アバランチのアジト、セブンスヘブン。
依頼された任務を終え、戻ったこの場所で会った少女、ナマエ。

彼女は俺が初恋の相手に似ていると言った。

しかし、俺には彼女の語る思い出にまったくの身に覚えがない。
だからきっと人違いだと、そうあまり気にしてはいなかった。





「んー。やっぱ見れば見る程そっくりだなあ」

「何度見ても俺があんたのヒーローに変わる事は無いぞ」

「へんっしん!って?んふふ、突然変わっちゃったら面白いけどね」

「変身しないから安心していい」

「つれませんな〜」





軽く笑みを零し、ティファが地下に行く前に注いだジュースを飲むナマエ。

その笑みを見て、幸せそうな奴だなと思った。

でもそれは決して悪い意味では無い。
本当に楽しそうに話すから、多分俺も悪い気はしていなかった。

可愛げがあると、素直にそう思っていた。





「さーて、じゃあそろそろおいとましようかな」





しばらく話した頃だった。
ジュースを飲み終えたナマエがカウンターを立ち上がった。

それを見て、俺は何気なく尋ねる。





「帰るのか」

「うん。会議長引いてるし。悪いけど、ティファにごちそー様って伝えといてくれる?」

「それは構わないが、こんな時間に女がひとりでスラムを出歩くのか?」

「あはは、だいじょーぶだよ。すぐそこだし。慣れてるから。この辺、みんな知り合いだしね。つーかあたしを襲うような物好きもそうそういないっしょ!」

「…最後のは何の根拠も無い。ちゃんと用心しろ」





はあ、とため息交じりに言った。

すると、別におかしなことを言ったつもりは無いが、ナマエは目を丸くした。
そして頬を小さく指で引っ掻いた。





「お、おお…なんかそんな風に言われるとちょっと気恥ずかしいな。あはは、うん、ありがとう。気を付ける。ま、変なの襲ってきてもちゃちゃっとブッ飛ばす自信はあるけどね!」

「…頼もしい限りだな」

「うふふ。さーて、じゃあそろそろ本当に帰ります!じゃあ!って…うおう!?!」

「なっ…!?」





何もないところでこける奴って本当に居たんだな…。
ナマエが歩き出そうとしたその時、奴はなぜかそのままグラッと体制を崩した。

それを見た俺は咄嗟に立ち上がり、ナマエの手を掴んだ。
…が、正直あまり意味は無かった。

何分、本当に突然だったからな…。
掴んだ手はそのまま、ナマエに引きずられるに近い形だった。

が、せめて…と足掻こうとして。



ドンッ!!



手のひらに軽い衝撃。
正直…自分でも何をどうしたのかよくわからない。





「お、おお…」

「………。」





気づけば俺は、ナマエを壁に追い詰める形で手をついていた。





「く、クラウド…ごめん、だいじょぶ?」

「…こっちの台詞だ。こけたのはあんだだろ」

「…そりゃごもっともで…」





壁を背に、俺を見上げるナマエ。

…ああ、こんなに小さいじゃないか。
これでよく襲われてもブッ飛ばすなんて口にするものだ。

早くどけという話だが、俺はこの状況でぼんやり、何故かそんなことを思ってた。

でもその時、その目前にあったナマエの顔が少しずつ緩んでいくのが見えた。





「え、えへへへ…」

「…なんだ?」





突然ニヤニヤしだしたナマエに、ぼんやりしていた俺も流石に疑問を抱いた。
まあ…我に返った、ともいうかもな…。

尋ねてみると、ナマエはじっと俺を見上げてくる。





「いやあクラウド格好いいなあ…!って。なんかありがとうございますって言うか、ごちそう様ですって感じ…?!」

「………。」





なんだかよくわからないが、今の状況に何故かテンションが上がっている様子のナマエ。

いや…まあ、理由が何かと言われれば、多分…初恋うんぬん辺りのことなのだろう。

そこまで似てるのか…?
よくわからないが、こうまで反応されると少し気になってくるような…。

しかし、目の前でこう…えへえへとされているのも、なんだか何とも言えない気分になって…。
俺はゆっくりと手を壁から離した。





「…何もないところでこけるなんて器用な話だ。腕に自信があるというのも疑わしくなったな」

「うっ…!やばい、今の状況だと否定できないねそれ…!」





少し頭の中を整えようと、ナマエを軽く言葉で突けば、彼女はまた面白い様に反応してくれた。
本当…くるくる表情を変えてくれる。

…また会えたら、いいな。

体制を直し、今度こそ本当に…と手を振るナマエの姿に、俺は柄にもなくそんなことを思っていた。



END


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