教会の花畑


真っ暗。
それに、意識が凄く遠い。





「ナマエ…!おい…ナマエ!」





誰かに呼ばれてる?
結構好きだなあ、この声…。

心地良くて…いいなあ…。
いい感じに、眠気…誘う…。





「ナマエ…!ナマエ!!!」

「……んー……」

「!、ナマエ…!」

「…ん〜う…いい声が…するう〜…」

「っ寝ぼけてるなら起きろ!!」

「ふお!?」





肩をガクッとやられた。
同時に凄い強く名前を呼ばれて、意識をグッと引きずり出された。

な、な、何奴!!?

凄く、目をぱちぱちさせた。
だんだんとはっきりしてくる視界。

目の前にあったのは、金色の髪と空色の青目。

映ったそれに、ハッとした。





「クラウド!?」





クラウド!愛しいクラウドが目の前に!?

…じゃない!

そうだ。クラウド。
声も、肩を揺らしていたのもクラウドだった。

あ、そっか…。
ゲームの世界に来ているという事実は思い出した。

何だか目を覚ます度、そう実感している気がするけど…。

ううん…でもちょっと記憶がぶっ飛んでるような…。





「…はあっ…」

「え」




なにがどうしたっけか。
そう、続きを思い出そうとしたら、クラウドは突然大きな息を吐いて肩を落とした。
あたしの肩に触れていた手も、ずるっと力を落とされる。





「…どこか…痛みとか、ないか?」

「え、う、うん。ないよ?」

「そうか…」





首を振る。
特に、気になる部分は無い。

するとクラウドはまた息を吐いた。
今度は凄く小さくだったけど。

そこで思い出した。
あ、そうか。あたし、魔晄炉からクラウドと一緒に落っこちて…。

記憶がはっきりしてくる。

するとその時、耳が明るい声を拾った。





「うん!焦点、しっかりしてるし、大丈夫そう!よかったね!」

「え…」





声の方へ目を向けた。そして、見開いた。

そこにあった、眩しいくらいの笑顔。

そして、優しいピンク…。
それがとてもよく似合う…柔らかい…。





「あっ!?え、エアリス!!?」





学習しない。
またもポロッと口から飛び出したひとつの名前。

それは、目の前にいる彼女のものであろう名前だ。

すると彼女は茶色のツイストを揺らし、そっと首を傾げた。





「えーっと、どこかで会ったこと、あったかな?」





ずっきゅんっ…!!!
その可愛らしい仕草になんかハートを撃ち抜かれた。

さっきまで意識ぶっ飛んでたなんてなんのその。
頭はすっかりエアリスキタ!!でいっぱいになっていた。

そうなったら最後、多少寝起きの頭も手伝って、あたしは彼女の手を握り、キラキラした目で彼女に答えてた。





「いや、確実にはじめましてですけど、大好きです!!!!」





口に出した後、思った。
なんちゅー意味不明な挨拶かと。

いやでもこれが今のあたしの素直な感情だった。
クラウドがまた変な目で見てきてたけど…いや、変なことしてる自覚はあるから許して。

しかし…まあ、ティファの時にも相当困惑させただろうから…そこは反省すべきなのかな。
同じようにエアリスも困惑させてしまっただろうか。

そう思って彼女の顔を伺ってみる。
まあ…そろそろ流石に学習を覚えようか…。

しかし、そんな心配は杞憂に思えた。





「大好き?…ふふ、いきなりそんなこと言われたの、初めて。でも、嬉しいな。ありがとう。貴女、とっても面白い子、だね?」





彼女があたしに返してくれたのは、紛れもない優しい微笑みだった。
しかも思わず握りしめてしまった彼女の手だけれど、むしろ逆に向こうからもきゅっと握り返してくれた。





「よろしくね!」





再び愛らしい微笑み。

ずっきゅん…!
ああ、本日二回目の音を聞いた。

天使を初めてこの目で見ました。
凄い馬鹿っぽいけど、マジでそんなことを思った。





「屋根と、花畑、クッションになったみたい。運、いいね。彼、先に起きて、ふたりでずっと、貴女のこと呼んでたの」





そしてエアリスは笑みをくれたまま、そう説明してくれた。

あたしは木製のベンチに寝かされていた。
なんでも、クラウドが運んでくれたのだという。





「…マジですか」

「…なんだその顔は」

「いや、感謝はする。ありがとう、クラウド。でも…ううう」

「………。」





頭を抱えて唸るあたしをクラウドはまた微妙そうな視線で見ていた。

いやだってさ!
体重ばれたなあ…って、こうさあ!!

