伝説のガード 「失礼だが、お名前を聞かせてもらえないか?」 「ビサイドより参りました。ユウナと申します」 「やはりそうか…。ブラスカ様のご息女だね。お父上の面影がある」 キノコ岩街道を抜け、辿りついたジョゼの寺院。 中に入ると、今しがた祈りを済ませたであろう召喚士にユウナは声を掛けられた。 名をイサール。 ふたりの弟をガードとして旅をしている人の良さそう男だ。 奴はブラスカの像をいつも見上げていたと言った。 …大召喚士ブラスカの御聖像、か。 この寺院にも置かれているそれを俺は何気なく見上げた。 「ドナと違って、感じいい人そーだねぇ」 「そっスね。つかドナは際立ってキツいッスよ」 その時、ナマエとティーダがそう耳を打ち合っている聞こえた。 ドナ。噂をしているのはまた別に道中に出会った召喚士の女だ。 ミヘンセッションの前に少し見かけただけだが、確か…気の強そうな印象を受けた。 ナマエたちはくすくすと笑っている。 どうやら、こいつらはそこそこに気が合うようで、その様子にジェクトとナマエが妙に話が合っていたのを思い出した。 単純に、異世界者同士で話が合うのか…。 それとも、流石は親子…というところなのか。 まあ…世界観が近いことの他に、見知らぬ世界に放り出されたという感覚はやはり親近感があるのだろう。 その後、軽く情報を交換した後、試練を越えて祈り子の間へとユウナを見送った。 さて…どれほど掛かるかな。 俺は出口近くの壁にもたれ掛り、祈りの終わりを待った。 ナマエも俺の隣で同じように壁に寄り掛かっていた。 するとその時、その傍の扉がガコン…と音を立てて開いた。 入ってきたのは、先ほど噂をしていたあのドナという召喚士だった。 ひょこっと、俺の陰からその姿を覗いたナマエ。 「おわあお…」 「…あからさまな顔をするな」 奴は小声で呟き、軽く顔を歪ませた。 俺の陰からの分、向こうにその表情は見えていないかもしれんが…俺は軽くナマエを小突いておいた。 「あら、またアナタ達?相変わらず頭数だけは多いわね」 …なるほどな。 こちらの顔を見渡すなり、発せられた嫌味に少し納得した。 実際に面と向かっての態度を見たのは初めてだ。 うわあ、などと言っておきながらもルカで加わったナマエ自身も同様で、目の当たりにしたその嫌味に小さな苦笑いを浮かべていた。 するとその時、ドナのガードの男がこちらに向かってきた。 ナマエはびくりと驚いたようだが、奴が立ったのは俺の目の前。 「どうしたのバルテロ?そのオジサンに何か用?」 …やれやれ。指名は俺か。 じっと睨みつけられるように見られ、少し戸惑いがちに俺を見上げるナマエ。 俺は何も言わず、相手のアクションを待った。 「あんた……アーロンだな」 ほどなく、短く名を尋ねられた。 「だったらどうする」 俺も短く尋ね返した。 すると、どうだろう。 その瞬間、かすかだが男の目元が軽く緩んだのが見えた。 「握手……してくれないか。アーロン…いや、アーロンさん!俺、あんたに憧れてガードになったんだ!」 そして、そう言って手を差し出された。 俺は薄く笑い、手を出す。 すると力強くその手を掴まれた。 一方、隣のナマエはぽかん…と呆気にとられた顔をしていた。 「ありがとうございますっ!か、感激ですっ!」 手を放すと、感極まったような顔を上げて握手したその手を見つめるバルテロという男。 …伝説のガード、か。 差し出した手に、そんなことを考える。 「大召喚士ブラスカ様を守ったガードを捕まえてオジサンとはな」 「物知らずにも程があるわね」 すると直後、他の者はここぞとばかりにドナへの反撃を始めていた。 その様子からは、ユウナが可愛がられている様子がよくわかる。 そうしている中で、隣からぼそっとナマエが一言零した。 「まあ…オジサン、だよね」 ガツン! それを聞いた俺は特に加減をすることなくその頭に拳骨を落とした。 「いったー!!」