▼ これから少しずつ
「よし、ガンバルぞ!」
場所はゴールドソーサーの闘技場。
受付でそう意気込んだのは金髪のツンツン頭の男。
「…アンタ誰よ」
自分の隣に立つその彼に、あたしはぽかんとそう言った。
「え…。…クラウドだ」
「いや知ってるし。何真面目に答てんの」
「だってアンタ誰ってナマエが…」
少し戸惑いながらあたしの問いに馬鹿真面目に名乗ってきたこの男。
天然か。一体どんだけ一緒に旅してきたと思ってんだ。
軽く足に蹴りを入れてやると「イテッ…」なんて小さく反応した。
そんな反応を見てあたしはまた思う。
アンタ一体誰なのよ、と。
「…あたしの記憶では、アンタ前に此処に来たときは“たまには戦いを楽しむか”って言ってたのよ」
「そう、だったか?」
「そうだよ。うわ、コイツいけ好かないわ〜って思ったもん。超よく覚えてる」
「い、いけ好かない…」
なんか微妙にショックを受けているような顔をするクラウド。
お前…あの愛想で自分が好意的に見られるキャラだと思ってたのか。
いけ好かないなんて、バレットだってよく言ってたじゃないのさ。
でも、今目の前にいる彼はいけ好かないというか、そもそもそれ以前の問題だ。
「“よし、ガンバルぞ”。ってなによそれ。アンタ誰って話でしょ、どう考えても」
「ま、まあ…」
「なんて愛想が無くていけ好かないお兄ちゃんだコト。あたしがクラウドに抱いた最初の印象ってそんなもんだしね」
そう指摘すれば、彼は困ったように後ろ頭を掻いた。
ああ…そんな苦笑いも、ちょっと前までは見なかった顔だと思う。
そして彼はふと呟いた。
「でも、…そう考えると今よく付きあってくれてるよな」
「ん?」
あたしは彼に振り返り首を傾げた。
今いる場所、ゴールドソーサー闘技場。あたしは今クラウドとふたりでそこにいる。
目的は、この闘技場で稼いだポイントと交換することの出来る豪華絢爛の商品たちだ。
クラウドが狙いたいものがあると言い、じゃああたしも気になってるものがあるからここは協力しあおうじゃないかと。そんな風に話をして、ふたりで交互に闘技場に挑みポイントを稼ぎあっていると、そんな話である。
いわば、利害の一致?って仲間なんだし利害もクソも無いけど。
自分の狙ってるものは取れたからハイじゃあクラウド後はひとりで頑張って〜なんてねじ曲がった事だってしないぞあたしは。
付きあってくれてるとは一体何だ。
「どゆことよ?」
「いや、確かにいけ好かないというか、うまが合わなそうに思われてるような気はしていたかな…。さっきはあまりにストレートに言われたからちょっと驚いたけど。それに、こんな風にナマエとふたりで長く話したことも今までそんなに無かったし、何というか…」
「嫌ってると思ってた?」
「…結構ストレートだよな、あんた」
先に聞いてしまえば、クラウドは小さく苦笑した。
だってクラウド言い淀んでたし、まどろっこしいのは面倒だもの。
言葉を選ぼうとしてくれてたのはわかるけどね。
でも聞けたということは、それを打ち消す答えを持っているからだ。
「嫌ってなんかないよ。嫌いならそもそも近づかないし」
「…そうなのか?」
「そうだよ。ていうか、それ言われるとあたしの方が不安だわ。なにクラウド、あたしのこと苦手だった?」
「え?あ、いや、そんなことは無いが」
聞き返せば、クラウドは首を横に振ってくれた。
でも確かに言われてみれば、こうして長くふたりで話をしたこととかは無かったのかもしれない。
別に嫌っているわけではないけど、そんなに深く関わっても来なかったと言うか。まあ、こいつ格好つけだなとか捻くれてるなとかそういう印象があったのは確かだけど。
って、あたしがそんな風に思ってたからってのは多少あるのか…。
でも心の底から嫌っているなんてことは絶対に無かった。
「…クラウド、やっぱ変わったよね。いや変わったってよりは戻ったの方が正しいの?まあどっちでもいいか。いいじゃん、今は全然いけ好かなくないよ」
「それ、喜んでいいんだよな?」
「ふっ…ごめん。別に前から嫌ってなんか無かったよ」
こんな風に話していて、やっぱりどこか新鮮さを感じる。
改めて、共に旅をしていたのに今までこんな風にクラウドと話したことが無かったのだと気が付いた。
別に互いに嫌ってなどいない。
なのに、どこか少し距離があった。
「うーん…じゃあさクラウド、また一緒に来ようよ。ゴールドソーサー」
「え?」
「あたし、此処の景品気になってるのいっぱいあるの。本当は、今日一日頑張ったところでポイント全然足りないくらいね」
「そうなのか?」
「そ。欲張りなの、あたし。ね、だから手伝って。で、君の好きなものとかも教えなさいな」
「俺の好きなもの?」
「うん」
きっと、今更なのだ。
今までずっと一緒にいたのに。
だけど、今更だけど、なんだかもう少し知ってみたいなと。
すると、クラウドは微笑んだ。
それもまた、初めて見る君の顔。
「ああ。じゃあ、ナマエの事も、もっと教えてほしい」
「知りたいの?」
「…まあ」
「んふふ、そう言うなら教えてさしあげましょう」
「…ふっ、ははっ。ああ、ありがとう」
クラウドが声を出して笑った。
そんな様子にあたしも微笑み返す。
今更。だけど少しずつ。
この距離を縮めていきましょう。
END