それくらいの乙女心は持ち合わせてるわけさ。

…まあ、そこはクラウドに抱っこされたとかイヤッフー!という事で片を付けておこうか…。
ああそうだ。それって凄いじゃないか、うん。

まあ、そう落ち着いて…あたしはあたりを見渡してみた。

あった景色は、教会だった。
優しい光の微かに差し込む、少し崩れかけている教会。

そして光の差し込む先には、あたたかい色の花畑が彩られていた。

あたしは、クラウドと一緒に魔晄炉から落っこちた。
落ちたあと、ゲームでクラウドが辿りつく場所と言えば?

自分の身に起こった事と整理して、恐らくあの教会なのだろう。

正直えっらいテンション上がった。





「…急に目が爛々としてるが」

「あははー、わかるー?」

「…その顔を見てわからない方がどうかしてるな」

「えへへ!まあね。ここは、結構特別な場所だからね」

「………。」





いつものように怪訝そうに聞いてきたクラウドに笑う。

だって、そりゃそうでしょう。
FF7において巡ってみたい名所はいくつかあれど、この教会って結構やっぱり特別だよね。

スラムの教会。

スラムと聞くと少し違うイメージをしそうなものだけど、ここはきっとその真逆。
あたたかくて、優しくて、とても穏やか。なんだか落ち着く、そんな不思議な場所だった。





「……また、会えたね」





そんな時、お花の手入れをしていたエアリスが振り向いてそう言った。
視線を向けているのは、勿論クラウドだ。

その視線に気が付いたクラウドは、エアリスを見て少し考え込む仕草を見せた。





「…覚えてないの?」





そんなクラウドの反応に首を傾げたエアリス。
あたしは少しじとっとした目でクラウドを見た。





「覚えてないのかあ、クラウド〜…」

「…なんであんたがそんな目で見るんだよ」





またもクラウドは怪訝な目。

でもだって、覚えてないとか言ったらどうしてくれようかと思うじゃない。
相手はエアリスだよ、エアリス。ヒロインのひとりエアリスさんですよ。

覚えてないなんてどういうことだってのよ。

まあ、その心配はとりあえず大丈夫だったみたいだけど。





「会った事がある…。ああ、覚えてるさ。花を売ってたな」

「あっ!嬉しいな〜!でも、お花、買ってくれなかったね」

「ええ?!なんで買ってないの!?」

「…ナマエ。あんたさっきから何なんだ」






覚えてはいた。
しかし、お花を買っていなかった。

クラウド…君って男は…!!

でも言われてみれば、彼はお花を持っていなかった気がする。
持っていたら、ティファかマリンに渡したはずだもんね。

…ああ、なんてこった。





「クラウド〜…君って奴は…なんてことしてるの」

「……なんだよ」





じとっと見たら、凄く微妙な顔された。

いやいやいや。だって花買えしっていう!
なにヒロインとのフラグイベントへし折ってんだっていう!

まったくもって『なんだよ』じゃないんだよって話だよ。

すると、そんなあたしたちのやり取りを見ていたエアリスはその時クスッと小さな笑みを零した。





「ふふ、可笑しい。仲、いいんだね」





くすくすと、なんだか楽しそなエアリス。
まあ、エアリスが笑ってくれたなら、それはちょっと救いだったかもね。

それにしても…ああ、可愛いなあ…エアリス。
なんだかデレデレだ。いや、デレるなって方がおかしいと思うの!

魔晄炉からのダイブ。
ちょっと身体痛いけど、ちゃんと生きてた。

それで、エアリスに会えた。

結構怖かったけど、この笑顔を見れたら、なんだか色々と吹っ飛んだかも。

これが、彼女…エアリスとの、はじめての出会いだった。



To be continued


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