ひとつの街が消える音


ミッドガル七番街を支える柱。
そこに近付く一機のヘリコプター。

巻き起こるプロペラの風の中、あたしたちはそこから飛び降りてくる人物をじっと見つめた。

黒いスーツに明るい赤髪。
タン…と軽やかに着地したその男はタークスのレノ。

クラウドにバレットにティファ、現れたレノの姿に皆の顔には緊張が走る。

レノはちらりとあたしの方を見てきた。
いや、正確に言えばあたしでは無くあたしの後ろにある柱のメインコンピューターを見たのだろう。

だってこれが、彼の目的だったから。





「よう、御嬢さん。確か前にも一度会ってるよな。感動の再会を喜びたいところなんだが…ちょっとそこをどいて欲しいぞ、と」





彼はトントンとロッドで肩を叩きながらこちらにゆっくり近づいてきた。

どうやら彼は教会にあたしがいた事を覚えていてくれたらしい。
あらま、とあたしはにっこりほほ笑んだ。





「うわー、感激!覚えててくれたんだ。それってかなり嬉しいかも。けど、退くってのは無理な相談ですね…っと、ブリザド!!」





そうしてあたしはレノに向かってブリザドをぶっ放した。
とにかく、やるべきことはレノをこのコンピューターに近づけさせない事。

レノは氷を身軽に避けると、ヒューと軽く口笛を鳴らした。





「おいおい、こりゃブリザドじゃなくて下手したらブリザガの威力だぞ、と」

「きゃ〜!タークスにお褒め頂き光栄です〜」





そう言いながら、あたしはそっとバングルにはめたマテリアに触れた。

本当は、このコンピューターの周りに氷の壁とか作れたらって考えてた。
だけど残念ながら、どんなに威力があると言われたところであたしにはそんな風に魔法を使う技術は無いのだ。
なんというか…あたしに出来るのは、ただ高圧力をとにかくぶっ放すだけ…みたいな。

でも、出来ないものは出来ないのだから仕方がない。
だったら出来る事だけで何とかするだけ。

とにかく魔法をぶっ放してレノをコンピューターに近づけさせるな!
なんとも力技な作戦だけど、今のあたしに出来そうなことと言えばそんなものだった。

だからそれを、精一杯やってみる!





「余裕だな。相手はこいつだけじゃない」

「…、と」





その時、避けたレノの元へクラウドが瞬時に駆け出し剣を一気に振り下ろした。
タークスは伊達では無いと言ったところか、レノはさっと避けてしまったけれど。

そこから戦いが本格化した。
バレットが銃を放ち、ティファが隙をつき駆け出して。

そしてまたクラウドが剣を振り下ろす。

あたしはとにかく徹底してコンピューターの前から動かないようにしていた。

この勝負は、コンピューターに触らせずレノを撤退させれば勝ち。





「なんか予定が少し狂っちまったぞ、と。まさかこんなところで手間取ることになるとは…」





レノは少しうんざり気味にそう首を振った。

ゲームでは、レノは此処に降り立ったその直後に時限装置を作動させた。
でも今回それをさせなかった。もう時間もそれなりに稼げてる。

…いけるかも!

そう思った。
でも、やっぱり物事はそううまく運ばない。





「…こうなっちまったら、もう強行突破あるのみか。…行くぞ、と!」

「えっ!?」





その瞬間、レノが何のわき目もくれずに一直線にこちらへと駆け出してきた。

ちょちょちょ…!
そんなん聞いてないって…!

