▼ ナイト
「あのさ、ずーっと思ってたんだけど、君って私には守るよって言ってくれないよね」
「は?」
ナマエの唐突な言葉。
穏やかな風のそよぐ小休止。
気が抜けていたこともあってか、僕は思わず間抜けな声が出てしまった。
「いきなりなに?」
あまりにも気が抜けていたから、ひとつ咳払いして聞き返した。
いや、だって本当に突拍子が無かったから。
そんな質問をしてくる意味もわからなかったし。
「ほら、ティナとかには言うじゃん。僕が守るからって。君ナイトなわけでしょ?どーして私には言ってくれないのかしらー?」
「どうして…って」
にっこり笑って僕に問うナマエ。
その顔を見て、僕は思わず言葉に詰まった。
確かに僕は、ティナによく守ると口にする。
でもナマエには一度も言った事が無い。
それは事実だった。
というか、自分でも意識していることではあった。
「必要ないって、思ったから」
「必要ない?」
零したのは、結構素直な感情だった。
そう。ナマエには、守るなんて必要ないことだろうって。
「あのさ、ナマエは会ったばかりの時に一緒に戦ったの覚えてる?」
「一緒に?」
「そう。その時、正直僕圧倒されたんだよね…。凄く強かったから」
はじめて一緒に戦った時。
あの時の記憶は、正直ずっと頭に残ってる。
だって凄く衝撃を受けたから。
ナマエの戦い方を見て、僕は衝撃を受けたんだ。
軽やかに、鮮やかに敵をなぎ倒していく姿。
加えて立ち回りも上手くて、僕自身が戦いやすかった。
本当はさ、あの時だけは言おうとしたんだ。
「僕に任せて。僕が守るよ」って。
でもそれを言う前にナマエは走り出して、そんな姿を見せられてしまった。
「ナマエ、強いでしょ?多分、自分でもそれなりに自信持ってるんじゃない?」
「うーん…どうかなあ?まあ、戦いの技術や知識を学ぶのは嫌いじゃないけど」
「強いよ。皆も一目置いてる」
「だから言わないの?」
「…言ったところで、いらないって言うと思って」
悔しいけど、きっと僕よりナマエの方が全然強いと思うんだ。
性格だってどちらかと言うと勇敢で、そんな相手に守るだなんて言えるだろうか?
でも、そこまで話して少し思った。
「言ってくれない…って、言って欲しいの?」
見上げて尋ねた。
だって今の話しの流れだと、そういうことだよね?
するとナマエはコクっとすぐに頷いた。
「そりゃ言って欲しいよ〜。女の子の憧れでしょ!君は私をなんだと思ってんの」
「なんだとって…いや別に女の子だとは思ってるけど」
「あらそ、良かった!」
「良かったって…」
なぜかそこで満足そうに笑うナマエ。
結構、変な子だよな。なんだかよくわからない…。
戦いのときはあんなに強くて、なんだか別人みたいだ。
でも、言われたいんだ…。
それは以外な言葉で。
なんだろう。少しくすぐったいような…変な感覚だ。
「じゃあ、僕に守られてくれるの?」
僕はナイトだ。
そっとナマエの手を取ってみる。
そしてそう尋ねた。
手を取られた事は驚いたのか、ナマエは少し目を丸くした。
いや…違うな。
その顔を見て、僕は自分の言葉を改めた。
「いや、守らせてくれる?」
すると、それを聞いたナマエは「はいっ」と嬉しそうに笑ってくれた。
END