何か変わっているとしたら


その後も、あたしたちは古代種の神殿の中を進んだ。

時計の針を進む部屋、思念体との追いかけっこ。
まあ知ってるシナリオ通り、そのままの展開。

そして遂に、探し求めていたあの部屋に辿り着く。





「ここが壁画の間…」





エアリスが呟いた。

先程、道の途中のスクリーンで見た光景。
あの映像の中でセフィロスがいた、あの部屋だ。

クラウドは叫ぶ。





「どこだ!?セフィロス!!」





クラウドにしては珍しく、興奮しているとわかる声。

その瞬間、ゾクッと嫌な悪寒が走った。





「冷たいな。私はいつでもお前のそばにいる」





静かな声。
突然、目の前に現れたセフィロス。

皆が強張ったのを感じた。

あたしも、ここに現れるって知っていたのに、体が緊張した。





「来るがいい」





招き入れる言葉。
同時にセフィロスの姿が消える。

それは奥に進んで来いと言う意味。

クラウドは走り出した。
エアリスと、ナナキもそれを追っていく。

あたしも、追いかけた。





「まったく、素晴らしい。知の宝庫……」





奥に進むと、セフィロスはある壁画の前に立っていた。
それを眺めて、薄く笑う。





「お前が言ってることは意味不明なんだよ!」





セフィロスの笑みに、クラウドは怒鳴った。
するとまた、セフィロスは奥に消える。

また、追いかけて、違う絵の前で止まる。





「よく見ておくがいい」

「何を!」

「古代種の知に与えるもの。私は星とひとつになるのだ」





それを聞きながら、あたしはちらりと壁画を見た。

大きな隕石の絵…。
ああ、あの絵だ…って、どこかまた感動を覚える自分がいる。

暢気な自分。

でも、それを暢気だと客観視も出来る。
それは少なからず、恐怖に似た感情も抱いているからだろう。





「……母さん……。…もうすぐだよ。もうすぐ……ひとつになれる」





壁画の間の一番奥。
そこでセフィロスはそう呟いた。





「星とひとつになるって、どうするつもり? 」





今度、尋ねたのはエアリスだった。
セフィロスはエアリスを見て答える。





「簡単なことだ。星は傷ができると治療のために、傷口に精神エネルギーを集める。傷の大きさに比例して集まるエネルギーの大きさが決まる。……星が破壊されるほどの傷ができたらどうなる?……どれほどのエネルギーが集まる?フッフッフッ。その傷の中心にいるのが私だ。エネルギーはすべて私のものだ。星のすべてのエネルギーとひとつになり 私は新たなる生命、新たなる存在となる。星とまじわり……私は……今は失われ、かつて人の心を支配した存在……『神』として生まれ変わるのだ」





