馬鹿なこと


「はー、お腹いっぱい。未来も食べ物美味しいよねえ」

「いいお店でしたね。また行きましょうか」

「うん!あっちのお肉のも食べたいし!」

「最後までどっちにするか悩んでましたもんね」





AF400年。新都アカデミア。
時を越えて旅をする中、何かと拠点とすることが多いこの場所。

アカデミーはタイムトラベラーであるあたしたちの存在を把握し、非常に良くしてくれている。

毎回、それぞれにホテルの部屋を用意してくれて、至れり尽くせり。
なんだか申し訳ないなといつも思う。

そんなことを思えば、隣にいる彼は「何も気にすることないですよ」とただ笑うけど。

セラとモグで一部屋。ノエルに一部屋。
あたしは…だいたい、ホープのお部屋にお邪魔する。

今も、ふたりで外食をして部屋に戻ってきたところだった。





「はあ、良い景色です事。流石最高顧問。教科書に載る偉人ホープ・エストハイム」

「…またそれですか。何回言うんですかそれ」

「だって教科書に載る偉人は笑うでしょ。そうそう、この間アカデミーでその話してたら見せてくれてさー」

「なにしてるんですか…。ていうか、いつの間にか職員たちと仲良くなってますよね」

「あー、そうだねー、最近は挨拶する人も増えたかも」





部屋の大きな窓からは、アカデミアの景色が一望出来る。
あたしは窓の前でホープに振り返り、ふふっと笑って見せた。

するとホープも歩み寄ってくる。

でも、隣に立つとかじゃない。
傍まで来たホープは、後ろからぎゅっとあたしの体を抱きしめた。





「ホープ?」

「一緒にいる時間は、大事にしたいですから」





どしたの、と声を掛けるとそう返される。

まあ、そりゃ確かに。

その気持ちはこちらも同じだ。
だからあたしはそれを伝えるように、首に回る腕にそっと手を添えた。





「…ナマエさん、今僕が考えてること、わかります?」

「夜景が綺麗だなあ」

「それはナマエさんが考えてる事でしょ」

「ははは、正解ー。っても、ホープだって思うでしょ?」

「…そうですね」





目の前にあるキラキラした夜景。
この景色を見て綺麗だと思わない人はまずいないだろう。





「じゃあ、何考えてるの?」

「……。」

「え、なぜ沈黙。聞いて欲しいんじゃないの?」

「いや…聞いて欲しいと言うか…知ってるかなって」

「知ってる?」

「…知らないだろうなあって」

「え、どっち」





言ってることがふわふわしている。

少し手を上げて、ぽんぽんとその柔らかな銀髪の頭に触れる。
するとホープの腕の力がまたほんの少し強くなった気がした。





「…凄く、馬鹿な話です」

「馬鹿?」

「…もっともっと、僕のこと、たくさん考えていて欲しいなって」

「え?」





ガラス越しに目が合う。
抱きしめるホープと、抱きしめられる自分が映ってる。





「…離れてる間、思うんです。本当はずっと傍にいたいけど、それは出来ないから…だからせめて、少しでも多く、僕のこと思い出してくれたらいいなって」

「……。」





空を見上げた時、思う事。

離れていても、同じ空の下にはいる。
よくそんな風に言う事があるけれど、あたしたちの場合、それは当てはまらない。

時代が違う。
どんなに空を見上げても、その下に君はいない。

そんなことは、あたしもよく思う。





「…じゃあ、ホープは知ってますか」

「え?」

「あたしは、君のことが好きです。ま、それは知ってるよね?」

「え、あ、それは…はい」

「じゃあ、どれくらい好きか、知ってる?」

「どれくらい…ですか」

「うん。たぶん、君が思ってるより、ずっとずっと、あたしホープのこと大好きだよ」

「え…」





そっと手を解く。
そして振り返って、今度はこちらからぎゅっと首に腕を回して抱き着く。

夜景はもういい。
もっともっと、ホープのことを考えていたい。





「…そんな馬鹿なこと、あたしだって思ってる」





抱き着いて、頬を寄せて、そのぬくもりを目一杯感じる。

すると背中に手が回る。
また、その手がきゅっときつくなって。





「そうですか」





そう言った声は、嬉しそうに笑っていた。



END

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