▼ 届いた大きな手
「好きです!大好きです!」
そう言いながら差し出した右手。
目の前にいるのは私の心が好きだ好きだと騒ぐ私の愛しい想い人。
心臓がうるさい。これ以上ないほどにうるさい。
でもそれはきっと仕方の無い事だろう。
私は今、勇気を振り絞って大好きな告白をしていました。
「おお、そうか。ありがとう、俺も好きだぞ」
「………。」
ニカッと私の言葉に素敵な笑顔を返してくれた彼。
ああ、なんて素敵な笑顔でしょう。
そんな事を思っちゃうのは惚れた弱みと言うやつです。
だけどね、今はその反応に思う。
違う。そうじゃない。
私は変わらず笑顔を向けてくれている彼ことマッシュに首を振った。
「ありがとうマッシュ。でも違うの、そうじゃない」
「ん?」
「そんな軽くおう俺も〜みたいな感じじゃないのコレ」
「うん?」
首を傾げられた。
鍛え上げた大きな体の割に随分可愛らしい仕草をするじゃないのさ。
ああ、もう…折角勇気を振り絞ったと言うのになんてザマだ。
確かに彼は色々と豪快なところはある。
だけど情に厚い人だし、そんなに鈍感と言う事も無いだろうと思ったのだが…。
まあ、伝わってないならどのみちか…。
仕方ない。
ここまで来たら突き進めだ!
私はもう一度、きちんと伝えるべく彼にこの気持ちを丁寧に告げた。
「私、貴方のことが好きなの。ライクじゃなくてラブの方だよ。だから、もし可能性がある私となら付き合ってください!」
なんだか心はわりと落ち着いていた気がする。
マッシュのあの返しは良い感じに緊張を吹っ飛ばしてくれたようだ。
良いんだか悪いんだかよくわからないが、まあ良しと思っておこう。
それに本番はこの先だ。
気持ちを伝えた私は彼の反応を待つ。
じっと見上げた彼は目を丸くしていた。驚いたらしい。
そして、よそを指差し私にこう言った。
「兄貴なら向こうだぞ?」
「…わかってるわッ!」
マッシュが指差したのは彼の兄エドガーのいるであろう方。
確かに顔はそっくりだ。そりゃそうだよ双子だもん。
でもあんたのその体格と間違うわきゃないだろう!
あまりにボケをかますマッシュに流石に私も思わず手が出た。
ぺしいっと微妙な音を立てて引っ叩いた彼の腕。勿論彼はびくともしない。いやそんな力入れたわけでも無いけど。
だけど、此処までくれば流石に彼も察する。
マッシュはまた目を丸くした。そしてそのまま自分の顔を指差した。
「本当に俺に言ってるのか?」
「最初っからそのつもりだってば…」
心底驚いたような顔をするマッシュに、私の方はなんだかどっと疲れが襲ってきた。
まあいい。これでやっと伝わったなら。
最後の駄目押し。私はこれを見つめ、もう一度きちんと気持ちを言った。
「マッシュに言ってるよ。マッシュが好きです」
見つめたまま。
マッシュもじっとこっちを見てた。
やっと、本当に届いた。
そうしてやっと見えた本当の反応。
彼は少しはにかみ、そして指で頬を掻いた。
「そうか、正直驚いたな。そういう話題は俺より兄貴の方が向いてるからな」
「…まあ、それはわかるけどね」
「ははっ。でも、そうか。ありがとうな。そう言って貰えて嬉しく思うよ」
「…うん」
一旦落ち着いていた鼓動が再び動き出す。
ああ、告白したんだなとちょっと現実味を帯びてきたみたいに。
そんな私の緊張を彼も察したのだろうか。
するとマッシュはまた最初の様なニカッとした笑顔を私に見せてくれた。
「ああ、でもやっぱり最初の返事で間違ってなかったな」
「え?」
「俺も、ナマエのこと良いなと思ってたって事さ」
「へ!?」
笑顔のまま、さらっと言われた台詞。
思わず素っ頓狂な声が出た。
すると、マッシュはそんな私に声をあげて笑った。
「はははっ!ああ、可愛いな」
「かわっ…、……。」
「ははっ、まあ…じゃあ、これからよろしくな」
「…!」
手が差し出された。マッシュの大きな手。
私は少し戸惑いながら、そこに手を伸ばす。
届くと、その手はぎゅっと握りしめてくれた。
「…ありがとう」
私は、小さく笑って繋がったその手を見つめてそう呟いた。
想像してた。
触れたらどれくらい大きいだろうって。
でも、想像なんて塗り替える。
届いたその手は、夢よりとても大きかった。
END