使えるものは存分に使う


神羅ビル68階。
その実験フロアにエアリスの姿はあった。

設置された巨大なビーカーの中で蹲る彼女。
その姿は、まあ見ていて気持ちいいものでは無いっていうか…うん、胸糞悪いね。

見たところ、その場にいるのは宝条博士と装置を動かす助手の様な人。

多分クラウドには勝算があったのだろう。
彼は「行くぞ」と小さな声で合図し、その場に飛び出していった。





「エアリス!」





叫んだクラウドの声に、エアリスがパッと顔を上げた。
あたしたちを見渡して嬉しそうな顔をする。





「エアリス!お待たせ!」

「ナマエ!」





あたしはタッと駆け出してエアリスのいるガラスに手をついた。
するとエアリスも同じように向こう側から手をついて笑顔を見せてくれた。

あ〜!やっと会えたよ〜!!
正直苦労の末だから、その感動もひとしおだ。

けど、それに反応するのはエアリスだけなわけがなく。





「エアリス?ああ、この娘の名前だったな。何か用か?」





目の前で繰り広げられる感動の再会の一場面に疑問を投げかけてくる宝条博士。
その声にクラウド、ティファ、バレットはキッと目線鋭く戦闘の構えを取った。





「エアリスを返してもらおう」

「…………部外者だな」





クラウドのその言葉を聞き、そこで初めてあたしたちが侵入者だと気が付く宝条。
バレットは「最初に気づけよ」なんてツッコミを入れてたけど、ぶっちゃけこの人はこういう人だもんね。

