君を亡くした塔の中で


AF400年。
新都アカデミア。

そこであたしたちは、タイムカプセルとうい装置を使い、未来にやってきていたホープとアリサと再会した。

そして、そこで決意をした。
この世界の未来を掴むために、それぞれの道で戦っていこうと。

ここに初めて来たときは不完全だったけれど、今は元の形を取り戻したゲートの前。
あたしたちはその場所で…ホープとアリサに別れと、再会の約束を告げた。





「ナマエさんも、御武運を」

「うん」





アリサと交わした握手。
そして、最後にきちんと向き合った彼。





「…お気をつけて」

「そっちもね」





ホープが手を伸ばしてくれる。
あたしはその手掴み、重ねあわせる。

ホープは重なったあたしの手を両手で包み、祈るように握りしめてくれた。

無事を願う祈り。
そして離れていても、この手を放しはしないという証。





「またね、ホープ」

「はい、必ず」





手を放し、ゆっくり背を向け、ゲートを見上げる。
ノエルがオーパーツを投げれば、音を立て、ゲートは回り出した。

身体が浮かび、いつものようにヒストリアクロスへ引き込まれていく。


そう…いつものようにのはずだった。


だけど今回は、何か違った。
それに気が付いたのは、ヒストリアクロスに入った後…。






「っナマエ!?」

「ナマエ!!ノエル!!」





今回のヒストリアクロス…。
その空間は突然、今まで感じたことのないくらいのとんでもない揺れに襲われた。

一度も経験のない出来事。
焦ったあたしたちの身体は、一気にバラバラに離れていってしまった。

抵抗も虚しい。
手を伸ばしても届かない。声すら、聞こえなくなっていく。





「セラ!モグ!ノエルっ!」





叫んだ声に、返事は無かった。

ただ、その代わり…。
ふたりの声の代わりのように、頭に響いた声があった。





『ごめんなさい。貴方たちの新しい未来に、私は存在できないから。…おやすみなさい』





誰の声…?
聴き覚えがある…。

アリサ…?

確証は無かった。
だけどその声は、アリサに似ている気がした。

そして、その直後のこと。
揺れるヒストリアクロスの中、あたしが導かれた場所は…。





「わあっ!、と…」





まるで、時の狭間に迷い込んだときみたい。
身体が突然、ヒストリアクロスから放りだされてしまった。

なんとか咄嗟に体制を立て直し、タン…と足をその地につける。

尻餅は回避だ…。
フッ、決まった…とか言ってる場合じゃない。





「ここは…?」





あたしは立ち上がり、その場の様子を伺った。

ゲートをくぐってまず初めにすることは、辺りを見回す事だ。

そこがどんな場所か、危険がないか。
この旅を通して、すっかり身に付いた癖みたいなもの。





「…危険は、ない…かな」





いつものように、見渡した辺り。

ちょっと、薄暗いかな。
でも暗いというよりかは落ち着いた照明と言った方が正しいか。

つまりそこは、建物の中だった。
そして、どこをどう見渡しても自然の景色は無い。360度、人工の景色。
それも、超が付くほどハイテクな雰囲気。

そして、あたしはこの場所に見覚えがあった。
馴染みがある…って程じゃないけど、前に訪れた事がある、知っている場所。





「アガスティアタワー…?」





呟いた、その場所の名前。
そこはこの旅で訪れた場所、アガスティアタワーの内部だった。





「アガスティアタワー…って、なんでまた…」





アガスティアタワー。
アカデミーの情報拠点となる、電脳施設。

塔全体が演算能力を持つ巨大な人工知能となっている…AF13年頃に建てられた、超ハイテクな建物…っていうのは、ホープが教えてくれた情報だ。

アカデミーの施設なら、ひとまず安心かなあ…?

そんなことを考えつつも、あたしは思わず顔をしかめた。
なぜなら、このアガスティアタワーにはあまりいい思い出がないからだ。むしろ、それは最悪の部類に入る思い出だ。

まあそんなこと今考えても仕方ないんだけど…。
セラとノエルも探さなきゃならないし…。

場所はわかった。
じゃあ次は、ここがAF何年なのかってこと…。

こういうのは得意じゃないんだけど…そんなことは言ってられない。
無い頭をしっかり捻って、今何をするのが最善かを考える。

だけどその瞬間、その場に変化が起きた。





「…っ?!」





何か、音がした。
思わず、息をひそめた。

何故って、それが凄く物騒な音だったからだ。

鋭い音…。

なんだろう、今の…。
銃声、みたいだった…?

それに、何か戦ってるような音もする。





「っ、…」





嫌な予感がした。
だから、咄嗟に音の方に駆け出した。

心臓がうるさい。
それはもしかしたら、此処がアガスティアタワーだったからかもしれない。

この塔にはあるの…気分の良くない思い出。

脳裏に焼き付いてる。
パラドクスだってわかっていても、消えない…嫌な映像だ。

…ホープが、殺されるヴィジョン。





「…、嫌な記憶…っ」





思い出して、少し吐き気がした。

掻き消せ!掻き消せ!掻き消せ!
まるで、呪文みたいに頭の中で唱える。

そうしながら、あたしは音のした方へ一直線に走っていた。



To be continued

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