《ナマエだって、絶対喜ぶって〜!》





そう言って笑ったのは、悪戯好きの忍者娘。





《心外だな〜!あたしはねえ、これでもクラウドとナマエのこと応援してんだよ!》





奴はいつも、ろくな事をしでかさない。

だけど、つい良い気になってしまったのは…彼女の名を出されたからだろうか。
…しかし、やはり信じたのは間違いだったと思う。

そう…思い知った時には、もう時すでに遅し…。





「クラウド?」





俺が壁についた手の横で、きょとんと俺を見上げるナマエの瞳。

ああ…恨むぞ、ユフィ。
逃げ場をなくした俺は、数十分前の出来事を思い出して、ユフィの事を呪っていた。





《クラウド、壁ドンって知ってる?》





はじまりは数十分前のこと。
ふと、思い出したように言ったユフィの言葉が切っ掛けだった。





《壁ドン?って…壁際に追い詰めるやつか?》

《そーそ!こうやって、壁際にいる女の子にドンッてやんの。やったことある?》

《…いや、無いだろ。普通》





やったことあるか、って…。
そんなもの、芝居の中だけの話だろ。実際にやったやつなんているのか。

そんな怪訝そうな視線を向けるとユフィはつまらなそうに口を尖らせていた。





《なんだよー。つまんないなー。1回くらいやんなよ!》

《…なんでだよ、嫌に決まってるだろ》

《はー?馬鹿だなー!女の子なら1回はされてみてたいシチュエーションなんだよ?ナマエだって例外じゃないよ。クラウドにとっても結構反応、見物なんじゃない?》

《…………。》





自分でも、えらく単純だとは思った。

だけど、ナマエの名前を出されると…なんだか胸の奥が疼くような、そんな感覚を抱かされてしまうのも事実。

それに、どういう反応をするのか…か。
そこにもちょっと、正直興味が湧いて…。

完全に踊らされてるな…。

だけど、あとは…そのままだった。

ユフィと離れしばらくすると、壁際に寄り掛かっていたナマエを見つけた。
俺はそこに歩み寄って、ナマエの前に立った。

するとナマエは俺に気がつき顔を上げ、目があうとニコッと微笑みをくれた。

その笑みを見て、ああ…好きだな…と思う。

そんな事を思いながら、俺はゆっくり手を伸ばした。
そしてそっと、トン…と優しくナマエの横に手をついた。





「クラウド?どうしたの?」

「…いや」





だけど、実際やって…それは即後悔に変わった。

目の前にいるナマエのきょとんとした顔を見ると…自分が失敗しているのだと嫌に実感させられて、無性に逃げ出したい衝動に駆られてきた。

そもそも…俺はナマエにどんな反応を期待していたのか…。

もはやそれすらわからなくなってる始末だ。

だけど今更逃げたところで、この状況を無かったことには出来ない。

だったら突き進んでみるしかないのか…。

言い訳すら失っていた俺は、なんでも言いから何か言わなければと思った。





「……いや、どう…だ?」

「どう、って?」




だから、そう尋ねてみた。
正直…しりすぼみではあったけど…。

するとナマエはきょろっと今の状況を眺め、そして的を射て俺に聞いてきた。





「これ、壁ドン?」

「………。」





まさに直球だった。
目の前でじっと俺を見つめながら、ストレートに尋ねてきたナマエ。

正直…凄く反応に困った。

そんな俺に出来たのは、とりあえず頷く事くらいだ。





「…ああ、…そう、だな」

「…ふーん…そっか」





呟くナマエ。ふーん…そっか、って何なのか。
ナマエの反応に困惑した。

そうすると、ナマエは少し何かを考えるような素振りを見せた。

だけどそれもつかの間。

ナマエはすぐに俺を見上げ、ふっと…柔らかい笑みを浮かべてくれた。





「ふふ、なるほど。こういう感じなんだね」

「え…?」

「ふふふ、結構いいね、きゅんとした」

「…え」





胸に手を当て「えへへ」と少し照れたように笑う。
そんな顔を間近で見て、俺はぎゅっと胸を掴まれたような感覚に陥った。

…本当、とことん俺はナマエに弱いらしい…。

というか、きゅんとしたって…それは、つまり…。
その意味を考えようとした、その時だった。





「じゃあ…えいっ」

「っ、なっ…ナマエ?!」





突然、ナマエが壁から飛び出す様に俺に向かって抱き着いてきた。

…っは!?

本当に、あまりに突然で何の反応も出来ない。
ただ感じるのは、ナマエが俺にぎゅっと抱き着いているという事実だけ。





「ふふ、おかえしです」

「…え…?」





抱き着いたまま、俺の胸のあたりから顔を見上げてくるナマエ。
その顔は凄く笑顔で、なんとなく…とても楽しそうだ。





「壁ギュってやつだよ。ふふっ」

「かべ、ぎゅ…」





ぎゅ…っと抱き着いてくれる。
俺の胸に頬をうずめて、背中に腕を回して…。

ああ…多分、きゅん…とした。
俺は壁に手をついたまま、ナマエの肩あたりに頬を押し当てる。

わりと…お見通し、だったのかもしれない。

きっと…俺よりも、ナマエの方がずっとずっとウワテだな…。
…そんなことを思った、とある午後のことだった。



END


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