に変え、キッとウルフラマイターを睨む。

あたしも、再び視線をそちらへと戻してウルフラマイターを見上げた。





「ナマエ」

「…!」





すると、その時すぐ傍で名前を呼ばれた。
ふっと振り向けばすぐ後ろにあったアーロンの姿。

そしてトン…と大きな掌に背を叩かれた。





「背筋を伸ばせ」

「え…?」

「凛と前を見つめろ」

「…アーロン」





掛けられた言葉。そして、背を押される。
行ってこいって言ってるみたいに。

なんか、いざ目の前にしたら色んな感情が混ざり合って言葉が上手く出てこなかった。

でも、思った。

ああ、何だか心地いい。
そうしたら思わずふっと笑みが溢れた。





「了解!あたしの成長もよおっく見てなさいよね!」





手を掲げ、イメージするのは灼熱の炎。





「ファイガ!!!」





さぁいくよ。
あたしは始まりの鐘を鳴らすように、思いっきり炎を放った。



END
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