世界を変える大馬鹿野郎



照りつける太陽。
風に舞うのは無数の砂。

俺たちは、つい先ほどまでマカラーニャ寺院の底にいた。
しかしその景色は一変し、今目の前に広がるのは先の見えない一面の砂漠。

恐らくビーカネルだろうか。
確証はないが、そう一応の目星はつけてみる。

では何故マカラーニャから突然ビーカネルなのか。
その理由は至って単純、マカラーニャでシンに遭遇したからだ。

おかげで皆と逸れ、俺はこうして砂漠を歩く羽目になっている。
腕に、ナマエを抱えながら。





「……。」





横抱きにしたナマエの顔を見下ろせば、奴はまだ意識を手放したままだった。

同じようにシンに飛ばされたナマエはその衝撃で気を失ったのか、砂の上に倒れ込んでいた。
倒れていた場所が俺が飛ばされたからわりと近くであり、すぐ見つけることが出来たのが不幸中の幸いと言ったところか…。

マカラーニャでも気絶してその直後にまた…と言うのは正直不憫ではあるな。

そんなことを考えながら、足を進めていく。
するとその最中で、俺はひとつのアルベド族の集団に出くわした。





「近くにグアドの捜索隊がいるらしいな。さっき通信を拾った。召喚士ユウナを確保したら、ガードは殺せってさ」





その中にいたひとり、眼帯をつけたアルベド族の若い男。
そいつはアルベド語以外の言葉にも理解があり、そんな情報を俺によこした。

グアドの捜索隊か。
まあ、そうだろうな。

老師殺しの大罪を、そのままのさばらせておくはずがないのだから。





「首引っ込めて、おとなしくしてたら」

「忠告か」

「奴らを刺激して欲しくないってこと。俺も寺院に追われる身なんで」





男は俺に身を潜めることを提案した。

話の通じる相手ではある。だから忠告の意味も実際にはあるのだろう。
だが、アルベドとエボンの関係性を考えれば奴らを不用意に刺激されたくないのも正直なところ、か。





「先に謝っておこう」





男の忠告に、俺はそう返して先を歩き出した。
このまま何もアクションを起こさないという選択肢は恐らく無い。

この先、騒ぎを起こすであろう事は火を見るより明らかだった。





「…やる気かよ」

「ふん」





歩き出した背にそう声を掛けられる。
俺は足を止め、否定をしなかった。

俺が謝った時点で止めても無駄だと男もどこかで察してはいたようだ。

奴は小さく息をつくと、後ろ頭を掻いた。





「…やっぱりな。いい加減逃げるのも飽きたし、寺院と戦うのもアリかって思うけどさ、んなこと言ったら笑われそうだろ。馬鹿じゃねーのって」





スピラの全てと言っても過言ではないエボン。
そんなエボンに刃向うなど、確かにどうかしているだろう。

だが、そんな時頭にチラつく男がいた。
そして…今俺の腕の中にいるこの娘。

常識を覆すその意味を、初めに俺に焼き付けたのは…きっとこいつらなのだろう。





「世界を変えるのは、いつだって大馬鹿野郎さ」





俺は男にそう告げた。
すると男が「大馬鹿野郎ね…」と言葉を小さく繰り返したのが聞こえた。

それを聞き、俺は先を行こうとする。

しかし最後にもう一度、男に呼び止められた。





「なあ、その子もガードなのか?」





再び足を止めた。

…その子、とは。
聞くまでも無い、それは未だ目を覚まさないナマエの事だろう。

俺は振り返り、頷いて見せた。





「ああ、そうだ」

「ふーん」





男は近づいてくる。
そして眠るナマエの顔をまじまじと覗きこんできた。





「…なんだ」





あまりに眺めているものだから、俺はそう声を掛けた。
すると男は顔を上げ、「いや…」と口にした。





「その子も、戦うんだよな」

「ああ。弱そうに見えるか」

「んー。まあ、屈強には見えねえけど」

「…戦闘が得意とは言わんだろうが、…そうだな、欠けてならん存在だ」





意識が無いからか…少し、饒舌になったか。

不慣れながらも、必死に戦闘に向かっていこうとするナマエ。
その姿は大したものだと感心を覚えている。

まあ…戦わせずに済むのなら、それに越したことは無いのだろうな。





「へえ…あんたみたいな男が、欠けてはならないなんて言うんだな」

「何か可笑しいか」

「いや、話せないのが残念だと思ってさ」

「…別に、大した面白味は無いと思うがな」





もう、そろそろいいだろう。
俺は再び背を向けて歩き出す。

恐らく、二度会う事は無いだろう。

だからだろうか…。
いつも喉元で抑える言葉が音になろうとする。

まあ、ほんの少しの気まぐれだ。





「…共にいられることを有り難く感じる存在ではあるがな」





それを最後に、俺はその場を立ち去る。

さて…他の奴らはどこにいるか。
ナマエも、いつ目を覚ますだろうか。





「……。」





砂漠を歩きながら、抱えるナマエの顔を見た。
相変わらず、呑気に意識を手放したままか。

その顔をしばらく見つめた後、俺はナマエの抱え方を横抱きから肩へ担ぐような形に変えた。

…柄でも無い事を言う物では無いかもな。

目を覚ました時、米俵かと文句を言われそうだな。
だがまあ、それでいいだろう。

ナマエが目を覚ます時を想像しながら、俺は砂を踏んだ。



To be continued


10-2のギップルのスフィアに当たるお話です。
アーロン好きは必見ですよね、あれ。

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