信じているという言葉


「あー…やっぱ乗り物は快適だわ〜…」





ブロロロロ…というエンジンの音。
かすかな揺れがほんわりと眠気を誘うような気もしてちょっと心地良い。

あたしは背もたれに寄りかかり、うーん、と体を伸ばして思いっきりくつろいでいた。





「う…おえっ…死ぬ…死ぬぅぅぅ…」

「……。」





だけど、くつろぐそんな隣で死にそうな声が聞こえた。
ちらっと見れば、そこには背中を丸めてぜーはーしている忍者娘の姿。
時にはうぷっとえづいてる。

あたしはやれやれと頭を振った。





「ユフィ〜、大丈夫、死なないから安心しろ」

「…苦しんでるユフィちゃんに向かって…うぷ、かける言葉はそれかお前ぇ…」

「ほいほい、下向くと余計酔うから上向け、上。で、ほら、遠くの空でも見る」

「うう…」





ユフィの丸めた肩に手を当てて、ゆっくりと体制を変えさせて首を窓の外に向けさせる。
すると「ナマエにこの苦しさ味わせてやりてえ…」とかほざかれた。
あんただって介抱してあげたナマエちゃんに向かってその言い草やないかい。

まあいいや。
これ以上余計に喋らせていたぶる趣味はないからね。

あたしはまたやれやれと首を振り、そのまま黙って自分の席に座りなおした。





「ふふ、移動は楽になったけど、ユフィには地獄、だね?」

「そうだね。次の町に着いたら酔い止めでも見てみようか」





すると、それを聞いていたエアリスとティファがひょっこりと後ろの席から顔をのぞかせた。

今、あたしたちはバギーに乗っている。
これは冤罪のお詫びとしてゴールドソーサーの園長ディオから贈られたものだ。

コレルプリズンでの一件はクラウドがチョコボレースで無事に勝利し、そしてその際にサポートをしてくれたエストという女性の口添えであたしたちの冤罪は無事に晴らすことが出来た。

色々大変ではあったけど、こうしてバギーという足が手に入れたことは旅にとってなかなかプラスなことだろう。

コレルプリズンにいた時点でここが終わったらしばらくはバギーに乗れるな〜なんて考えてたあたしもいざ乗ってみてその恩恵の有難いこと有り難いこと。
特に酔いもしないあたしは歩かなくていいという至福を心行くまで楽しんでいた。

ま、この世界を歩くのは別に好きなんだけどね。





「ん…?なにあれ…」





その時、遠くを見ていたユフィが外の景色に何か見つけた。
その声に反応して皆も窓の外を見やる。

あたしは少し考えた。
バギーを手に入れて辿りつく目的地…次は、ゴンガガだよね。
となればユフィが見つけたのは…。

そう少し想像しながらあたしも外に目を向ければ、ビンゴ。





「あれ、なんだ…?魔晄炉…?」





運転席からクラウドが呟いた。

窓の外にあったもの。
それは大きな建造物で、でもなんだか黒ずんでる。
まるで爆発でもしてしまったみたいな。

それはゴンガガの、メルトダウン魔晄炉だ。

呟くのは心の中でだけだけど。

なんにせよ、他に目ぼしい集落もないしというわけで、そこにバギーを止めて一度見に行ってみることになった。
建造物があるということは、人がいる可能性も無きにしも非ずだし、と。





「ナマエ、あんたは行くか?」

「うん。行く〜」





クラウドに行くか聞かれ、あたしは軽く頷いた。
この世界の場所は見れるだけ見ておきたいしね〜。

他にも一緒に行ことになったのはティファとエアリスだ。

バレットはコレルの一件でちょっと疲れたらしい。
ユフィはげろげろげーでケット・シーとナナキは悩んでたけど丁度これで半々だからと残る事になった。





「よし、じゃあ…行くか」





バギーから降り、チャッ…と背中に剣を装備したクラウド。
彼のその言葉に女の子ふたりの「はーい」という可愛い声がした。
あたしは「いってきまーす」と残った面々にひらひら手を振った。





「結構広い森、だね」

「ええ。でも道はちゃんと人の手が入ってるみたい。もしかしたら木で見えなかっただけで村もあるのかもしれないわね」

「へー。ティファ鋭いね〜」

「ということは、あるのね?ナマエ」

「んふふ〜」

「ほんと?じゃあお買い物、出来るかな?私、マテリアとアクセサリー見たい!」





エアリスとティファとのんび〜り森を歩きながらゆる〜く雑談を交わす。

ゴンガガは森に囲まれた集落だ。
今日は天気も悪くないし、木漏れ日とちょっと涼しい森の中はなかなか気分爽快である。
んでもってエアリスとティファとお喋りですよ。最高かよ!あたしは今日も絶好調だ。

