「ナマエより…と」





セブンスヘブンの店内にあるテーブルにペンを転がし、カラフルにメッセージカードを書いているナマエ。





「書けたか?」

「うん。これでラスト」





俺はナマエの向かいに座り、何気なくその様子を眺めていた。
キュッとペンの蓋を閉めるナマエ。そして彼女は書きあがったカードを見て満足気に笑った。





「はー!終わった終わった〜!別に苦ってわけじゃないけど、全員分にメッセージ書くのはちょっと疲れたわ〜」

「休みもせずぶっ通しで書いてたからな」

「まあ書きたい事は色々あったからね。んじゃ、あとはこれを箱に入れて終わりだね」





ナマエはそう言ってテーブルの隅に置いておいたいくつもの小さな箱に目を向けた。

全部で箱は8つ。
その中身はチョコレート。

それは、ナマエがかつての仲間たちへ用意したバレンタインのプレゼントだった。





「エアリスは花束だから…仲間チョコはこれでオッケーだね」

「仲間チョコ?」

「そーそ。義理チョコでも友チョコでも無く仲間チョコね」

「語呂悪くないか。初めて聞いたぞ」

「だって今つけたもん。語呂は気にすんなって事で」





彼女はそう言ってけろりとした。

ナマエは8つのチョコレートと1つの花束にそれぞれメッセージカードをつけて配ることを計画していた。ナマエいわく仲間チョコ。

俺はそれを用意する姿を目の前で見ていて思った。
なんというか、わりと凝り性というか、マメだな…と。

まあ、ナマエが楽しそうであればそれで俺はいいのだが。

俺の分もメッセージカードはあるし、まだ見せてもらっていないそれに何が書いてあるのか純粋に楽しみだった。

しかし同時に気になる事もひとつ。
俺はちらりと8つある箱を見つめた。





「……。」





皆と同じ、な。

同じ形の、同じ色。
男も女も関係なく、すべて同じそれ。

ナマエは試食したりして一生懸命選んでいたが、正直残念な気持ちは拭えなかった。





《あたしも好きだよ…。クラウドが好き…》





あの決戦の前日。
やっとナマエに自分の気持ちを伝えれば、ナマエもそう言って返してくれた。

今思い出しても、あの瞬間は何物にも代えられない程幸せだった。

戦いが終わって今もこうして隣にいられて、だから…正直期待していた。
…見事に打ち砕かれたけどな。

こういうのって、特別扱いしてもらえるものじゃないのか…?





「なあ、ナマエ…」

「ん?」

「…いや、なんでもない」

「はい?」





胸にはモヤリとした濁りがあって。
けど、聞く度胸も無い。

…貰えるだけいいのか?
しまいにはそんな諦めに達しはじめる。

そうだ…仲間だと、大切だと想って貰えている事実は変わらないのだから。
そんな風に自分の中で無理矢理納得しようとした。





「あ、そうだ。クラウド」





その時、カードと箱を合わせていたナマエが顔を上げた。
目が合うと、ナマエはにっこり笑って尋ねてきた。





「クラウド、ケーキとクッキーどっちが好き?」

「え?」





突拍子のない質問だった。
だから多分、俺はマヌケな反応をしてしまった気がする。

ケーキとクッキー?

聞かれた意味がよくわからなかった俺は質問を質問で返してしまった。





「何だよ、突然」

「んー?だってチョコレートふたつも貰っても飽きちゃうでしょ?まあ味はチョコにしようかと思ってるけど、だから正確にはチョコケーキかチョコクッキー?」

「…ナマエ、悪い。話が見えない」

「ええ…何故」





ナマエの言っている話がいまだによく掴めていない俺。
そんな俺を前にナマエは肩をすくめると、仲間チョコをひとつ手に取り説明してくれた。





「本命のほう…どっちがいいって話なんだけど」

「本命…?」

「う、うん?コレ、仲間に配るチョコね。ちなみにクラウドの分。あたし、クラウドの仲間だったよね?」

「え、あ、ああ…そりゃ、勿論」

「オーケイ。ありがと、ボス」

「…ボスじゃない」

「ふふっ。久々だね、このやり取り。で、あー…本人目の前にして言うとか恥ずかしいにも程があるんだけど…。いや、これとは別にクラウドには本命分も渡したいから…そっちはケーキとクッキーどっちがいいかなあって話なんだけど…?」

「………。」

「あ、あの…クラウドさん?」





ナマエに顔を覗きこまれてハッとした。

本命分も渡したい。
つまり、ナマエは俺にはふたつのプレゼントを用意してくれているということ。

って、やっぱり…そういうことでいいんだよな?

少し理解が遅れた。
諦めていたから、勘違いをしてやいないかと、多分疑り深くなって。

だって、それは俺が望んでいた言葉だったから。





「ふたつ、くれるのか?」

「え?あ、やっぱりふたつもいらないかな?」

「いや、くれるなら欲しい。ただ、ふたつも貰えるなんて思ってなかったから」

「ええ?だって仲間だし、それに恋人…だし。って…もしかして、こっちのチョコだけかと思ってた!?」

「…ああ」

「い、いやいやいや!それだったらクラウドも皆と同じとか無いでしょ!?そうするんだったらクラウドだけ特製チョコだよ!クラウドを皆と同じとかむしろあたしが嫌だわ!」

「…ナマエ」

「…ただ、仲間なのもさ…あたしの中では意味合い大きいんだよ…。そしたら、ふたつかなって…」

「…ああ」





そう頷いた俺の顔は、多分完全に緩み切っていた気がする。

単純なもんだよな。
好きな人だと、本命だと言って貰えただけでこんなにも気持ちが浮き上がる。

それに、俺の中でもナマエを大切な仲間だという意味合いは大きい。
背中、いつだって任せて歩いていたよな。





「ナマエが食べたい方でいいよ」

「へ?」

「それで、一緒に食べよう」





幸せな奴だと笑われるかもな。
だけど今ならきっと、ああ幸せだと俺は胸を張って返せるだろう。


END
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