などと喚き、俺を見上げて睨み付けてくるナマエ。 お前は学習をしろ。 頭を擦りながら睨み続けるナマエの視線を俺はフン、と無視した。 だが、ほどなくしてその顔がにやりとした笑みに変わったことに気が付いた。 その笑みを浮かべたまま、ナマエは言った。 「アーロンやぁさしーぃ」 「……気味の悪い声を出すな」 顔をしかめた。 どこから出したんだその声。 すると、そんなやり取りを見てだろう。 バルテロは今度、ナマエの方へと目を向けた。 「…アーロンさんにその態度…あんたも、まさか…」 「え?」 「いや、若すぎるか…。だが、もしや…あんた、ナマエさんじゃ!?」 「ええ!?そ、そうですが…!?」 突然向けられた羨望にまったく動揺を隠せていないナマエ。 まあ…こいつの話を聞く限り、自分が今のスピラにとってどのうような立場にあるのかまったくわかっていないだろう。 「感動だ…!あんたも是非握手を…!」 …完全に呑まれているな…。 ナマエはバルテロの勢いに押されるまま、手を差し出して握手を交わしていた。 「び、びっくりした…。そっか、伝説のガード…か。最後まで旅してなくても、そういう風に見られるんだね」 「ああ、それほどスピラにとって大召喚士という存在は大きいからな」 その後、皆から自分がスピラという世界でどのように伝わっているのかを聞いたナマエはその意味について多少考えることをしたようだ。 ブラスカ様のガード。自由自在に炎を操る最年少の紅一点。 ブラスカを魔物の特殊な攻撃から庇い、その際に行方不明になった。 誇張され、尾ひれがついているとからかわれながらも、実際それを一番わかっているのはナマエだ。 己に掛けられた羨望や期待に戸惑うなという方が無理な話ではあった。 「すっごいガシッって握手されたねえ」 「ああ」 「握手求められたのなんて初めて。というか、そんな日が来ようとはって感じ…」 強く握られた手を見つめ、はー…と感心しているナマエ。 確かに、両手で強く握られていたな。 あの巨体だ。潰れるんじゃないかと思うくらいには…。 本当に…強く、な。 俺は横目に手を眺めるナマエを見つめる。 するとナマエもパッと顔を上げ、俺の顔を見上げてきた。 「んー…でもそっか。じゃあアーロン、握手しようよ」 「…なぜお前と握手しなければならん」 そして…なんの突拍子もない。 ナマエは突然、俺に握手を求めてきた。 当然、俺は顔をしかめる。 「えー。だってなんか有名人なんでしょ?だったらしとくべきかなあ…みたいな?」 「…意味が分からん」 なにがどうしてそうした発想になるのか。 まったくもってわかる気がしない。 しかしナマエは「いーじゃんよ!」と半ば強引に俺の手を掴みとった。 「はっはっはー。アーロン、手でっかいなあ」 「…お前は小さいな」 わけがわからんのは確かだが、振り払う理由も無く俺はナマエにされるがまま手を握っていた。 …本当に、小さな手だ。 触れた事くらいはあるが、こうまじまじと握るのは初めてだった。 …こんな風に、握られていたんだな…。 先ほどの光景が、頭の中で微かにちらついた。 「…小さいな」 ぼそっと呟いていた。 独りごとだ。 聞こえるように言ったつもりは無かったが、ナマエの耳には届いたらしい。 ナマエは俺を見上げてきた。 その顔はなぜか、むすっと少ししかめられていた。 「あのさあ、そんな小さい小さい言わないでくれる?そりゃさ、こう…すらっとした綺麗な指の方が良いなあとか思うけどさ…」 「………。」 ぶつくさと不機嫌そうに呟いているナマエ。 …今言った小さいは、お前に対しての言葉では無かったが。 まあ…勘違いしてくれたならそれでいい。 俺は触れたその手を塗りつぶす様に、握るその手に少し力を込めた。 To be continued prev next top ×
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