突然真っ直ぐに狙われて完全に焦る。でもレノはそんなの待ってくれない。
目の前に来た瞬間、彼は手に握ったロッドを大きく振りかざす。





「悪いぞ、と」

「っ…」






流石タークス。物凄いスピード。

あ、殴られる…。
なんて言葉が頭を過ったのは、コンマ何秒のことだろう。

この世界に来るまで戦闘経験など皆無だったあたしがそれを避けられるスキルなど持ち合わせているはずもない。
出来ることと言えば、痛みに覚悟して目を閉じて、頭を腕で守る事。





「ナマエッ!!」

「…っう、わ…!」





その直後、物凄い勢いで誰かに名前を叫ばれた。
そしてぐわっと抱きつかれたみたいに他人の圧力が掛かって、足がもつれた。
だから変な声が出た。でも痛みは無かった。何の痛みも無い。

ゆっくり目を開ければ、目の前に映った金髪。

すぐに何が起こったかは察した。
クラウドが急いであたしに飛び掛かって抱え込み、助けてくれたのだ。





「おーっと…やるなあ。けど残念、と。このスイッチを押すと…」

「あっ!」





でもその時、メインコンピューターの前にレノが立っている事に気が付いた。
彼は骨が折れたように息をつきながらパネルに手を伸ばす。

あっ、なんて言ったところで間に合わない。

ピッ
無情に響いた電子音。





「はい、おしまい!作業終了」





レノは軽い口調でそう言った。
やれやれ…なんて首に手を当てて、その顔は余裕そのもの。





「たく…時間くったぞ、と。じゃあな!」





彼はひらりと手を振ると、早々にその場から立ち去って行った。





「解除しなくちゃ!」





直後、ティファが慌ててコンピューターに駆け寄った。
でもその画面を見て、彼女の手は動かない。理由は簡単だ。だって操作の方法がわからないから。

それを目にしながら、クラウドはあたしに声を掛けてくれた。





「ナマエ…平気か?」

「え!?あ、ああ…ありがとクラウド。大丈夫大丈夫!しかし流石だねえ、惚れるわあ!」

「…お前な」





あたしはお礼を言ってすくっと立ち上がり、平気なのをアピールするようにへらっと笑って見せた。
そんないつもの調子にクラウドは少し呆れ顔。だけどそれで何ともない事は伝わったはずだ。

…爆破スイッチは、押されてしまったけど。

クラウドは立ち上がると、戸惑うティファの元に歩み寄った。





「クラウド!止めかたがわからないの。やってみて!」

「…ただの時限爆弾じゃない」





隣に来たクラウドに助けを求めるティファ。
だけどクラウドもパネルを見るなり首を横に振った。

そしてその直後、またヘリの音が聞こえてきた。





「その通り。それを操作するのは難しい。どこかのバカ者が勝手にふれると困るからな」





プロペラの音と共に聞こえてきた男の声。
ヘリに乗っていたのはレノと同じスーツに身を包んだ黒髪の男。

それは、タークスのリーダーであるツォン。

ああ、感激だよ。見知ったキャラクターのお目見えだ。
だけど流石にはしゃいでる場合じゃないのは理解してます。

あたしはその時、ツォンのすぐ傍に蹲る彼女の存在を見つけていた。
…皆はまだ、気付いてないみたいだけど。

ティファはツォンに懇願した。





「お願い、とめて!」

「クックックッ……。緊急用プレート解除システムの設定と解除は神羅役員会の決定なしでは出来ないのだ」

「ゴチャゴチャうるせえ!」





嘲笑うツォンの態度はバレットの逆鱗に触れ、バレットは腕の銃を構えてヘリに向かって発砲し始めた。
それを見たツォンは視線を冷ややかなものに変えバレットを見下す。





「そんなことされると大切なゲストがケガするじゃないか」





そして彼に教える様に、隣に蹲る彼女に目を向ける。
その視線で、皆も気が付いた。





「エアリス!!」





ティファがその名を叫び、そしてエアリスも顔を上げた。

ツォンはこちらとエアリスが知り合いだったことを知らなかったんだろうね。
エアリスの名を知っていたことに少しの驚きを見せた。





「おや、知り合いなのか?最後に会えて良かったな。私に感謝してくれ」

「エアリスをどうする気だ」





クラウドが問う。
彼はエアリスが神羅に狙われている事をしっているから、やはり彼女がタークスに連れ去られることに疑問を覚えるのかもしれない。

だからと言って、タークスが素直に教えてくれるはずもないけど。





「さあな。われわれタークスにあたえられた命令は『古代種』の生き残りをつかまえろ、ということだけだ。ずいぶんと長い時間がかかったが やっとプレジデントに報告できる」





ツォンは適当にそう返した。
そもそも、タークスって古代種の事どれほど知っているんだろう?

