それは、シンとの決戦を控えたとある日。
スピラの空を自由に飛び回る、アルベド族の飛空艇の中。

あたしはとあるフロアで、アーロンと何気ない会話を交わしていた。

事件は、その真っ只中に起こった。





「……。」

「………。」





背中には壁。
あたしの顔の両サイドには、力強そうな手があたしを挟むように壁につかれている。

そして正面…というか、間近にはアーロン。

事が起きたのは…そう、簡単な話だ。
何が原因かはしらないが、グラッと大きく、突然飛空艇が揺れたのだ。

とんでもない突風に吹かれたか、空にいた魔物を避けたか…。
まあ、想像出来る理由は色々だね。

それはほんの一瞬で、今は何事も無く飛んでくれてるから、墜落とかそういう心配はしなくて大丈夫だろう。

だから問題は…今のこの状況だ。

壁に寄り掛かっていたあたしに関しては、ちょっと揺れたところでそう別に何事も無かった。
でもアーロンは違う。アーロンはただ突っ立ていただけだから、そのままバランスを崩して…ドンッと。

わかりやすく言いましょう。
あたしは今、アーロンに両手で壁ドンってやつをされておりました。





「…び、びっくりした…」

「………すまん」





ぽそっと言うと、アーロンも謝ってきた。

いやね本当、結構ビックリした。
だって急に飛空艇が揺れたと思ったら、アーロンがバランス崩すんだもん。

んでそのままあたしの方にぶっ倒れてくるわけだよ?
本当、潰されるかと思ったよ。

まあそうならないよう、アーロンは踏ん張ってあたしの顔の両脇に手をついたわけなんだけども。





「………。」





しかし…この状況は…。
あたしはじっと、凄く近くにいるアーロンを見上げた。

アーロンは大きいから、多分後ろから見たらあたしなんてすっかり隠れてしまっているだろう。
あたし自身、すっぽり影に覆われてしまってるのを感じてた。

いやあ…それにしても、ねえ…。
このガタイ…それに極めつけはこのサングラスだ。





「……うおお…こえー…やばいよ、この威圧的…。何もしてないのにごめんなさいって言いたくなる」

「…お前な」





つい正直に零したら、サングラスの奥でぎろっと睨まれた。

おおう…この近距離でやめておくれ…。
ガチでちょっとおっかなくて、思わずふっと視線を逸らした。

いやでも本当、これはなかなかの威圧感…。
ヘビに睨まれたカエルって言うの?

こーれは…ワッカやリュックあたりなら泣き出しちゃうんじゃないって感じだ。





「うーむ…。壁ドンって萌えシチュエーションのはずなんだが…まさか恐怖が勝っちゃうとは」

「……。」

「んー、流石、魔物も脅せる男は違うね…。あっはは!おっかないなー!」





なんか一周回って面白くなった。
だからケラケラと笑ってしまった。

が、アーロンとしては…どうやら何か面白くなかったらしい。





「…随分と無防備じゃないか」

「…ん?」

「この状況でよくへらへらしていられるものだな。もう少し危機意識を持ったらどうなんだ」

「え…わわわっ、ちょ!」





突然、アーロンがずいっと顔が近づけてきた。

わわわわ…!
ちょっとびっくり!

というか、結構どきりとした。

ち、近い…。
このオジサン…突然何を…。

いやね、だって流石に状況が状況だし…。

…なんか、不機嫌そう。なんでだし。

うーん、でも、考えてみると…。
あたしがへらへらしてたのは、どうしてだろう。

そんなもの、理由は一つしかなかった。





「ううーん…でも別に、嫌じゃないからなあ…。全然違う誰かだったら、真っ先に抜け出す方法考えてるとは思うけど…アーロンだから」





無防備…。
って別に、あたしの場合はアーロンなら構える必要ないのだ。

ただ、それだけの話だろう。

そう言って見せると、なぜかアーロンは頭を抱えた。





「…お前…どこで覚えてきたんだ、そんな言葉」

「へ?なにそれ?んー…まあ、でも流石にちょっとね、恥ずかしくなってきたかなあ…」

「………。」





いつまでこの体制続くのだろうか。
いや、多分話し始めちゃったから、離れるタイミング失っただけなんだけど。

しかし目の前にこう…ね。
この状態は流石に…気にし出すと恥ずかしくなってくるもんだ。

しかもアーロン…さっき距離詰めてきたし…。

だから頬を掻きながら、さっきのようにまた視線を少し逸らす。

だけど一度だけチラッと見て、照れの隠しにもういっちょ。





「うーん、でもやっぱ、おっかないのも確かだよね」





最後に一つ、あっは!とまた笑う。

するとアーロンは「一言余計だ」と、そう言いながらゆっくりと離れ、ガンッとあたしの頭に拳骨を落としていった。



END


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