刻々と近付く

「あ、ノクトおかえり〜」

「邪魔しているぞ」

「おー…ってナマエもいんのか?久々じゃね?」





ノクティス王子が住む高級マンション。
訪れたそこに部屋の主はまだ帰って来ていなかった。

合鍵で先に上がり、夕食を作りながら待っているとやっとご帰還した王子様。

火にかけた鍋を見ているイグニスには驚かず、食器を出しているあたしの姿には驚くノクト。
まあ確かにここに来るのはちょっと久しぶりかもしれない。別に久しぶりな事に何か理由があったわけでは無いけど。

あたしは食器を置くと、少しノクトの方へ歩み寄った。





「お店ぶらぶらしてたらイグニスと会ってさ、ノクトのとこで夕食作るって言うからついて来た。イグニスのご飯ひっさしぶり〜」

「へー。って、ナマエの好物ばっかじゃん」

「あたしの好物で何が悪い」





イグニスがいるカウンターの向こうを覗き込み、ちょっと微妙な顔をしたノクト。
「俺に飯作ってるんじゃねえのかよ」とぶつくさ言ってる彼だが、イグニスに「早く制服を着替えてこい」と言われて寝室の方へと消えへ行った。

あたしはその様子を見て相変わらずだと笑った。






「それにしても片付いてるね、ここ。前来た時は脱ぎ散らかすは食い散らかすわだった気がするけど」





着替えにいったノクトを見送った後、あたしは改めてこの部屋を見渡した。

あたしの最後の記憶では、何もかもやりっ放しの凄い有様だった気がするが。
まさかノクトも反省してしっかりやるようになったのだろうか。

少しだけそう思ったが、その考えはイグニスからの返答によってすぐさま掻き消された。





「少し前に俺が片付けたばかりだからな」

「…イグニス、ちょっと働き過ぎじゃない?」

「…かもな」





突っ込めばイグニスは小さく笑った。

料理もすれば部屋の片づけもする。
きっと、今ノクトが脱いでいるであろうYシャツなんかもアイロン掛けてあげちゃったりするんじゃないだろうか。

過保護すぎる。しかしそこまで尽くしてもらえるノクトはやっぱりちょっと羨ましい。
いや、別にあたしはイグニスに部屋を片付けて欲しいとかそんなことは思ってないけども。

ただ、大切に思われてるなとは思う。

いや、まあそれはあたしもそうなのだけれど。
あたしだってノクトが大切だ。特に今は、学校にいる間にノクトの一番傍にいられるのは自分だという事実が気持ち的にもかなり大きい。

ノクトの支えになろう。
それは、あたしにも理解できる感情だった。

まあ、やっぱり羨ましいのは確かだけど。
そんなことを考えて、くすりとそっと笑った。





「はー…イグニスのご飯美味しかったー…。お腹いっぱい、しあわせー」





三人で囲んだ夕食後、あたしは幸せな気持ちでソファにぐでっと体を沈ませた。
久しぶり食べたけどイグニスの料理は相変わらず美味しかった。好物だったこともあって大変満足だ。

するとノクトがその様子を見てニヤリと笑った。





「太るぜ、ナマエ」

「…それ、ブーメランだぜ王子様」





あたしはじろっとノクトを睨みながらそう言い返した。

言っておくと、ノクトだってソファで寝そべっているのだ。
早い話、どの口が言ってるんだという話である。

まあ、お行儀が悪いというか…だらしがないのは認めるけどね。





「つーかよ、今日の小テスト、あれやばくね?」

「あー…ね、4限にあるのは知ってたけど、まさか3限で抜き打ちがあるとは…。油断してたね」

「あれはマジで滅入ったわー…」





そして始まるゆるゆるだらだら会話。
とても王子様と仕える者とは思えない気の抜けたやり取りだ。自覚はある。

まあ、あたしとノクトは昔からこんなもんだけど。
公式の場はともかくとしてね。

でももしかしたら、イグニスが世話焼きになったのはもしかしてこのせいかもしれない。
だとしたら少し申し訳ないな、なんてちょっとは思った。





「…さて、ナマエそろそろ帰るか」

「あ、はーい」





ノクトと談笑していると、テーブルで何かレポートの様なものを書いていたイグニスがそれらを鞄に仕舞い腰を上げた。
声を掛けられたあたしもソファから降り、スカートの乱れをさっと直した。





「送っていく」

「うん。お願いします」





イグニスの元へ歩み寄ると、彼は車のキーを見せてそう言ってくれた。
まあいつもの事である。だからあたしも素直にそれに甘える。





「じゃあな、ノクト。あまり夜更かしばかりするなよ」

「へいへい」

「じゃ、またね。ノクト」

「おー」





靴を履き、ひらひら手を振れば、玄関までは一応見送りに来てくれたノクトも軽く手を挙げてくれた。





「ナマエ」

「ん、ありがと」





扉を開き、押えて先に出るよう促してくれたイグニス。
あたしが出ればイグニスもそれに続いて、パタンと扉は閉まる。

そうしてふたりでノクトの部屋を後にした。





「御馳走様、イグニス。とっても美味しかった」

「そうか、それなら良かった」

「うん」




駐車場へ向かうエレベーターでのそんな会話。
また何気ないものだけれど、あたしは心臓がうるさく騒ぐ音を聞いていた。

これからイグニスが車で送ってくれる。
ふたりっきり。これ以上ない絶好の機会だ。

イグニスがノクトの部屋に誘ってくれた時から、いつもの流れからしてこうなるのは予想していた。
だから、待ちわびていたチャンスの時がきた。

どんどん下の階へ落ちていく数字はまるでカウントダウンみたいだ。
そんなエレベーターのランプを見つめながら、あたしはこっそり深呼吸をした。



To be continued

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -