5th | ナノ
 ナイト

「あのさ、ずーっと思ってたんだけど、君って私には守るよって言ってくれないよね」

「は?」





ナマエの唐突な言葉。

穏やかな風のそよぐ小休止。
気が抜けていたこともあってか、僕は思わず間抜けな声が出てしまった。





「いきなりなに?」





あまりにも気が抜けていたから、ひとつ咳払いして聞き返した。

いや、だって本当に突拍子が無かったから。
そんな質問をしてくる意味もわからなかったし。





「ほら、ティナとかには言うじゃん。僕が守るからって。君ナイトなわけでしょ?どーして私には言ってくれないのかしらー?」

「どうして…って」





にっこり笑って僕に問うナマエ。
その顔を見て、僕は思わず言葉に詰まった。

確かに僕は、ティナによく守ると口にする。
でもナマエには一度も言った事が無い。

それは事実だった。

というか、自分でも意識していることではあった。





「必要ないって、思ったから」

「必要ない?」





零したのは、結構素直な感情だった。
そう。ナマエには、守るなんて必要ないことだろうって。





「あのさ、ナマエは会ったばかりの時に一緒に戦ったの覚えてる?」

「一緒に?」

「そう。その時、正直僕圧倒されたんだよね…。凄く強かったから」





はじめて一緒に戦った時。
あの時の記憶は、正直ずっと頭に残ってる。

だって凄く衝撃を受けたから。
ナマエの戦い方を見て、僕は衝撃を受けたんだ。

軽やかに、鮮やかに敵をなぎ倒していく姿。
加えて立ち回りも上手くて、僕自身が戦いやすかった。

本当はさ、あの時だけは言おうとしたんだ。
「僕に任せて。僕が守るよ」って。

でもそれを言う前にナマエは走り出して、そんな姿を見せられてしまった。





「ナマエ、強いでしょ?多分、自分でもそれなりに自信持ってるんじゃない?」

「うーん…どうかなあ?まあ、戦いの技術や知識を学ぶのは嫌いじゃないけど」

「強いよ。皆も一目置いてる」

「だから言わないの?」

「…言ったところで、いらないって言うと思って」





悔しいけど、きっと僕よりナマエの方が全然強いと思うんだ。
性格だってどちらかと言うと勇敢で、そんな相手に守るだなんて言えるだろうか?

でも、そこまで話して少し思った。





「言ってくれない…って、言って欲しいの?」





見上げて尋ねた。
だって今の話しの流れだと、そういうことだよね?

するとナマエはコクっとすぐに頷いた。





「そりゃ言って欲しいよ〜。女の子の憧れでしょ!君は私をなんだと思ってんの」

「なんだとって…いや別に女の子だとは思ってるけど」

「あらそ、良かった!」

「良かったって…」





なぜかそこで満足そうに笑うナマエ。

結構、変な子だよな。なんだかよくわからない…。
戦いのときはあんなに強くて、なんだか別人みたいだ。

でも、言われたいんだ…。

それは以外な言葉で。
なんだろう。少しくすぐったいような…変な感覚だ。





「じゃあ、僕に守られてくれるの?」





僕はナイトだ。

そっとナマエの手を取ってみる。
そしてそう尋ねた。

手を取られた事は驚いたのか、ナマエは少し目を丸くした。

いや…違うな。
その顔を見て、僕は自分の言葉を改めた。





「いや、守らせてくれる?」





すると、それを聞いたナマエは「はいっ」と嬉しそうに笑ってくれた。



END

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