グラン=パルス。アルカキルティ大平原。
あたしはいつものように、ホープと一緒にふたりで食材集めに足を運んでいた。

そう、本当にいつものように。

だけど今日はそこでひとつ、小さな事件が起こりました。





「うわっ!?」

「えっ!ホープ!?」





場所は、少しだけ小高い丘の上だった。
いや、丘といっていいのかもわからないくらいな高さだったけど。
多分あたしたちの背丈も無いくらいだったと思う。

そんな場所で、小石に躓いたのか、ホープがバランスを崩してそこから落ちそうになった。

ホープの声に気が付いたあたしは、咄嗟に彼の腕に手を伸ばして掴む事には成功した。

けど…問題はそこからどうするかだった。
多分、ライトやファングならサッと軽く助けてしまえたんだろう。
だけどあたしはあのお姉さま方のような素晴らしいスキルは持ち合わせていないのです。

ぶっちゃけ、腕を掴めたこと自体が軽く奇跡なんじゃないかってレベルだ。





「うわあああ!?」

「わああああああ!?」





そんなもんだから…満足に助けてあげる事も出来ず、むしろホープに引っ張られて、そのまま一緒に崖下ダイブ。

ドスン…ッ!!

咄嗟に閉じてしまった目に感じたのは、鈍い音と背中の痛み。





「いっ…!」

「う…!」





一応…ちょっとは頑張って、自分が下になるようにホープを庇って落ちた…はず。
うん…あたしにしては上出来でしょうと、とりあえず思っておこう…。

…ぐるっと世界が回ったから、正直どういう状況になっているかはよくわからないけど…。

ただ、自分が「いてて」と呻いたのと同時に、ホープの呻きも聞こえたから、彼が一応無事だと言うことはすぐに分かった。

おなかのあたり、なんか重い…。
もしかしたら、そこにホープがいるのかもしれない。

あたしはそれを確認するため、ゆっくりと瞼を開いた。





「…っ…ホープ、大丈夫…?怪我、してない?」

「うう…ナマエさん、ごめんなさい…はい…大丈夫ですって、…っ!!?」





尋ねると同時に、おなかの重みが消えた。
多分ホープが起き上がったんだろう。

そして、開いた瞼に映った目の前の光景。

そこには、視界いっぱいにホープの顔が映りこんでいた。

おおう…ホープくんの超ドアップ…。
開いていきなりのドアップは、流石に結構ビックリした。





「…あ…ナマエさっ…うっ…ちょ…あ…」

「……え」





目の前にあるホープの顔。それはちょっと様子が変だった。
頬を真っ赤にして、ちょっと固まってて、しどろもどろに言葉に詰まって、そして息をゴクリと飲み込む。

……なんでしょう、このなんか可愛い反応は…。

咄嗟にそんなことを思ったあたしは、もしかしたらどっか頭をぶつけていたのかもしれない。

とりあえず、あたしは今の自分達の状況を少し省みることにしてみた。

まず、あたしたちは一緒にあのひっくい丘から落っこちた。
あたしはホープを庇い、下敷きになって大地に仰向けに倒れてる。…背中痛い。

んで、ホープ。
あたしの必死のあがきは成功したのだろう。彼はあたしの上にいた。
そして今、彼の右手は肘もつくような形であたしの顔の横に置かれている。
左手は…あたしの脇下あたりかな…。

で、超絶ドアップ…と。





「………あ…」





そこで状況を頭で理解出来た。

ああ…なるほど。
これはいわゆる、床ドン…。

…というか、押し倒されてる、のか…。

やっぱどっか頭ぶつけてたのかもしれない。

…あ、お、おお…。
今になってやっと、その状況の意味を理解し、ハッと少しの照れがやってきた。





「…ナマエ、さん…」

「…ほ、ホープ…?」





どうしたものかコレ…。
そう考えていると、その時ホープがあたしの名前を呼んできた。
その声に思わず、心臓がドキッと跳ね飛んだ。

いや、流石にこれは動揺もするでしょ!

そして、そう意識すれば同時に…まじっと、ホープの顔が良く見えた。

銀の髪…キラキラでサラサラだ…。
そんな前髪が少し掛かる、透き通るみたいな緑色の瞳。

なんか…ちょっと変な感じ。

もう少し…ホープが腕を落としたら、多分…簡単に触れてしまうだろう。





「………。」

「………。」





ほんの、あと…少しで…。

触れる。

その言葉ひとつで頭がいっぱいになる。

だけど、その瞬間…何かが弾け飛ぶかのように、その空間に大きな声が響き渡った。





「ご、ごめんなさい!!!!!」

「…!」





声を張り上げたのは、ホープだった。

凄く大きな声。
彼はそれと同時に、バッと跳ね起きるようにあたしから体を離した。

あたしは目をぱちぱち。
急に大きな声出すから、すっごいビックリした。

一方跳ね起きたホープはあたふたと一生懸命に言葉を探してた。





「う…あ…、ぼ、僕…!どっかぶつけたのかな!なんかぼーっとしちゃって!」

「あ、う、うん…」





ホープが体を起こしたのに合わせて、あたしも上半身を起こした。

今の状態は、ふたり座って向き合ってる体制。

とりあえずホープが凄い焦ってるのはわかる。
自分より焦ってる人がいると、結構こっちは落ち着くもんだ…。

実際、今のあたしは自分でも何だか落ち着いてる自覚があって、だからひとまず、ホープに具合を尋ねる声を掛けた。





「えーと…ホープ」

「…は、はい!」

「な、なんか…大丈夫?」

「え!?あ…うっ…す、すみません…。…えっと、あ…その…庇ってもらったので、大丈夫です…。本当…すみませんでした…」

「いや、別にちょっとぶつけただけだからあたしも大丈夫だし。そんな気にしない、気にしない」

「は、はい…」

「うん。大事なくて良かったね」

「………。」

「………。」





ちょっと、気まずい空気が流れた。

いやー…うーん…やっぱ、さっきのは…色々、なあ…。
落ち着いているとはいえ、やっぱりなんかちょっと色々思うところはあった。

まあ、こうしてても仕方ない…。
あたしはすくっと立ち上がり、ホープも立ち上がらせるために手を差し伸べた。





「…えーっと、日、暮れちゃうね。ぱぱっと食料集めて、もどろっか?」

「…そう、ですね…」





ぐいっと、ホープの手を引き上げる。
そして笑みを浮かべて、あたしは足を動かした。

だけど頭では、さっきのこと…やっぱりちょっと考えていた。

…あたし、逃げなかったなあ…。
というか…逃げようって概念が、頭に無かった気がする。

もし…もしも、あのまま触れていても…別に良かったかも、とか…。
多分…そうしたら、そのまま受け止めていたのかもしれない…。

って、なんか物凄い事考えてるな…!

う、うーん…。
なんかちょっとムズムズした。

そんな一方で、チラッと振り返ってホープを見てみると、彼はその視線に気が付いてビクッとちょっと固まっていた。
…それを見たら、なんかちょっと笑いそうになった。

…お互い、まだまだ子供だね。
それと…きっと、あとは…ほんの少しの罪悪感…かな。

先も見えなくて…大切な事、伝えられてない。
なのに、それより先にそこに触れてしまうのは…なんとなく気が引けるような。





「………。」





そっと唇に指を触れる。
きっと、たりない言葉を言えるまでは…。

ルシ、世界…。

その日が来るのか、どうなるのか…。
考え事が多すぎて、今は、まだ、わからないけど…。

ちゃんと、伝えられる日が…来たらいいな、と。
その気持ちも、嘘じゃない…それも、本当の気持ちだった。




END


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