▼ その掌に惹かれる
「わあ、綺麗!」
見上げた空に輝くたくさん星たち。
目に映るその美しい光景に私はたまらず声を上げた。
「ああ、こりゃ本当に綺麗だな!」
そして、すぐ傍で聞こえた声に振り返る。
そこには私と同じように空を見上げているバッツの姿。
私達は今、とある小さな丘にふたりで星を見に来ていた。
「なるほどなあ。これなら村で評判になるのも頷けるな」
「うん。ここまで綺麗に見えるとは思ってなかったね」
事の始まりは、立ち寄った村で聞いた村人たちの話だった。
その村は裏に丘があり、その上から見る星空は格段に綺麗だという。
それを聞いた瞬間、私の胸は興味で疼いた。そうまで言うなら見てみたい、と。
しかしそこに辿りつくまでにはそこそこの距離があり、また魔物も出るということからファリスなんかには「体を休めた方がいいんじゃないのか?」と言われた。
ここ最近野宿が多かったから、久々の村だしその意見には頷けた。
だけど、折角なら見てみたいという欲が私の中では疼いてしまったのだ。
幸い、この辺りの魔物はそう強いわけでもなかったし…だったらちょっとひとりで行ってみようかなと。
そうした時、すっとひとつ上がった手があった。
《俺も行くよ》
その手はバッツのものだった。
だから今、私は彼とこうしてこの星空を眺めている。
「バッツ、ごめんね」
星空の下、私は見上げる先をバッツへを変えて彼に謝った。
その声を聞いたバッツもこちらに振り向く。その表情はきょとんとしていた。
「ん?なにがだ?」
「ここ来るの付きあわせちゃって」
一緒に来てくれたバッツ。
確かにここの魔物はさほど強くは無かったけれど、彼が私の我儘に付き合ってくれたことは事実だ。
だからお礼を言えば、彼はまたきょとんとしていた。
「別に付きあったってわけじゃないぞ?」
「へ?」
「俺も星が見たかったから一緒に来ただけさ」
彼はそう言ってまた空を見上げ「あ、ナマエ!あの星でっかいぞ!」と指差して私に笑いかけた。
これは、どっちなんだろう。
私に気を使ってくれているのか、はたまたこれが本心なのか。
その辺りはちょっと読めないけれど、こう言ってくれたのは少し有り難かったかもしれない。
結構この人は、相手の欲しい言葉をさらりと言ってくれることが多い気がする。
だからだろうか。なんとなく自然と、この人なら信用してついて行っていいかもしれないと、そう思える雰囲気を思っている気がする。
そのわりに当の本人はチョコボとふたりで気ままに旅しちゃってたりしたわけだけど。
「ん?どうした」
「ううん」
つい、バッツをじっと見てしまっていた。
その視線に気が付いたらしくバッツは不思議そうに私へと振り返る。私は首を横に振った。
「さて、じゃあそろそろ戻るか」
「うん」
ある程度楽しんだ所で、宿に戻ろうかとバッツが言った。
私も頷いて、歩き出したその背中を追いかける。
するとバッツは足を止めて私に振り返った。
丘を下る中、先を歩く貴方。
自然と追いかける私が見下ろす形になる。
「ほら、早く。気を付けてな」
そう言いながら、私を招く様に迎える様に、掌を差し出す。
その掌を見ていると、なんだか不思議な気持ちになった。
共に旅をする中、自分はいかにこの手を頼りにしているのか。
心の奥で、一番頼りにしているのはこの手なんじゃないか。
「ナマエ?どうかしたか」
「ううん。なんでもないの」
私は笑ってバッツに駆け寄った。
もし、こんなこと言ったらどんな反応するのかな。
なんだかあまり想像がつかない。
だから、ちょっと興味が疼く。
「ねえ、バッツ」
「ん?」
駆け寄って、肩を並べる。
そして見上げればバッツもこちらを見て笑ってくれる。
ああ、それがなんだか凄く嬉しい。
「私、バッツのそういうとこ結構好きよ」
小さく微笑む。
そして零した少しの本音。
それを聞いた彼の反応。
目を見開いて、丸くする。
自由で、気ままな人。
ちょっとしたことでムキになったり、子供っぽいところもある。
でも優しくて、結構頼りになる。
目を丸くしたバッツは、言葉の意味をどう捉えたか。
なんだか少し頬が染まったみたいに見える。そして、咄嗟の言葉にほんの少しどもってた。
「なっ、なんだ?いきなりどうしたんだ?」
「…ふーん。ふふっ…そっか。そういう反応か」
「は?…ていうか、そういうとこってどういうとこだよ」
「んーん。さあ、どういうところだろうね?ふふっ!」
「な、あ、おい!ちょっと、ナマエ!」
逃げる様に、私は軽く駆け出す。
バッツもハッとして、追いかける様に駆け出した。
ああ、私にそんな風に反応してくれるのか…なんて、ちょっと嬉しく感じて。
私は、あの掌に惹かれている。
そんな私の好きな人。
To be continued