まあ村や魔晄炉に着く前にちょっとしたイベントがあることは忘れていない。
そろそろなんじゃないかな…なんてお喋りの中頭の隅で考えていると、ひとり一歩前を進んでくれていたクラウドがふと足を止めた。





「……誰かいる」





足を止め、そう小さく言った彼の声に皆もぴくりと反応した。
ティファとエアリスは息をひそめ、ゆっくりとクラウドの傍に寄っていく。
あたしも、ああ来たか〜…なんて思いつつ、ふたりと同じようにクラウドの傍にまとまった。

皆で伺った先にいた人物…。
それは黒いスーツに身を包んだ、男の二人組だった。





「なあ、ルード。あんた、誰がいいんだ?なに赤くなってるのかな、と。ん?誰がいいのかな?」

「……………ティファ」

「な、なるほど……と。辛いところだな、あんたも。しかし、イリーナもかわいそうにな。あいつ、あんたのこと…」

「いや、あいつはツォンさんだ」

「そりゃ初耳だな、と。だってツォンさんは あの古代種……」





聞こえてきたピュアピュア恋愛トーク。
交わしているの二人組は言わずもがな、タークスのレノとルードだ。

道のど真ん中で何の話してんねーん、という突っ込みは多分正しいだろうと思う。うん。

しかもその内容には今ここにいるティファとエアリスのふたりの話も出てきてる。
当の二人はちょっと目をぱちぱちさせてた。

ん〜、でもさあ、レノとかってこーゆー話題鋭そうなイメージ無い?
でもイリーナがルードってだいぶずれてるじゃん?イリーナどう考えてもツォンじゃん?
てことは案外ニブちんだったりするのかな。





