迷子、自覚


ガタンゴトン、揺れながら走る列車の上。

あたしは今、その列車の屋根の上に乗っている。
金髪青目のイケメンさんにしがみつきながら。

………。

って、なんだそれ!


思わず心の中で突っ込んだ。
いやいやだって、どう考えてもおかしいもん。

あまりにぶっ飛んだわけのわからない状況。
そりゃノリツッコミもしちゃうってもんだわよ。

いや本当、突っ込みどころはいくらあげてもきりがないほどあった。

うーん、まずさ、これって犯罪じゃない?
電車の屋根とかニュースになっちゃうでしょ。あと、無銭乗車だよね?

…あ、絶対御用だコレ。
お縄頂戴されちゃうパターンだ。嘘だろ…。

しかし、今しがみつく事を止める事が出来ないのも事実…。

だってもし止めたとして…万が一こっから落っこちてしまったら?
列車の上から「あ〜れ〜」なんて一番避けたい状態だ。そんなグログロ求めてません。

ただ、家でゲームしようとしてただけなのに。
…あたしなんで今こんなことになってるの。

ううむ…考えれば考える程、謎は深まっていくばかりである。





「おい」

「へ」





そんな時、そんなあたしの上から静かな声が落ちてきた。

まあ説明は不要だろう。
それはあたしを抱きかかえてる、金髪青めのお兄さんの声。

見上げてみれば、トンネルの微かなライトに照らされた顔がぼんやりと見える。

そして改めて見て、やっぱり思った。
やっぱこの人、クラウドみたいだよなあ…って。

もうなんかコスプレとかそういう域を越してるような。
しかも何あの躊躇なく列車に飛び乗っちゃ感じなんなの。

…駄目だ、余計に混乱した。





「おい…何ぼーっとしてる。人の話聞いてるのか」

「え、あ…す、スミマセン…?」

「…まあいい。巻き込んで悪かった。少々訳ありでな、神羅とは都合が悪いんだ」

「…し、しんら…?」

「あのままじゃあんたも捕まるか蜂の巣だったし、あの状況だとこう逃げるくらいしか方法が浮かばなかった」

「はあ…」





耳に流れていく、彼の謝罪と説明。

その中であたしの頭に物凄く印象を残したのは、シンラという単語だった。

シンラ…。
って、神羅…?神羅カンパニー…?

神羅電気動力株式会社?
え、神羅エレクトリックパワーカンパニー?

なんか凄い単語が頭をグルグル…。

いやいやいや!んなアホな!

あたしは浮かんだ考えを思いっきり投げ飛ばした。
どんだけFF脳やねん!一回落ち着けってんだ!

シンラって、なんか別の何かかもしれないし?
そもそも聞き間違いかもしれないし?

落ち着け、落ち着けよ。
とりあえず、FFから離れような。

ひたすらとにかく、頭の中で落ち着けを繰り返した。





「けど…あんた、いったい何処から現れたんだ?」

「え?」





なんとか落ち着かせようとした思考回路。

そのいい切っ掛けになったのは、彼の新たな言葉だった。。
それは、どこから来たのかという問い掛けだ。

…どこからって…そりゃ、……マイホーム?

あたしの頭に浮かんだのは、素直にそんな回答だ。
しかし、それを答える前に彼は「いや…」と首を振ってあたしが口を開くの遮ってしまった。





「…悪い。こんなところでする話でもないな。とりあえずいつまでも此処にいても仕方ない。中に入るぞ」

「へ、なか?」





きょとんとしたあたしに彼はクイッと首で列車を示して見せた。

つまり、列車の中に入ると。
……どやって?

完全に謎だ。
でもあれ、この展開もゲームと似てるような。

そんなあたしのグルグルを余所に、彼はあたしを抱えたままズリズリと慎重に列車の端の方へと移動を始めた。
そこから先は、正直何が起こったのかまったくわかってない。

だって、そのあとあたしが事をきちんと把握出来たのは…。





「うわあああああ?!!」





突然、クラウドっぽい彼に抱えられたまま、ブンッと物凄い勢いで列車の中に飛びこんだ。

あたしが事をきちんと把握できたのは、その入り込んだ直後だ。

ブンッの瞬間は何が起こったのかまったくわかってない。
それでも何かと言うなら、ただ自分の口からとんでもない奇声が飛び出た事くらいか。

なんか、ぐるっと回ったよ!?
ブオンって凄い勢いで飛び込んだよね!?