そう、それがセフィロスの目的。

知っていた。
今ここに至るまで、セフィロスが散りばめていた言葉の意味を…あたしは理解出来ていた。

星を壊すほどの傷…。
それを癒すための精神エネルギー…それを全て、自分のものにする。

そうするための手段は、この壁画の中にある。





「星が破壊されるほどの傷?傷つける?星を?」

「壁画を見るがいい。最高の破壊魔法……メテオ」





重ねて尋ねるエアリスに、壁画を見ろと促すセフィロス。





「そうはいかない!」





クラウドは叫んだ。
その瞬間、セフィロスの姿はまた消える。

ここは一番奥。
もう進むことは出来ない。

クラウドは後ろに振り返り、走り出した。





「どこだ!セフィロス!」

「待って、クラウド!」





エアリスとナナキが慌てて追いかけた。

あたしは、少し見つめて…それから同じように追いかけた。

クラウドの様子がおかしい。
それはきっと、エアリスもナナキも気が付いただろう。

…この辺りから、クラウドの異変が強くなる。





「クックックッ……黒マテリア…クックックッ……メテオ呼ぶ」





エアリスとナナキの呼びかけにも応じない。

クラウドは、壁画の前で笑っていた。

ああ、こんな感じなんだ…。
それを見てそんなことを思うあたしは、やっぱり暢気だろうか…。

妖しく、不気味とさえ取れる今のクラウド。

でも怖くはない。
それはあたしが、こうなっている原因を知っているからか。

というか、実を言うと、あたしはこのクラウドの状態をよく見ておきたかった。





「クラウド!!しっかりしなさい!」





エアリスが強く呼びかけた。
その声にやっと、クラウドは反応する。





「クラウド……。俺……クラウド……どうやるんだ…」





頭を抱えて、呻くクラウド。

自分を、どうやる。
何とも不可解な状態。





「……思い出した!俺のやりかた」





でも、突然…ハッと元に戻る。





「……クラウド」

「ん?どうした。なんか変か?」






声を掛けたエアリスに、クラウドは振り返る。

いつも通り。
そこにいるのは、いつものクラウド。

だから、エアリスは首を横に振った。





「……なんでもないから。気にしないで。ね、レッドXIII!なんでもないよね」





エアリスも、いつも通りに振る舞う。
同意を求められたナナキは、おずっと頷きつつも少し首を捻っていた。

まあ、そんな反応になるのも無理はない。





「ねえ、ナマエ…?」





そしてエアリスは、あたしにも同意を求めてきた。

エアリスの意図はわかる。
あたしも、そうするのが一番だと思う。

だからあたしは、すぐに合わせた。





「ん、別に。なーんも。それよりあたしは、この壁画をまじまじと見たい!」

「…あんた、相変わらずだな…」





クラウドはため息をついた。
うんうん、いつも通り。

でも、セフィロスの気配は薄れたから。

いや、近くにはいるだろうけど。

でももう、大丈夫だって感じる。





「逃げちゃったね、セフィロス」

「……気にするな。あいつの言ってることはわかった。これがメテオだな?」





そのまま話題を変えるようにしたエアリス。
クラウドは素直にその流れに乗り、目の前の壁画に目を向ける。

それは、あたしがさっきちらりと見た隕石の絵。

これがセフィロスの行っていたメテオだと、クラウドたちも理解した。





「何か落ちて来るのかい?」

「……魔法ね、これは。セフィロスが言ってたとおり。究極の破壊魔法メテオ。宇宙をただよっている小さな星を 魔法の力で呼びよせるの。そして……衝突。この星、完全に壊れちゃうかも…」





首を傾げたナナキにエアリスが説明した。

そしてエアリスはこちらに駆け寄ってくる。
「ん?」と思うと、そのままきゅっと腕に抱き着かれた。





「ナマエは相変わらず、知ってるけどーって顔してるね」

「えー、そんな顔に出てるー?まあ知ってるからね、メテオのことも」

「ふふ、本当、凄いね」





抱き着いたまま、エアリスはくすりと笑う。

それはただのじゃれ合いにも見えて…。
でも実際は、それだけじゃなかった。





「ねえ、ナマエ。やっぱりナマエは、大変、だね」

「んー?」





耳に届く、エアリスの小さな声。
あたしは何の気なしに応える。

壁画に目を向けているクラウドやナナキには届いていない。





「クラウド、これからきっと、向き合わなきゃならない事、あるんだね」

「……。」





小声のまま続けるエアリス。
あたしは何も答えない。

エアリスは本当に鋭いと感心する。





《ねえ、ナマエ。ナマエは、クラウドの味方?》





あれは、ゴンガガ。
ザックスの実家を訪れた後、エアリスにそう聞かれたことを思い出す。

ナマエ、大変だね、って。
そう言われたのもあの時。

エアリスは言った。
もし、クラウドが大きな壁にぶつかるとき、助けてあげたいと思うって。

…ナマエも、同じ?

同時に、そうも聞かれた。
あたしは、いつものように適当な返事をした。





《まあ、いいと思う道を選ぶようにはしてるかなぁ》





その姿勢は、今も変わってない。
そう、その時その時、良いと思う道を選ぶ。

今も、そうしようとしてる。

ただ…。
あの時より少し、何か変わっているとしたら。





「まあ、なにがどうなっても…あたしはクラウドの事が好きだよ」





そう答えた時、エアリスはちょっと目を丸くしてた。

別に、好きなんていつでも言う。
好き好き大好き、愛してるー!って。

見慣れた光景。
皆もそれを見てああいつも通りだって笑う。

そう。これもいつも通り。
別に深い意味を込めたつもりは無い。

変わらないよ。
あたしは何が起こったって、クラウドの事が好きだ。

それは、あたしが本当の彼を知っているから言えることでもあるけれど。
だってあたしはそもそも、そのすべてを知った上でクラウドというキャラクターが好きなのだから。

ただ…。
ううん、それもある。それもあるけれど。





「……。」





じっ…と、壁画を見ているその顔を見る。

…何か、変わっているとしたら。

信じていると、優しく言ってくれるクラウド。
その声に無感情でいるほど、あたしも冷めてはいない。

恩を感じている。
恩に報いたいとか、何か返したいとか。

…情、なのかな。

力になってあげられることはあるだろうかって…そんな気持ちは、きっと…確実に増えている。

自分を見失うクラウド。
見ておきたいと思ったのも、そんな気持ちから。





「うん…そう…そっか」





エアリスはあたしの肩に身を寄せ、そしてなんだか嬉しそうに微笑んだ。




To be continued

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