現に博士はさらりとこう言ってのけた。





「世の中にはどうでもいいことが多いのでな」





自分が興味のある対象以外にはどうでもいい。
だからエアリスの名前ひとつ覚えていない。

重要なのは、古代種だという事実。それだけだから。

本当、狂気だよなあって感じだ。
実際に目の前にしてみて、関わり合いたくない気持ちがぐんっと強くなる。

まあクラウド達といることを選んだ時点でそれは無理な話なんだけど。

なんて、あたしがじいっと嫌なものを見る目で博士を見ていると、その顔はニヤリと歪められた。





「私を殺そうというのか? それはやめた方がいいな。ここの装置はデリケートだ。私がいなくなったら操作できまい?ん?」

「くっ…」




今の状況を見れば、エアリスは人質同然だ。
装置に下手に手は出せなくて、宝条の言葉にクラウドは押し黙るしか出来ない。

それを見た宝条は満足そうに頷いた。





「そうそう。こういう時こそ論理的思考によって行動することをおすすめするよ。さあ、サンプルを投入しろ!」





そして、宝条は装置を操作する部下にそう命じた。
部下が何かのスイッチを押す。

するとその瞬間、エアリスのいる装置の中から機械音が聞こえきた。

装置の中心が開き、何かがせり上がってくる。
現れたのは先程下の階で見た赤い獣。

当然、エアリスをはじめとし、クラウドたちは目をぎょっとさせた。





「っナマエ!クラウド、助けて!」





一番近くにいるあたしとクラウドに助けを求めてくるエアリス。

レッドXIIIって、例えるなら…なんだ?
ライオン?トラ?ヒョウ?ううん…なんかどれも違う気がする。

まあそんな類の獣が目の前に、しかもこんな狭い空間に一緒に閉じ込められたらそりゃ恐怖でいっぱいになるに決まってる。

あたしは別に何の危険も無い事を知ってるからこんな風に頭ん中で色々考えちゃったり出来てるわけだけどさ。





「何をする気だ!」

「滅びゆく種族に愛の手を…。どちらも絶滅間近だ。私が手を貸さないと この種の生物は滅んでしまうからな」





叫んだクラウドに平然とそう答える宝条博士。

本当、さらりととんでもないことを言ってのけるよな…この人。

エアリスが大丈夫な事はわかってる。
けど、この人の言う事は本当に胸糞が悪い。





「……生物?ひどいわ!エアリスは人間なのよ!」

「許せねえ!」





ティファとバレットも隠さず怒りをあらわにする。

エアリスは…壁のギリギリまで逃げて、怯えた様子でレッドXIIIを見てる。
…大丈夫、だけど…流石にこれってちょっと可哀想だよね。

エアリスは目の前のその子に本当は襲う意思が無い事なんてわからないわけだし。
ていうかレッドXIII色々欺くために今威嚇の演技してるし…。





「バレット!何とかならないのか?」

「ええい!!さがってろ!」





もうこうなればなりふり構ってなどいられない。
クラウドに呼びかけられたバレットは腕の銃を装置にかざす。





「やめろ!!」





バレットがしようとしている事を察した宝条は慌てて止めようとする。
でもそれとほぼ同時にバレットは装置に向かって腕の銃を乱射した。

すると、流石デリケートと言ったところだろうか。
装置は真っ白に光り出して、そこに異常が発生したことが簡単に見てとれた。





「な、なんていうことだ。大事なサンプルが…」





宝条博士は慌てて装置に駆け寄った。

するとその直後、故障の誤作動で装置の扉が開き出す。
そして瞬間、扉から飛び出した赤い獣が宝条博士に襲い掛かった。





「クラウド!」

「ああ!」





それは最大の好機だった。
あたしが呼びかければ、クラウドはすぐさま装置の中に入ってエアリスに手を差し伸べる。





「ありがと、クラウド」

「ああ…」





装置の中で座り込んでいたエアリスはクラウドの手を掴んで立ち上がった。
凄くホッとした表情。エアリスは装置の中から出てくる。





「ナマエ〜!」

「エアリス〜!」





出てくるなり、エアリスは扉の前にいたあたしに抱き着いてきた。
拒む理由なんてありませんとも。あたしも手を広げてぎゅうっとエアリスを抱きしめて笑う。

けどま…これで終わりならどんなに良い事か、なんだけどね。





「どうしたの?クラウド…」





エアリスを助けた後も装置の中から出てくる気配のないクラウド。
そんな彼にティファが声を掛ける。

それを聞いたエアリスもあたしに抱き着く手を緩め、不安そうに中にいるクラウドを見つめた。

一方で、あたしはクラウドに言う。





「クラウド。そこ、気を付けたほうが良いよ」

「…ナマエ」





クラウドはあたしに振り返った。
あたしはニコッと笑みを向ける。

クラウドが戻ってこない理由は中のエレベーターが動いているからだ。





「今度はこんなハンパな奴ではないぞ。もっと凶暴なサンプルだ!」





レッドXIIIから逃れた宝条博士は怪しく笑いながらそう言い放つ。
この時点だとなんとなく負け惜しみっぽく聞こえなくも無いんだけど…この人の狂気っぷりを知ってると、こう…なんとも言えないカンジだわ。

なにより、厄介なものを引っ張り出そうとしてるのは事実だしね。





「あいつは少々手強い。私の力を貸してやる」





そんな時、耳に馴染みのない声がその場に聞こえた。

誰…と皆が振り返る。
あたしも振り向く。ただ、あたしだけはフフッとちょっと笑って。

いやだってそりゃ笑みもこぼれちまうってもんでしょうよ!!

振り向いた先にいたのは赤い獣だ。
当然、皆の目はこれでもかというくらいに見開かれた。





「喋った!?」

「あとでいくらでも喋ってやるよ、お嬢さん」





驚いて声を上げたティファにクールに返す獣さん。

あたし的にはおいおいおーいって感じではあるんだけど。
本当、口調とか頑張ってるなあって涙ぐましい感じ?

ま、それはまだ先の話だ。
今はそれどころじゃないもんね。

見れば、エレベーターはもうこの階に上がって来ていた。
装置の中からずるりと出てくる得体の知れない獰猛なサンプル。

うわ…と、見ているだけで身震いした。





「あの化け物は俺たちが片付ける。誰かエアリスを安全な所へ…ティファ、頼んだぞ!」

「わかったわ!エアリス!」

「うん!」





レッドXIIIと意思疎通が取れることがわかったクラウドはその申し出を受け、共闘する事を決めた。
そしてティファにエアリスの事を頼み、その場から離れるよう指示を出す。

でもそこでふと思った。
…ん?あたし、ここいていいのか?





「く、クラウド?あたしは?いいの?」

「ああ、あんたはここだ。見たところ、こいつは厄介そうだからな」

「いや…意味が分からないっす」





厄介そうなのに此処にとな…?
そう首を傾げれば、クラウドは剣に手を伸ばしながら言う。





「こいつとの有用な戦い方、あんたは知ってるんだろ」

「え…まあ、知ってると言えば、知ってる…かな?」

「情報も武器だ。言っただろ、働いてもらうって。使えるものは存分に使うさ」

「うわーお…言うね〜」





出会った日、セブンスヘブンで言われた事。
クラウドの傍に置いてもらう代わりに、いろいろ働いてもらうって。

まあ、此処にいて役立つってんならそりゃ従うけどさ。





「じゃあクラウド、さっき市長さんに貰った属性のマテリア。あれ使おう」

「属性?」

「そ。あれと毒のマテリア、組にして防具にでもセットさせておこう!」

「毒か…」





毒と聞いてクラウドは少し微妙そうな顔をしたけど、あたしの言葉に従いマテリアを組み替えていた。
案外すんなりだったな。少しは信頼してもらえてるみたいでちょっと嬉しいかもしれない。ま、本当に有用な情報だしね。





「おまえの名前は?」

「宝条は私をレッドXIIIと名づけた。私にとって無意味な名前だ。好きなように呼んでくれ」





そしてクラウドが獣の彼に名前を聞いた。静かに答えるレッドXIII。
オイラ、ナナキ〜とか浮かんだあたしの頭はとりあえず置いておこうね。





「さあ、かかってこい!」





サンプルが襲ってくる。
クラウドは勇ましく、剣を構えて迎え撃った。


To be continued

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