愛しいあの子は見上げた先
「あんたも、上のプレートへ行くのか?このジンクバッテリーが必要になるぞ」
ウォールマーケットの武器屋にて。
クラウドは店主にとある中古品を売りつけられようとしていました。
「拾ったものを売りつけるのか?」
「お、よく知ってるな。修理してあるから、大丈夫さ」
エアリス救出を決めたあたしたちは神羅ビルへ行くための方法を探すために一度ウォールマーケットにへと戻ってきた。
神羅の本社に殴り込むなら装備も整えた方がいいだろうとこうして武器屋にも立ち寄ってみたわけだけど、そこで待っていたのは中古のジンクバッテリー。
いやあたしは知ってたけどね!
「上のプレートへ登るのにどうしてバッテリーが必要なんだ?」
「登ってみりゃわかるよ。3つで300ギルだ。買うかい?」
神羅ビルはプレートの上。
上のプレートに登ると言うそのワードはクラウドも気になった模様。
が、しかしどうしてそこにジャンクのバッテリーがいるのかという疑問は拭えない。
まあぶっちゃけこっちにしてみれば確かに登ればわかるって話なんだけど。
しばらく悩んだ末、クラウドはとりあえず購入してみる事を決めたようだ。
よしよし、とあたしは満悦。
そして、やって来たウォールマーケットのプレートの断面。
そこに来てあたしの満悦はぐるっと回って鬱に変わった。
「…まじか」
壁に垂れ下がるワイヤー。それが続くのは頭上の遥か高く高く。
見上げて唖然。口が空いた。
「みんなこのワイヤーを登って上にいっちゃったよ。こわくないのかな…」
「これ、のぼれるの?」
「うん。上の世界に繋がってるんだよ」
近くにいた子供たちとティファが話す。
ええ、そうですとも。このワイヤーは上の世界に繋がってますとも。
んなこた私は百も承知です。
「よし! このワイヤー、のぼろうぜ!」
上の世界に繋がっているという言葉を聞いたバレットは気合を入れるかのようにワイヤーを指差す。
ゲームにある台詞だ。だから知っている台詞だった。
でもあたしはギョッとした。
「それは無理な話だな。何百メートルあると思ってるんだ?」
「うんうんうんうん!」
そして、そこに異を唱えたクラウドの言葉に物凄い同意を込めて頷きまくった。
そしらたクラウドにもバレットにもなんか変な目で見られたけど。なんだその顔は!
でもね、今回はまじでクラウドに同意せざるを得なかった。
見上げたワイヤーの伸びる先。
それは遥か遥かとんでもなく高い所。
いいか。ハッキリ言おう。
あたしはか弱いごくごく普通の一般ピープルなんだぜい!
「クラウド。あたしには無理だ」
「真顔だな」
はっきりしっかりクラウドの顔を見て伝えた。
クラウドに真顔だと突っ込まれるくらいどうやら真顔であったらしい。うん、でもそりゃこれは真顔になりますとも。
しかし、バレットには怒られた。
「無理じゃねえ!見ろ!これは何に見える?」
ワイヤーを指差し何かを力説しようとするバレット。
バレットの手の先を追い、あたしとクラウドは目の前のワイヤーを見つめる。
そこにあるは黒く丈夫そうなワイヤー。
あたしたちはバレットに視線を戻した。
「ちょっと太めのワイヤー」
「ああ。何のへんてつもないワイヤーだ」
頷くタイミングは同じだった。
あらやだ!クラウドと意見があったよ!
