5th | ナノ
 シュガー

「げっ…」





用意されたテント。その傍に出されたテーブルの上にはアウトドアだというのにとても凝られた料理が仕上がっていく。
さあ、今日のご飯は何だろう。匂いに釣られてルンルンと調理中のそこを覗き込んだその瞬間、私の目には超のつく天敵とも言えるとんでもないブツが飛び込んできた。

まあ平たく言えば苦手な食べ物です。

それを見た私は先ほどのルンルンとは打って変わり、顔を歪めてしまったのであった。





「イグニス〜…」

「好き嫌いは体に悪い」

「それは王子に言ったってよ〜…」





料理を作っているイグニスに「いやあああ」と泣きつけば、涼しい顔で返された。
くそう。私が嫌いなのを知っているのにこの男…!
するとその様子を見ていたグラディオがアウトドアチェアに座りながら、げらげらと笑ってきた。





「ナマエもノクトに負けず劣らずで結構偏食だよなあ」

「ノクトほどじゃないから。アレと一緒にしないで」





即刻否定した。いや我らが王子様捕まえてアレとか言っちゃうのもどうなんだとは思うけど、でもノクトと一緒にされるのは心外だ。私はもうちょっと食うぞ!!大人ですから!
…確かにちょっと人より好き嫌いがあるかな、というは…否定しませんけども。

というか好き嫌いばかりしていられない状況もあるし、だから基本的には多少苦手でも食べる。
しかし、今回のコレだけはどうしてもだめだった。





「コレは駄目なんだよお…イグニスぅ…!愛してるから入れないでええ〜!」

「そうか。俺も愛しているぞ。だからお前の偏食は少しでも直してやりたい」

「…ナチュラルにいちゃつくんじゃねえよ…」





イグニスの腕にしがみついてそう泣きついたら、グラディオが何だか微妙な顔をした。

なんだ。恋人に愛してると言って何が悪い。
しかし今の私はそれどころでは無い。

天敵のあいつを何とか取り除いてもらわねば!
そんなミッションクリアに燃え、再度気合いを入れ直すべくイグニスをキッと見上げる。

しかしその瞬間、ぽふっと優しい掌が頭の上に落ちてきた。





「ナマエ、それを食べたら今日は特別お前にだけデザートを作ってやろう」

「へ?」

「お前にだけ、お前の為だけにだ」





私にだけ。私の為にだけ。
不思議だ。その言葉は魔法のように頭に回る。

いやでもね、好きな人からお前だけとか言われたらそりゃ頭に残るだろ!って話じゃね?!

しかも私の為の特別デザート。
何か今、私の頭の中はナマエちゃんの時代キタ!!くらいのお祭りモードになっていた。





「…私の為だけ?」

「ああ。ナマエの為だけだ」

「…わ、わかった…。イグニスがそう言うなら…」

「わかるのかよ…チョロイな、お前…」





後ろでグラディオが何か言ってたけどそんなものは右から左へスルーだスルー。

私が頷いたのを見ると、イグニスは優しく微笑んでよしよしと頭を撫でてくれた。

それを見てグラディオがまた「犬かよ」みたいな事を言ってたけどそんなもん知ったこっちゃあーりません。

へらっとしてるあたしを見て、グラディオは呆れる様にため息をついていた。失礼なあんちゃんだ。





「で?お前のお姫さんイチコロのデザートって何作るんだよ、イグニス」

「ああ、良いイチゴを市場で見つけてな、それを使おうと思っている」

「わー!イチゴ!」

「ナマエ、好きだろう?」

「うん!」

「へー、いいじゃねえか。俺も食いてえ」

「残念だが、今日はナマエの為だけに作ると決めたからな」

「はっはっは!残念だな、グラディオ!」





べーっと舌を出したら、べしっと頭を叩かれた。
酷い…!うら若き乙女の頭に何て事を!

じろっと睨んだものの、この大男はそんなもの気にもしていない。なんて奴だ!

それどころかグラディオは再び呆れ気味にイグニスに目を細めた。





「…甘やかしてやがるなあ、イグニス」

「今回は好き嫌いに対してのご褒美だ」

「にしたって…いや、毎回何かしら甘やかしてんじゃねえか、お前」

「ふっ…存分に甘やかせるのも、俺の特権だからな。イグニスイグニスとナマエに言われるのは悪くないぞ」

「物好きな奴」





もう勝手にしてくれとグラディオは手を挙げる。
イグニスを見上げれば、彼はこちらを見て穏やかに微笑んでいた。



END

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