▼ 素顔
「あれ、もしかしてカイン?」
宿の一室。私達がとった大部屋の窓には青い青い澄み切った空が映っている。
窓の淵にたち、その景色を眺める長い金髪の男の人がひとり。
見覚えがあったのは、その彼が纏っている紫色の鎧だ。
まあこの部屋にいる男の人とか限られてるし。
私が声を掛ければ、美しい金色が揺れ、ふっとこちらに振り返る。
「ナマエか」
振り返り目が合うと、彼は私の名前を呼んだ。
それは最近聞きなれた知ってる声だ。
でも、今私が見ているその顔は初めて見るもの。
整った顔立ち。
私はぱっと目を見開いた。
「わあ!本当にカインだ!すっごい!」
「……。」
知っている鎧、私の名を呼んだ知っている声。
もしかしてが確信に変わって、私は思わず彼に駆け寄った。
「素顔、初めて見た!!」
「そう、だったか?」
「うん!へえ!すっごい!かっこいい!」
なんだか感動だ。
その感情を抑えることなくきゃっきゃと笑えば、彼は少し困惑してた。
最近、とある成り行きで私は彼らと共に旅をすることになった。
もうそこそこ日数は経ったし、戦闘の癖なんかもわかってきた頃。
でも思えば、私はいつも仮面を被っている彼の素顔を見た事が無かった。
「一度もなかったか」
「うん。今回は皆で同じ大部屋だけど、いつもは男女別で部屋とってるし。カイン全然仮面取ら無いじゃない。へえ〜!すっごい美形さんだったんだねえ〜」
「……。」
うん、本当に感動。
なんだか物凄く心が踊っているような。
彼の顔はしゅっとした美しい顔立ちをしていた。
これを美形と言わずに何と言うだろう。
「は〜、本当格好いいね。すごいすごい。思えば全然想像とかした事無かったな。すっごい格好良かったんだねえ〜」
多分、本当物凄い感動していた。顔を見れた感動。
加えてその中にあったのはキラキラとした美形。
語彙力は無いけど感動で盛り上がっていた私は結構格好いいを連呼してたようだ。
何回口にしただろう。
ついにはカインからストップがかかった。
「…もう、やめろ」
「おおっと」
カインは自分の額に手を当て、はあっとため息をついた。
ああ、折角の美形がまた隠れた…では無いね、うん。
私はへらっと笑い、軽く謝った。
「あはは、ごめんごめん。なんかテンション上がっちゃって」
「意味がわからん…」
えへへと笑いながら、改めて彼の顔を見上げる。
私が部屋に入ってきた時、振り向いてくれたその顔は今、こちらを見ていない。
その視線は窓の外に向けられている。窓の外の、何を見てるんだろう。空?街並み?
なんだか私から視線を逸らしてるみたいだ。
「もしかしてカイン、照れてる?」
「!」
ぎくりと軽く肩が跳ね、外を見ていた目が開かれた。
おお、これはもしや図星?
いつもわりと落ち着いているカインだ。
なんだか珍しいものが見れたような。
思わず口元が緩んだ。
「…何を笑っている」
「いえいえ、別に〜」
カインは少しバツが悪そうか。
私はくすくすと思わず笑って、どうもしばらくは収まりそうにない。
ああ、なんだか楽しい。
今日は何だか、新しい発見がたくさんあった気がするよ。
「うーん、やっぱりかっこいいねえ」
「…やめてくれ」
チラリと見て、もう一度おふざけ。
するとまた頭を抱えたカイン。
私は変わらず、くすくすと笑ってた。
END