「きゃー!以心伝心?!」とか言ったら超スルーされたけど。
まあいいもん。
意見あったのは確かだもんてことで。
で、そんなあたしたちを前にバレットは首を横に振った。
そしてめげる事なくこう言った。
「そうかよ?俺には金色に輝く希望の糸に見えるぜ」
どうやら彼にはこの真っ黒けーのワイヤーがきんきらりんに見えているようだ。
という冗談を言うのはとりあえず野暮だろうか。
まあ言いたいことはわかるしね。
そんなバレットの言葉を聞いたティファは情報をくれた子供たちの傍を立ち上がり、ワイヤーに軽く触れて上を見上げた。
「そうね。エアリスを救うために残された道は、これだけだもんね」
そして、そんな意見が最後に集まる先はやっぱりクラウド。
クラウドは小さく息をつくと、バレットを見て頷いた。
「よくわからないたとえだったがバレット、あんたの気持ちはわかった。…ナマエ」
「う…」
バレット了解したクラウド。
クラウドはそのままちらりとこちらを見てきた。
まあ実質渋りを見せてるのはあたしだけですからね、わかります。
…ってまあそうじゃなくてね。うん。
実際こんなところで渋ってる場合じゃないのはわかっていた。ていうか渋ったってどうしようもねえだろっていうか。
そりゃ勿論わかってんですけどね!
だってこれそういうストーリーだから!
「…そりゃ、あたしだってね!あたしだって登れるもんなら登りたいよ!エアリス救出し隊の隊長ですよ!?」
「…なにわけのわから無い事を言ってるんだ」
「こんなの登る腕力ないわいって話だよ!いや、登んなきゃいけないのはわかる。でも確実に登りきれる自信が無い。登りきれない自信しかない。ねえどうやったらあたしコレ登れるの!?」
「…それだけやかましければ大丈夫だ」
「まったく関係ないよ!?やかましい酷いね!そんなとこも好きだけどねクラウド!」
「………。」
ちょっともう叫びすぎてよくわかんなくなってきた。
いやでもとにかく、のほほーんと過ごしてきたあたしにこんないきなりのロッククライミングは無理だぜって事だ。いやロックじゃないけどウォールだけど。
根性でどうにかなるって話でも多分無い。
あたしその辺は冷静なんですよ。
で、打開策。
「はあ…わかった。とりあえず俺が先に登る。あんたは下で身体にロープを縛り付けておけ。そしたら俺が上から引いてやる。それで多少は楽になるだろ」
「お、おお…」
クラウドが提案してくれた打開策。
とりあえず自分の力で登る事は登るわけだけど、上から引っ張ってもらうことによりその負荷はだいぶ軽減されることになるだろうと。
まあ確かになにも無いよりははるかに楽だろう。
ちなみにティファも同様の策がとられることに。
こうして何とか手を借りながら登りきり、辿りついたプレートの上。
購入したバッテリーもちゃんと使ったけれど、あたしは正直それどころではない。
がっくり疲れ果てた膝とつく。そうしてあたしはふつふつと神羅に怒りを燃やしていた。
「くそう…。なんつー構造にしてるんだ。ミッドガル作った神羅ゆるすまじ」
「…そこなのね。まあ普通こんなところから登ってこないしね」
疲労と落ちる恐怖でへろへろのあたしの背をさすってくれるティファ。ありがたい。
彼女はあたしの零した恨みに小さく苦笑いを浮かべる。
現金なものであたしはティファが自分をいたわってくれているという事実にちょっと自分の中で何かが回復したような感覚を覚えてみたり。
「ああ、ティファ…!君ってば本当ナイスなレディーだね!」
「な、ナイス…?うふふ、もうナマエたらやっぱり平気そう」
「いやいやティファがこうして労ってくれるからこそだよ!」
「ふふっ、ならいくらでも」
「まじか!きゃー!」
ノリよくティファは笑ってくれた。
ふたりできゃっきゃする。最高か。
しかし呆れたクラウドの声も頭の上から落ちてきた。
「おい…本番はこれからなんだぞ」
「はいはい。勿論わかってますよ〜」
ひらりと軽く手を振って答える。
しかし今はいいだろう。
今あたしはあの壁を登りきったことでちょっとくらい褒めてほしい。
でもまあ、これでエアリスには確実に近づけた。
「んじゃま、気を取り直して行こうか!」
そんなこんな、ちょっと酷いもんだけど。
でもね、ほらもうすぐそこだ。
神羅ビルは目前に。
To be continued
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