5th | ナノ
 君の傍にいるために

《私、あなたのこと好きだなあ…》





そう零したのは無意識だったかもしれない。
ただ、ハッとした時にはもう遅い。

そのとき見上げた彼の目は丸く丸くなっていた。





「ぬあああああっ……」





脳裏に蘇った恥ずかしい記憶。
思い出しては頭を抱え、後悔を目一杯滲ませた声で唸る。

ああ、やっちまった。本当にやっちまった。
一体私は何をやっちまってるんだ。

悔やんで悔やんでこれでもかってくらい悔やんでる。

数日前、私はとんでもない失言をした。

不思議な異世界で出会ったひとりの戦士。
どんなの時で前を見据えて、決して揺らぐことのない瞳がとても眩しい人。

その光の姿に、いつしか私は心強く惹かれていた。

あの時、彼がイミテーションを鮮やかに薙ぎ払った。
そうして剣を納めた姿を見て私はその胸に広がるものに浸った。

…浸り過ぎた。

あの瞬間、彼に見惚れてぼーっといしていた自分をこのところ殴りたい気持ちで一杯だった。





「何をそんなところで頭抱えているのだ」

「う…?!」





そんな時、しゃがみ込んだ頭の上から声がした。

その声に私の心臓は壊れるんじゃないかってくらいに大きく跳ね上がった。
ガバリと見上げれば、そこにいたのは今考えていた眩しい彼。

その顔を見た瞬間、私はどこでもいいから逃げ去りたい衝動に駆られた。





「待て!」

「…!?」





勢いのまま、逃げ出そうと立ち上がれば、彼の声に呼び止められた。
というか、ガシッと腕を掴まれた。

ひっ、と声が詰まった。

心の中では叫んでた。
ひえええええ〜〜〜!!なんて情けない悲鳴を。





「ナマエ、何故逃げようとする?」

「え、えーと…」

「いや、何故最近私を避けている?」

「………。」





ストレートな質問。
というか、気づいていたんだなと思った。

でも正直それを答えられるメンタルを私は持ち合わせていないのですよ…!





「…私は、君に何かしたのだろうか」

「え!い、いや違うよ…!?」





でも、彼がなんだか原因を自分の方に誤解していたから慌てて首を横に振った。

だって彼には何一つ非は無いじゃないか。
全部私が勝手に言って勝手に自滅してるだけの事だ。





「では、なぜ君は私を避ける?」

「それは…」





彼は無知な部分が多いと思う。
無知と言うか、純粋で。

零してしまった私の気持ちだけど、その意味も伝わってなんていないと思う。

…なんだかそれはそれで切ないような。
って、私ってワガママだなあ…。

忘れてくれって言えたらいいけど、でもわざわざ掘り返すのも気が引けた。





「…なんでも、ないよ…。うん…ごめんなさい、ちょっと気持ちの整理がつかない事があって…。でも、もう大丈夫だから」





彼と向き合ってみて、彼はあの時のことを気になどしてはいなさそうだ。

なら、そのまま何事も無く流してしまえばいい。
それならそれで。

だから私はそう言って彼に微笑んだ。





「私は、君が私を避けたいた理由を知りたい」

「え」




でも彼は逃してはくれなかった。

えええええええ。
もうこれからはいつも通りだ。

今そういう流れだったけどそれじゃダメですか!?




「君は私を好きだと言った」

「う!?」




そして突然掘り起こされた。
心臓を鷲掴みにしてぎゅうううっと潰さらているような痛みが唐突に襲ってくる。

多分変な顔もしてるだろう。





「君にそう言われた時、私の心の中になにかあたたかいものが広がった気がした」

「え…」





でも彼が言葉をそう続けて、私はきっと目を丸くした。





「自分を好きだと、好ましく思われていると知れたその瞬間、私は心に言い表せぬ心地良さを感じたんだ」

「あ、の…」

「だが、あの日以来…君は私から遠ざかっていった。こちらから近づいても離れて、逃げてしまう」

「……わ、」





掴まれたままだった腕を引かれた。
足も動いて、少し距離が近づく。

きりっとした瞳がこっちを確かに見つめてる。

まっすぐで、揺るぎない。
だからいつも、ついつい見惚れてしまうあの瞳だ。





「ナマエ。私は、君に離れていって欲しくない。君に避けられると、酷く苦しくなる。だから、教えてくれ。君が傍にいてくれる為にはどうしたらいいか」





掴まれた腕が熱い。
真っ直ぐこっちを見て、一体何を言っているのか。

どれだけ凄い事を言っているのか、意味なんてわかってなさそう。

でも、あまりに真っ直ぐな瞳を直視していたら、なんだか当てられてしまったかもしれない。





「…離れてなんて、行かないよ」





また、ぽつりと呟いた。

後悔していたばかりなのに。
ぼんやりして、また同じように繰り返すのか。

いや、大丈夫。

今度はちゃんと、伝えようとして口を開いてる。





「貴方がそれを望むなら」





恥ずかしさなんてどこへやら。
微笑んで、私も彼に、そんな言葉を返していた。



END

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