ただ、ツォンとエアリスはまた少し別か。
ツォンはエアリスが幼い頃から知っている、数少ない人間だから。

するとその瞬間、エアリスが身を乗り出してこちらに叫んだ。





「ティファ、大丈夫だから!あの子、大丈夫だから!」





あの子は大丈夫。
それはここに登る直前にティファがエアリスに頼んだことへの答え。

頼んだ張本人であるティファはそれが何のことかすぐに察しただろう。

そして、そんなエアリスを黙らせるようにツォンは彼女を叩いた。

……ここ、プレイする度に思うけど叩く事無いと思わない?
実際に目の前で見て余計にムッとする。

だけど、エアリスは黙らなかった。





「ナマエ!!」

「…!」





次にエアリスが叫んだのはあたしの名前だった。
思わぬ声にちょっとビックリする。

エアリスはあたしに真っ直ぐ視線を向け、そして強い表情で笑った。





「私、信じてる!ナマエのこと!だから、クラウドのことも、ね!」

「…エアリス」





思わず呟いた彼女の名前。
それはきっとエアリスには届かない程小さなものだったと思う。

ここに登る前、ティファがエアリスの言葉を残したようにあたしもエアリスの伝えた事があった。
何があってもクラウドを信じてほしい。そして、出来れば自分の事も、と。

彼女はその言葉を信じてくれたのだ。





「だから、早く逃げて!」

「クックックッ!そろそろ始まるぞ。逃げきれるかな?」





そして、最後にそう言い残しヘリは飛んでいく。
その直後、柱の上部がドカンッと大きな爆発音がした。





「ひっ…!」





爆発の熱が軽く頬を撫でる。それを見て結構焦った。

やっばい…これ死ぬ…!?
流石にそんなもの見たら自分の傍に死神が近づいているかのような寒気を覚えた。





「うわああああああ?!まじか?!これまじか!!?」

「…うるさい」

「うるさくもなるわ?!」





喚いたらクラウドに怒られた。
いや爆発なんて見たら狼狽えるだろ!爆発とか普通に生きてて早々に遭遇するもんじゃないからね!?

しかし、今回ばかりはクラウドの顔にも少し焦りが滲んでいるように見えた。





「おい、このワイヤーを使って 脱出できるぜ!」





そんな爆発の中、バレットが手すりに掛かっていたワイヤーを見つけた。

うん、ゲームの通りだ。確かにそれを使えば脱出は出来る。
だけどその脱出の仕方ってかなりダイナミックな感じだったとあたしは記憶している。

つまり、え…あたし、あのダイナミック脱出するの?





「ナマエ!行くぞ!」

「ふええ!?」





クラウドに腕を掴まれ、ワイヤーを外すバレットの元へと連れて行かれる。
ティファも駆け寄り、そして全員でそのワイヤーにしがみつかされた。

ただ、クラウドやバレットが上手い具合にあたしとティファを支えてくれたから、思ったより安定感みたいなものはあった気がする。





「行くぜ!」





バレットが手すりを蹴ると、ワイヤーは振り子のようにグンッと柱を離れた。

本当に間一髪。
振り返ると、そこには爆破で砕け落ちていく柱の様子がくっきりと目に映りこんできた。

まるで、テレビの中。
本当に目の前で起こっているのか疑ってしまうかのような光景。

だけど、そこには爆風の熱さがあった。
耳にキンと響く痛い音があった。

悲鳴は聞こえない。
でもきっと今この瞬間、倒壊していく柱とプレートの中で…。

…ああ、ぞわりとまた血の気が引いた。

ワイヤーは七番街のゲートを越え、エアリスと共に話した公園に飛び出す。
その衝撃で体は投げ出される様に宙に浮いた。ドサッ…と体が地味な衝撃を受ける。

痛かった。
でも、そう思えるのは生きている証。

ああ…駄目だった。
じんわりと感じる痛みの中、あたしは目をつむりそう心で呟いた。



To be continued

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