「くあっ…」





欠伸が出た。
少し涙が滲んだ瞼をこする。

ああ、眠たいなあ…。

くうっ…と腕を上げて背筋を伸ばしてみる。

ううん…瞼重い…。
頭もこう、ぽーっとしてる感じだ。

立ったままでも寝れちゃいそう。

ぼんやりそんなことを思いつつ、ふらふらと廊下を歩く。





「おい、ナマエ」





その時、突然背中の方から声を掛けられた。

ちょっと肩がびくっとした。
こう…ぎょっくんって感じ?

でも同時にふつふつと嬉しい感情も沸いてるこの複雑な感じ…。

あたしは声で察したその人物に笑みを浮かべて振り返った。





「おーう、カインお兄様!今日も大変格好よろしゅうございますですねえ」

「…なんだそのわけのわからん言葉遣いは」





お返しは、すっごい微妙な顔だったけども。

どんなに眠かろうと、この人の声だけは間違うわけがない。
ふつふつと沸いた嬉しい感情の正体は、声を掛けてくれたのがカインだったから…まあ、そういう単純な話です。

となれば、じゃあぎょっくんの理由は?
…これもわりと、わかりやすい話ではあった。





「…お前、ずいぶんと眠そうな顔をしているな」





指摘された。

あ、ちょっと嫌な予感…。

こういう時は笑って誤魔化せ!…てか。
そう思い立ったあたしは、とにかくヘラヘラ…笑み浮かべまくった。





「あ、あはー。んふふ、実は…今ハマってる小説があってね〜、夜な夜な少しずつ読み進めてたりしてね〜」

「……。」





すすす…と軽く後ずさりながらそう言う。
なぜって、勿論その場をなるべく早めに立ち去りたかったからさ。

カインを前にして珍しい事もあったもんだって?
うん。それはあたしもそう思う!

が、まあ…その辺はあたしの野生の勘というか、なんというか?

そしてその勘はどうやら正しかったようで、カインはあたしがそこを離れる前にあたしを見て目を細めた。





「成る程。黒魔法研究室に最近顔を出していないというのはそれが原因か」

「う!?」





おおふ…!
ぐさっと何かが突き刺さった。

いや、なんとなくそれを言われるんじゃないか…と思ってたことが見事的中…。
だから逃げ出そうとしてたんだけど…。

ああ!やっぱりそこ言われてる!?
というかカインの耳にも入っちゃってたとは…!

いやあ、今そんな大きな研究やってるわけじゃないしなあ…というか?

結構長いシリーズものだから、なかなか区切りも見つからず…でしかも途中でダレてしまう事も無く面白いから…ついつい。





「あ、あはー…もうすぐ読み終わるから、そしたら顔出す出す〜」

「………。」

「ということで、失礼…」





ちゃっ、と手を挙げそそくさとその場を立ち去ろうとする。
が、しかし…我らがカイン様がそんなあまっちょろ許してくださるはずも無く…。

先回りされ、行く先をドンッ…と壁に手を突く形で塞がれた。





「…読書は結構だ。が、やることはきちんとやれ」

「お、おお…」





逃がさんと言うかの如く、目の前に現れたドンッと現れた腕にちょっとビックリ。

見上げれば、勿論目前にカインの顔がある。
こ、これは…恋愛小説なんかでよくある感じの体制では?

今の状態に、眠気がだいぶ吹っ飛んだ。





「おおおお…カイン、やっぱ格好いいなあ…!」

「……人の話聞いてるのか、お前」





叱っていてまさか目を輝かせられるとは思っていなかっただろう。
あたしのそんな反応に、カインは物凄く何とも言えない顔をしていた。

いやいや!
でもこれはなかなかですよ!

呆れ顔なんてなんのその。
結構本当にテンション上がった。

我ながら、なんとも単純なもんである。

ううん…。
まああたしもそろそろ顔出さなきゃまずい頃合いかな〜とは思ってたのは事実だしなあ…。

仕方ない。

あたしは最後の眠気覚ましに、パチンと自分の頬を軽く叩いた。





「うっし。じゃあカインにご褒美貰っちゃったし、これからちょろ〜っと顔出してくるよ」

「…俺は褒美では無く、説教をくれてやってるつもりだったんだがな」

「いやいや〜、なかなかのトキメキを頂いてしまいましたよ」




なはは〜と軽く笑う。
まあカインも研究室に顔を出すと言えば、それで構わないらしく、それ以上のお咎めも無く腕を落とした。





「ああ…腕下ろしちゃうの?残念…」

「…お前相手にもう二度と使わんのが賢明だな」

「ええ!?いやいやまたやって!ウェルカム!」

「馬鹿か」





べしっと頭を叩かれた。痛い。
まあ、おふざけも程ほどに。

今日のところはこのくらいで。





「そんなに面白いのか、その小説」

「うん。面白いよ〜!カインも読む?ちょっと長めだけど」

「そうだな…それ程言うなら、興味は湧くが」

「うふ。竜騎士団ほっぽったら駄目だよ〜?」

「どの口が言ってるんだ…」



END


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