5th | ナノ
 君の照れた顔

ほどよい日差しのぬくもり。
ふかっとしたお気に入りの枕の感触。

ああ、なんだかとても久しぶりに感じる。





「お休みかい?お姫様」

「…お姫様はお城」





その時、軽い足音と共に男の子の声が聞こえた。
私は目と閉じたまま寝言にも似た声でそう答える。

今さっき、お姫様を目的のリンドブルム城に送ってきたばかりじゃないのさ。

アレクサンドリアでのガーネット姫誘拐の任務。
あれから色々ありすぎて、そんなに日は経ってないのにこの場所を酷く懐かしく感じる。

此処はリンドブルム劇場街にあるタンタラスのアジト。
私はこの落ち着く場所でお気に入りのクッションに顔をうずめしばしの安らぎを楽しんでいた。





「まあ、やっぱ真っ先にここに来るよなあ」





そして今しがた聞こえた声の主。
それは同じタンタラスの仲間でありここまで一緒にお姫様を送り届けたジタンだ。

私は寝転がったままゆっくり顔を上げジタンの方を見た。





「そりゃそーよー…皆で留守にしちゃってたわけだし」

「まーな」





ジタンはそう言いながら私の寝ころぶベットに腰を下ろした。

ジタンが来たなら起きるか…。
私も体を起こし、ジタンに向き合うようにクッションを抱えて座り直した。

するとジタンはじっとこっちを見てた。





「なに?」

「いや、結構頼りになるよなあって思って」

「は?」




まじまじと、何の脈絡も無く言われた言葉。
思わず素できょとんとした。

いや、だって意味が分からなくて。





「勿論強いのは知ってたけどさ、こう肩を並べていざ戦ってみるとそれがよくわかったって言うか」

「……ええと、私の話?」

「他に誰の話するんだよ」

「…さあ?」





私がそう首を傾げれば、ジタンはやれやれと頭を振りながらそう言った。





「ナマエの話さ。アシストも的確でさ、かなり動きやすかったぜ?」

「そりゃなによりで」

「ああ、本当。いい女だよなあ、ナマエ」

「わーい。どーもー」

「棒読みだなあ。相変わらずつれないよなー」





そう言いながらジタンはへらりと笑った。

これでもそこそこ長い付き合いだもの。
そりゃあこんな返しにもなりますとも。

いちいち照れてなんていられない。
っていうかまあもう別に照れすら起きないけども。





「ていうかそんな反応されるってわかってて言ってるよね?」

「ん?俺は思ったことを言ってるだけさ」

「…あ、そう」





まったくブレないものである。

でもまあ、確かにこう並んで戦ってみて思う事は色々あった。
いつもはタンタラスの皆も一緒で、それに鍛錬はしてるけど前線で戦うような役目って私の方にはそこまで回ってこないからやっぱり色々と新鮮だった。

ああ、結構囮になってくれたり庇ってくれてたりするんだな…ってそういうのは見えた気がする。





「ジタンも良い男だね」

「へ?」





だからちょっとお返しにそう言ってみた。
本当、結構何気なく。

あ、おもちゃのネジが外れてる…。
ベットの傍に置いてあった壊れたおもちゃに気が付いてそんな風に手を伸ばしながら。

でも聞こえた声が微妙に引っくり返っていたから、すぐに視線をジタンに戻す。
すると彼の目は驚いたように大きく見開かれていた。





「ジタン?」

「え」

「なにその顔」

「なにって…いやお前…」

「ん?」

「…そりゃこっちの台詞だろーよー…」





ジタンはそう言って俯き右手で頭を抱えた。

なんだか顔を隠してるみたい。
…ん?隠してる?

ふと気が付いたこと。
もしかして、なんて頭に過った。





「ジタン、照れてる?」

「…そりゃ言われ慣れてませんからねえ」






あー、もう。不意打ちは勘弁だろ〜…。
なんて、彼はか細い声で言う。

あれま。
何だか珍しいものを見れた気がする。





「何笑ってるんだよー…」

「ふふっ…いや?珍しいな〜って」

「くっそー…ま、ナマエが笑ってくれたなら良しとしますか」





少し顔が赤い。
なんだかバツが悪そうな。

だけどやっぱりジタンはジタン。
最後はそう言ってのけるのでした。



END

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