それは、突然に


「ただいまっ!」





大きな声。
バンッと開いた玄関の扉。

つま先でかかとを押さえて靴を脱いだら、もう片方も同じ要領。
お行儀悪い?まあおうちだし!

自由になったらダダッと駆け出す。
向かった先は、テレビの真ん前。





「クラウド〜クラウド〜♪」





陽気に口ずさむのは、とあるひとりのキャラクターの名前。
そんな上機嫌にあたしが漁るのは、テレビの傍のショーケース。

積み上げられるはいくつものゲームソフト。

あたしはその中から、あるひとつのゲームを探していた。





「えーっと…あ、あった!」





英語で書かれた最終幻想。
背景には、青白いメテオのロゴ。

見つけ出したお目当てのそれに、あたしはニンマリと満足げな笑みを零す。

いやいや本番はここからだ。

ぱかっと開けば3枚組のディスク。
取り出したのは、DISK1と書かれた一番初めのディスクである。

ハードの蓋を開け、パチッとはめ込むそのディスク。

コントローラーを手に持って、いざ!準備は整った!





「いっきまーす!」





人差し指を立て、意気揚々と電源ボタンに伸ばす。

待ちに待ったこの瞬間。
湧き上がる期待感にワクワクがこみ上げて止まらない。

今日、あたしはこの瞬間をどんなに待ちわびていた事か!

なんだか大袈裟な話だ。
だけど本当に、あたしは今日このゲームがやりたくてやりたくてたまらなかった。

毎日揺られる電車の中で、ふと、急に思い立ったのだ。




あ…FF7やりたい、って。




その後はもう大変だ。
やりたくてやりたくてやりたくて、電車なんか飛び出して家にUターンしたくなった。

…さすがにそれは出来なかったけど。

でも、衝動的にはそんな感じ。

もう何度も何度もプレイした。
いくらやっても楽しいと思える、そんなゲーム。

だけど今日はちょっと異常?
自分でもビックリしちゃうくらい、なんだか惹かれてしょうがない。

だから、寄り道もせず真っ直ぐ家に帰って、こうして真っ先にこのゲームに噛り付いた。

指が触れる。もう少し。
ポチ、と緑のランプが光り出す。

だけどその瞬間…。





「あれ…って、へっ!?」





テレビに映し出されるはずの、見慣れた画面は映らなかった。

それどろこか、突然テレビからおかしな光が溢れ出した。

え!?なに、壊れた?!
あまりの様子の可笑しさに思わずガバッと立ち上がった。

だけど立ち上がったからといって何が出来たわけでも無く…というか、何をする暇を与えらえることなく、その瞬間、カッ!と凄まじいフラッシュをたかれた様な眩しい光が満ちて、とても目なんか開けてられなくなった。

そしてその途端、ふらっと軽く頭が揺れた。





「う…っ」





軽い眩暈みたい。
ふらりと足がもつれて、何かにトサっと抱き着くようにもたれてしまった。





「なっ…!?」





その時、自分の頭上から声がした。
勿論自分の声じゃない。

あれ、でも今家ってあたし以外誰もいないはずなんだけど…。

多分目はもう開けられる。
瞼を閉じていても、もうあの眩しさが無い事はわかったから。

ていうかあたしは今何にもたれてるんだ。
良く知った家具の配置上、あの空間にこんな感じでもたれ掛れるような物は無いはずだぞ。

…というか、家具…?

少し手を動かせば、なんだか少し柔らかかった。
それに…ちょっと、あたたかい…?





「え…?」





不審に思ったあたしは、その瞼を開いてゆっくり顔を上げた。

やはりもう光は無い。
というか、何もない…。

いや、この言い方は適切じゃないか。

何もないわけでは無い。
あるにはあるんだけど、あたしの見知った家の景色がないという意味だ。

代わりに目の前に映ったのは、キラキラとした金の髪と、不思議な青色をした瞳のお兄さん。
それが今、自分の数十センチの距離に映ってる。





「え」





人だ。
あたしは今、人にもたれ掛ってる。

そして目の前の、その人の容姿に目を見開いた。





「クラウド…?」





間抜け面の間抜けな声で、思わず零れたひとつの名前。

それはついさっき、陽気に口ずさんだあの名前。
それは、あたしがやりたくてやりたくてたまらなかったゲームの、大好きな主人公の名前だった。



To be continued

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