穏やかな時間


「ホープ。飲み物淹れるけど、飲む?」





ホープの部屋。
こんこん、軽くドアをノックした。

でも、返事はなかった。





「ホープ?」





呼びかけながら、軽く首を傾げた。

最近、ホープはずっと勉強を頑張っている。
あたしはそんな彼に、飲み物を淹れてあげたり、時には夜食を作ってあげたり。

だけど今はやっぱり返事がない。





「…寝てる?」





そっと、扉を開いてみた。

部屋は明るい。
そして見えた、机に突っ伏している姿。





「あーあ…こんなとこで寝ちゃって」





音を立てないように入れば、広げたままのノートの上で夢の中にいるホープ。

見事にぐーすかぴーですね。
あたしはタオルケットを手に取ると、その肩にふわりと掛けてあげた。





「まあ、頑張ってるもんね」





可愛らしい寝顔だ。
そっと手を伸ばし、くしゃ…と軽く銀色の髪に触れる。

柔らかくて気持ちがいい。

しばらく、ちょっと調子に乗ってなでなで。
するともぞ…と、肩が動いた。

あ、やべ。





「ん…、ナマエ…さん…」





重たそうに、瞼が開く。
ぼんやりとした緑色の瞳が見える。

あたしは慌てて手を引っ込めた。





「ごめん、起こしちゃった?」





あはは…と苦笑い。
全然起きる気配なかったから、ついつい撫ですぎたかも。

するとホープは突っ伏していた頭を起こした。





「なんか…あたたかくて気持ちがいいなって、夢の中で思ってて…しばらくその心地よさを味わってたんですけど、途中からふっと夢じゃないなって気が付いて。だから結果的にはそうですかね…」





ホープはそう言いながらひとつ欠伸をした。
そのついでに肩にあるタオルケットに気づいて「掛けてくれたんですね」とお礼を言ってくれた。

でも、あたし的にはやっちゃったなあって気持ちだ。





「んー…起こすつもりはなかったんだけどね。失礼しました…」

「いえ…、心地良かったんで…。むしろもう少し味わっていたかったくらい…」





まどろむ中、撫でられている感覚は気持ちがよかったというホープ。
ただ、少しずつ意識がはっきりして、撫でられていることに気が付いたから目を開けたとか。





「不思議だな…人に髪、撫でられるとなんだか気持ちがいいですよね」





ホープはまだ少しまどろむ表情でそう微笑んだ。
まあ、確かに自分の手とは違う、人の手にふわふわと撫でられるのは心地がいいけれどね…。





「んー、でも頭撫でると子ども扱いしないでください〜ってよく言ってませんか?」

「まあケースバイケースですよね」

「てっきとーだなあ」





いつもの言葉を軽く翻すホープに笑った。

まあ、起こしちゃったのは反省。
ホープがいいって言ってくれるならいいけどね。





「そういえば、何か僕に用でしたか?」

「あ、ううん、ただ何か飲む?って聞きに来ただけ」

「何か淹れてくれるんですか?」

「飲む?」

「飲みたいです」

「うん。じゃあ淹れて来るよ」





当初の目的。
なにか温かいものでも…と、聞けばホープは頷いたのであたしは了承し部屋を出ようとした。





「ナマエさん」





でもその時、一度呼び止められる。
あたしは足を止め振り向いた。





「お茶、一緒にしましょう?」





ふっと笑ってそう言うホープ。
彼はそう言いながら机の上を片付けていた。





「勉強、もういいの?」

「はい、区切りはいいので。ダメですか?」





そう聞かれ、あたしはふるっと首を横に振った。





「ううん、じゃあ、お茶会しますかー」

「ふふ、はいっ、片づけたらリビング行きますね」

「はーい」





そんな会話を交わして、ドアを閉めた。

カチャン…と言う音を聞きながら、ちょっと思う。

居候させてもらって、だいぶ経つ。
こんなありふれた何気ないやり取りが、当たり前になっている。

心地の良い、穏やかな時間。

ホープが笑ってくれる、そんな時間をいとおしく思った。



END

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