何が起こったかよくわからないから、まったく説明が出来ません。

ただ、無事に列車の中には入れた。
それで…と、とりあえず良しとしておこうじゃないか。

…生きてる。
うん…それが大事だ、うん。

それでとりあえず片づけた。多くは気にしないでおこう…。

それに、問題は他にもあったから。

それは、今飛び込んだところが貨物室だったにも関わらず、中には既に先客がいたと言う事。
そして、その先客は、あたしが目を疑う人物たちであったこと。





「クラウド!!」

「クラウドさんっ!」

「クラウド……」





飛び込んだその瞬間、聞こえた名前。
中にいた先客たちはずっとあたしの頭に付きまとっていた《クラウド》という名前を口にした。





「約束の時間に遅れたようだ」





そして、その声に冷静に答えたのは、あたしを抱きかかえていた金髪青目の彼。





「おい!遅刻野郎!!随分派手なお出ましじゃねぇか」

「そうでもない。普通だ」

「ああ?!しかも女連れとはどういう了見だ!?おい、その女ダレだ!?」





中にいた人物の中で特に目立ったのは、大柄で色黒のガラのいいとは言えないひとりの男の人。
その人は、クラウド似の彼に向かって怒鳴り散らした。

そしてその目はあたしにも向けられる。

それは、物凄く警戒し、不審なものを見るような視線だ。

でも、あたしはそれに物怖じすることは無かった。
というか、そんなもの余裕でスルー出来る程の衝撃が目の前にはあった。





「ば、バレット…?」





大男を前に、あたしは唖然と口を開いた。
同時に口から零れたのはまたFF7のキャラクターの名前。

ていうかこの状況やっぱりなんか見知っているような…。
ていうかあたし知ってるよね?やっぱ。

貨物室にいる人数は、自分を含めて全6人。
つまり先客は4人で、うちひとりはバレットにそっくりだった。

ついでに、残りの3人も見てみると…一人は女の人、残り二人は男の人で、その片方はちょっと、うん…恰幅のよろしい感じ…。

…なんかこのチーム構成、すっげー知ってる。むちゃくちゃ知ってる。





「あ、アバランチ…?」





浮かんだ組織名をそのまま素直に呟いてしまった。

するとその瞬間、その場の空気が一気にがらっと変わった気がした。
そしてそれは多分いい方向ではなく、ほぼ悪い方向で。

こう、ヒヤッと空気が固まった感じ。

あ、…なんか、やらかした?
そう一瞬で感じ取れるほど、嫌な空気だ。





「…てめえ、何者だ」





大男がドスの効いた声で言う。
よく見ると、片腕が銃になっている。

うわー。こんなとこまでバレット?
ていうかなにそれ、超リアル。そんなコスプレありですかー?

…とか言ってる場合じゃないんだろうな、多分。





「いや、ごくごく普通の一般市民で…敵意とかマジ無いっすけど…」





なんとなく、若干の身の危険は感じた。
けど同時に何かもっともっと凄まじい出来事に直面してるようなそんな感覚を覚えていた。

まず、あたしの一番近くにいるこの人は…クラウド?
そういや最初に「お前、なんで俺の名前を…」とか言ってたような…。

んでもって今目の前にいるこの大男はバレットそっくりだ。
ていうかこの人に関しては腕についてるギミックアームがマジモンの匂いしかしていない。

そして残りの3人。
思い当たるのは、ジェシー、ビッグス、ウェッジという3人組。

おまけにさっきまでいた場所を見てあたしは何を思った?
ミッドガル?神羅兵?

ここまでの展開だって、何度も疑似体験した…よく知ってる出来事ばかり。





「あの…」





さっきまでしがみついていたからか、この状況で一番親近感があるのはクラウドっぽい人だ。
出会って数分で親近感もクソもないけど。

ちらっと彼に振り返ると、彼もまたあたしを見つめてまた目を丸くしていた。

あ。
出会って、もたれ掛った時も同じ顔してたな。

いやでもね、これって本当どういう状況なのよ。

あたしはただ、家に帰ってFF7をやろうとしてただけなんだよ。
ディスクを入れて、電源をいれただけなんです。

だけどこの現実は何だ。
そもそも現実?え?夢?





「え…本当に、クラウド…?」





尋ねてみた彼は、特に何かリアクションをくれたわけではない。
だけど否定はしなかった。

実際に夢の中で試したことなんて一度も無いけど、頬をきゅっとつまんでみる。
するとそこには嫌な痛みが確かにあった。

景色も変わらない。夢は覚めない。





「えーと…」





ぽりぽり、と…つねったばかりの頬を掻く。

痛かった。
意識、結構はっきりしてるよ。

夢って、もっとモヤモヤしてるような気がするんだよね…。

じゃあこれって何よ。
夢じゃないというならこれは?

…つまりこれは…。

………夢じゃ、ない!?





「っ、どういうことだーーーー!!?!?!??」





行きついた答え。
狭い貨物列車の中、響いたあたしのドデカい叫び。

お母さん、お父さん、友たちよ…。
信じられないかもしれないが、いやあたしだって信じられないんだけども…。

この日、私は身一つで…ゲームの世界へと迷い込んでしまったようです。



To be continued

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