リアル
コルネオの罠に嵌まり、屋敷から下水道へと落とされてしまったあたしたち。
酷い匂いの中、コルネオが放ったモンスターのアプスを退け、柱が落とされてしまう前に七番街を目指して歩き始めた。
そして何とか地上へと顔を出し、現在地は、静けさが不気味な雰囲気を引き立たせる列車墓場だ。
「エアリス。すっかり巻き込んでしまって……」
「ここから帰れ!な〜んて言わないでね」
クラウドはエアリスをこんなところまで巻き込んでしまったことに申し訳なさそうに謝罪する。
エアリスは軽く苦笑いしながらも首を横に振った。
「え〜と……明かりのついている車両を抜けて行けば出られそうね」
そして辺りを見渡したティファが此処から抜けるための目処をつけ、皆それに従い歩き出す。
あたしも、その後を追い駆けた。
でも、そう足を動かしながら、あたしは考えていた。
「……。」
前を歩くクラウド、エアリス、ティファの背中。
映ったその背にをじっと見つめてみる。
あたし、さっき咄嗟にコルネオの屋敷で落下するのを阻止しようとした。
結果はまあ、ご覧のとおりなわけなんだけど。
落ちてしまったのは、いい。
というかこれがあたしの知るゲームのままの流れだ。
じゃあ何を考えているのかって、それはあたしが落下を阻止しようとしたことだった。
《み、みんな…!》
コルネオがニヤリと笑った瞬間、あたしは咄嗟にそう叫んでいた。
ティファについて来てほしいと頼りにされて、ついボーっとしていた。
だから警告するのが遅れた。
でも、よくよく考えた。
もしボーっとしていなかったとしたら、あたしは叫ぶ事をしただろうかと。
正直、あたしはこの物語の流れを変えることをそうそう良しとは思っていない。
セブンスヘブンでクラウドにも言ったけど、言ったらつまらないし、良い事だとは思わないから。
まあ、未来の事を言葉や文字にすることは出来ないから、色々と限られてくることはあるだろうけど。
ただ、干渉は出来るのは確かだ。
教会でエアリスをレノと神羅兵から守ったときみたく、実際に自分が動いたり軽い助言を与える程度なら出来た。
エアリスを助けた事も、物語を変えたことになるんだろうけど…でもそれは大きく話の流れを変えたわけじゃないし、ただ先に辿りつく流れをスムーズにしただけだから自分の中ではセーフだと思ってる。
じゃあ何処からがアウトなのかってなると、そこはあたしの独断と偏見です!ってな事になっちゃうんだけど。
なんともテキトーだ。流石あたし。
うん、自覚はある。
「ナマエ?落とされてから妙に静かだな?どうかしたのか」
「クラウド」
その時、クラウドがふと足を止めてこちらに振り向いた。
あたしが言葉を発しないことを気に掛けてくれたらしい。
確かに下水道からずっとこんなことを考えていて、ただ黙ってついて行く状況が続いていたかな。
あたしはにっこり笑った。
「ふふふー。まあちょっとね〜」
「ちょっと?」
「うん。ちょっと。あたしもたまには色々考えたりするのさ〜」
にっこりしたままそう言えば、なんだか訝しげに顔をしかめられた。
失礼な反応だ。まあクラウドだから許すけど。むしろどんな表情でも御馳走様です。
「さ。ここ不気味だし、さっさと出口探そう。七番街も心配だしね」
そして、あたしはそう言いながらクラウドを追いこす様に足を動かした。
先の方ではエアリスとティファがあっちだろうかこっちだろうかと相談している。
でも、クラウドの横を通り過ぎようとしたその時、静かに問われた。
「これは、お前の知っている流れなのか?」
足が、止まった。
あたしは振り向いた。笑みを浮かべたまま。
「ん?なあに、クラウド。やっぱり未来のこと気になる?」
そう尋ね返した。
でもクラウドの表情に変化はなく、冷静なままに言われた。
「…今の状況、お前はいつも通りどこか落ち着いているように見える」