「あいつら何の話をしてるんだ?」





そして眉をひそめてめっちゃくちゃ訝しい顔をしているクラウドくん。

今お話に出てきたふたりの御嬢さんの意中のお相手と言えば君であるからして。
なんか図にしたらどっろどろのすげーのが出来そうなものである。





「ホント、くだらない!先輩たち、いつでも誰が好きとかキライとか そんな話ばっかりなんですよ。ツォンさんは別ですけど」





そしてそんな時、後ろから女の子の声がした。
振り向けばそこにいたのはスーツの女の子。タークス新人のイリーナだ。





「あ!いけない!先輩たち!来ました!あの人たち、ホントに来ましたよ」





そしてそんなくだらない話をしている先輩たちの元へ駆けていくイリーナ。
そこでレノとルードの視線もこちらに向いた。

多分一番前にいるクラウドとレノの視線がぶつかった。
ティファやエアリスにも少し緊張が走っただろう。





「そうか……出番だな、と。ルード……あの娘がいても手を抜くなよ、と」

「……仕事はちゃんとやるさ」

「じゃ、先輩たち。あとはよろしくお願いします。私はツォンさんに報告にいきま〜す!」





先輩二人を残し、イリーナはひとりその場から去っていく。

レノはロッドを、ルードは拳を構えてこちらを見据えてきた。

あ、そっか。ルードとティファって戦い方同じタイプって事か。もしかしたらそういうのもあるのかも?
多分ちょっとズレたこと考えてるのは勿論承知しておりますとも。





「久しぶりだな、と。七番街の借りは返すぞ、と」





トントン、と肩にロッドを当てながらレノはそう言う。

七番街。柱の上で戦った時、そこそこレノのことは追い詰めたはず。
だからレノは強行突破を狙ってきて…。

あの時のことは勿論忘れるわけはないわけで。





「ジャマだ……どこか行け」





クラウドは毅然とそう言い捨てた。
そんな様子はレノたちにとっては面白いものでは無いだろう。





「なめられるのは嫌いだな、と」

「これ以上、先に進ませない」





その瞬間、タークスのふたりが駆け出してくる。
サッと剣を構えたクラウドとレノのロッドがガンッという激しい金属音を立てる。

それが戦いのはじまりの合図だった。





「ティファ!」

「わかった!」





クラウドがティファを呼ぶ。
今回の戦闘ではこのふたりが前衛だ。

あたしとエアリスは後方からふたりのサポートをすることになる。

咄嗟に腰に下げていた杖を構えたところで、あたしも戦闘慣れ少しはしてきたよなあ…と頭のどこかで思った。

まあ4対2だ。
まずこちらが不利になる様なことはなくて、ルードがこれ以上先に進ませないと言ったけれど、それはある程度の時間稼ぎを意味していたんじゃないかと思う。





「逃げるが勝ちだぞっと」

「……。」





多分そこまで長い時間では無い。
しばらく戦闘を続けると、レノとルードは退散していった。





「クラウド、ティファ、お疲れ様」

「うん、ご苦労さまでした」





一息つくクラウドとティファにエアリスとあたしは近づき、それぞれにケアルを唱えた。

さっきも言った通り、苦戦はなかった。
だけど今その場にある空気はどことなく引っ掛かりのあるものだ。

決定的だったのは、さっきイリーナが言った『あの人たち、ホントに来ましたよ』って言葉かな。





「ねえ、なんか変じゃない?待ちぶせされてたみたいよ」





ティファがその疑問を口にした。
クラウドもエアリスも驚かなかった。ふたりも待ち伏せされていたと感じたからだろう。

そう。確かにタークスはここでクラウド一行を待ち伏せていた。





「尾行されたか…。…いや、そんな気配はなかった。ということは…」

「神羅のスパイがいるとか…」





腕を組んで考えたクラウドに、おずっとエアリスが呟く。
スパイと言う単語を聞き、ティファは「そんな…」と表情を曇らせた。

あたしは、何も言わなかった。

だってこのことに関しては、何も言うつもりは無いから。
どうして待ち伏せされたのか。スパイと言う存在について。

答えは全部知っているけれど。

そう言えば、タークスはあたしが未来について知ってるってことは気にしてる様子なかったな。
特にあたしは眼中に無かった感じ。

それは神羅側にとって有益では無い、または興味の無い、信憑性の無い話だと判断されたか…それとも、スパイさんが情報を提供していないか、どっちだろうなあ。





「スパイがいるなんて、考えたくもない……」





その時、少し重くなった空気を壊すようにクラウドがそう口にした。
ティファとエアリスはクラウドを見る。あたしも見た。

クラウドもあたしたちの顔を見ていて、見渡して、そして真っ直ぐに言ってくれた。





「俺はみんなを信じるよ」





ゲームにもあった台詞だ。
プレイしてこの台詞を見る度に、あたしは思う事がある。

これって、素のクラウドの言葉っぽいよなって。

優しい、あたたかなクラウドの言葉。

でもそんな言葉を聞いて、思った。

あたしはスパイの事を知っている。
誰が裏切り者で、クラウドたちの行動を神羅に伝えているのか。

でもそれを言わないあたしは同じように裏切り者ではないかと。

心の中で、くすりと自分を笑った。

それでも言う気はないけれど。
だってこれを此処で言ったら、思いっきり流れ変わったちゃうもんね。





「…うん、じゃあひとまずこの話は終わりにしましょう。えっと、あの大きな建物はこの先ね」

「うんうん。別の道、あるけど、ひとまずはバギーからも見えた方、行ってみよっか」





仲間を信じると言ったクラウドの言葉にティファとエアリスは賛成し、空気を入れ替えるように再び道を歩き出した。

あたしもそれに続くように足を動かす。
でもその時、クラウドが口を開いた。





「ナマエ。あんたのこともだ」

「ん?」





名前を呼ばれ、あたしは振り返った。
するとクラウドもあたしを見ていた。

あたしは首を傾げた。





「あんたのことも?」

「…あんたは色んなことを知ってて、言ったり言わなかったりするだろ。それに前に独断や偏見で動くとも」

「ん?うん、そーだね」





クラウドの言葉にうんうん、と頷いた。

いやだって言ったのはホントだし。
それに言ったり言わなかったりってのもホント。
それは現に今だってそうだし。

するとクラウドは小さく息をついた。





「…正直、気が気じゃないと思う事はある。ため息つきたくなることも。…だけど、あんたにはあんたの考えがあるんだろ」

「うーん、まあ?」

「それを信じるって言ってるんだ」





目を見て言われた。

正直、ちょっとビックリした。
だってそんな風に言われるなんて思ってなかったから。

あたしはへらっと笑った。





「へえ〜。そりゃ嬉しい限り!でも、かなーりあたし好き勝手やってると思うけど?」

「…そうだな。でも、そんな風に言いながら、肝心なところは他者の為に動いてる。それに、俺の味方だって、初めて会った時に言っただろ。…その言葉を、信じるさ」

「……。」





言葉を探すように。
クラウドはどことなく気恥ずかしそうにも見えた。

けど、その言葉は揺らいでいなかった。

クラウドの味方。それは、確かに間違いない。
だから初めて会った時、クラウドの傍に置いてもらう為にそう言った。
それは嘘にはなりえなかったから。





「…そろそろ行こう」





クラウドはそれを最後に、ティファ達を追い駆けて前を歩き出した。

…信じてる、か。
本当、面と向かって、そんな言葉を貰えるとは。

きゃー!クラウドがあたしのことを信じてるだって!
すっごいセリフ!なんのご褒美!?録音して聴きたいね!

…なーんて。





「そりゃ、どうも…ありがとう」






そう言って、あたしも歩き出した。

…信じてる。

嬉しい言葉だと思う。
うん、信頼を置いてもらえるのは、きっと嬉しい事。

でも…少し、重たい言葉に思う。
それは多分、いい意味でも、悪い意味でも。



To be continued

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