「え!あたしいつも落ち着いてる!?かなり暴走してる自信あったけど!?ふーむ。こりゃもうちょいブレーキ緩めてもいいかな…」
「いや暴走はしてるからやめてくれ。というか…あれでブレーキ踏んでるのか?って、話逸れただろ…。そうじゃなくて、なんというか…あまり構えていないって言うのか?でも構えるべきところは構えていたり…」
「まあ、知ってるし?」
「…あの時、お前は俺たちが落下するのを阻止しようとした。それは床が抜けて落ちることを知っていたからだよな」
「………。」
ちょっと胸がざわざわした。
クラウドってわりと鋭い部分があるよな。
実際、今の言葉は鋭く思った。
「…もしこれがあんたの知る流れなら、未来…変えようとしたのか?」
前にクラウドには、未来はそう簡単に口にしようと思わないと言った。
それを良い事だと思わないとも。
面白そうな事だったら別だけどね、なんてふざけもしたけど…今回の事案でが面白いもクソも無いだろう。
でも…。
あたしはくるっとクラウドに背を向けた。
「さあねえ〜」
あたしはそう言うと、エアリスとティファの名を呼びながらふたりの元に駆け出した。
言う気は、無かった。
というか聞かれたところで答えられなかったし。
未来を変えようとしたか?
その質問の答えは、あたしにだってわからないしね。
いや自分の事だけどさ。
でも、やっぱり考えたところで答えは出ない気がした。
「あ、ナマエ。あの列車を動かせたら、先を通れそうな気するんだけどってティファと話してたの」
「ええ。多分、あっちに抜けられれば七番街だと思うのよ」
「あ、方向とかわかるんだね。まあ明かりついてるから電気通ってるし、動かそうと思えば動かせるよね」
そう話ながら、あたしはまた考えた。
ゲームの通りなら、プレートを支える柱はまだ立っている。
そして崩れ落ちてしまう前に、辿りつくことは出来る。
あたしがここで足をもたつかせれば間に合わなくなることもあるんだろうけど、そんな事をする意味は無い。
ただ…間に合ったところで結果は…。
そこまで考えて、頭の中でツン…とした。
ティファを始め、ここにいる皆はプレートを支える柱の倒壊を真剣に阻止しようとしている。
だけど柱の運命は…ゲームの中では、あの柱は倒壊してしまう。
倒れる前に辿りつくことは出来るけど、爆破の起動を阻止できないからだ。
多くの命が、もうすぐ亡くなることになる。
…それって、どうなのよ。
あたしの頭には、そんな言葉が浮かび上がった。
いやね、まあ…それくらいはあたしも思いますって。
なんだろう。
少し、感覚にリアルさを帯びてきたのかな?
正直、あたしが動いたところでどうにか出来るなんて保証はない。
この世界一の大企業が相手なわけだし、何も出来ない可能性の方がはるかに高いと思う。
たかが、ゲームの世界だ。
そう考えたら、きっとそれまでなのだろう。
流れは流れ。
そういうストーリーだ。
それが運命、ってか。
「はー…」
列車に向かい走り出したティファとエアリスの姿を見ながら、あたしはそう息をついて後ろ頭を掻いた。
「でかい溜息だな」
すると後ろからそう言われた。
振り返ればそこにいたのは金髪イケメン。
いやわかってたけども。
あたしはくるっと、またクラウドに向き直った。
「幸せ逃げちゃう〜って感じ?」
「いや知らないが」
「ノリ悪いねえ…。…ふふっ、さて、どうしたもんかね〜と思ってさ」
小さく笑って、そう呟く。
クラウドからしてみれば意味わからないだろうけど。
ていうかそんな顔してたし。
柱の倒壊、か。
リアルを感じるこの世界。
あたしは、そんなことを考えた。
To be continued
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