一緒にいたかったのは同じだよ


「え、お金、貰えるんですか?」

「勿論。ただ働きなんてさせないさ」





目を丸くしたあたし。
リグティさんは当然だというようにニッと笑って見せた。

今、あたしはリグティさんにある書類を見せられていた。

そこにはまるで雇用の条件みたいな、そんな項目がずらりと並んでいた。





「え、でも…戸籍とか用意して貰いましたよね」

「定期的に来てもらうのにそれじゃお嬢ちゃんが損だろ。それ以上のモノをこっちは貰ってるからな」

「そんな大層なモンですかねえ…」





この世界で生活するに当たり、あたしは騎兵隊の方々の計らいで戸籍や必要な書類などを用意して貰った。

その対価は、あたしの持っている価値観。
元の世界での、人が人の力で生きていくための世界の回し方や、新しい決め事に関してそれをあたしがどう感じるかなどの意見を聞かせて欲しいと言われている。

元の世界ではただの学生。
そんなあたしの意見なんてどれほどのモンよ…って思うけど、リグティさんいわくそれはなかなかの価値があるものだという。

なんでも、ファルシに飼いならされたこの世界の常識から外れたあたしは、この世界の人にとって目からうろこ…な考え方が出来るらしい。

あんまりよくわからないけどね。

そしてそこにお金が発生する…と、今しているのはそういう話だ。





「色々と必要だろ。バイト代だ」

「…うーん、まあそれは有難いですけど…」

「けど?」

「あの、ちょっとつかぬことをお伺いしますが…」

「うん?」





お金が貰える。
それを聞いて、思いついた事があった。

まあまず第一に、あたし自身が生活する上で自由に使えるお金が出来るのは有難い。
日用品の類もそうだし、リグティさんもその辺りの事を察して提案してくれているのだろう。

だけど、その他にもうひとつ。





「…じゃあ、あの、他にもお仕事何かもらえませんか。雑用でもなんでも。それで少しでいいので上乗せしていただけると…」

「まあ、嬢ちゃんのその考えだともう少しあった方がいいかもな。OK、了解した」





その詳細を、あたしはリグティさんに説明した。
すると「真面目だなあ」と少し笑われた。

でも、その願いをリグティさんは快く引き受けてくれた。

その夜、あたしはお世話になっているエストハイム邸で話をすることにした。





「バルトロメイさん、少しお時間頂きたいんですけど…いいですか?」

「どうしたんだい?」





夕食後、あたしはバルトロメイさんに時間を作ってもらった。
突然そんなことを言ったもんだから、ホープもどうしたんですかって顔してた。

まあ、ホープにも聞いてもらったほうがいいのかな。

だからあたしは目が合ったホープにコクリと頷く。
するとそれを見たホープも近くのソファに腰かけて今からする話に耳を傾けてくれた。

そこで早速、あたしは本題を話し出した。





「バルトロメイさん、居候させてもらってありがとうございます。本当に感謝してます」

「突然だね。改まってどうかしたのかい」

「実は、今日リグティさんと少し話して簡単なお仕事を貰えることになって…だからコレ、受け取っていただきたいんです」





そう言ってあたしはバルトロメイさんに封筒を差し出した。
中に入ってるのは、もちろんお金。

リグティさんにも相談して決めた、いわば家に入れるお金だ。





「…そうか、ありがとう。でも、気にしなくてもいい。折角のお金だ。君の好きに使うと良い。君自身も色々、必要なものがあるだろう。それに、家事も担ってもらって、むしろこちらが感謝したいくらいだからね」

「いえ。それくらいはさせてください。そもそもそれは自分の家事でもあるし。受け取ってもらえると私も気が楽なんです。だから、受け取ってください」

「……わかった。そこまで言うなら、受け取らせてもらうよ」

「はい!」





バルトロメイさんは頷いて、封筒を受け取ってくれた。

ちょっとだけ、ほっとした。

いやでも本当に、今話したことは全部本音。
ここでお世話になる以上、その辺はきちっとしたかったから。

あたしの気が楽だからっていうのも、本当の話。

用が済んだところで、席を立った。
廊下に出ると、一緒に出たホープに声を掛けれた。





「なんか、気を使わせちゃったなら、ごめんなさい」

「え?」





ホープは謝ってきた。

え、なんで君が謝る?
よくわからず首を傾げれば、ホープは眉を下げた。





「いや、スノウやセラさんたちにも声かけられてたんですよね。もしそっちに行ってたら、そんなに気も使わせなかったかなって」

「ああ…」

「ナマエさんの居場所をって、そう思ったのも嘘じゃないけど、実際は僕が一緒にいたい気持ちも大きかったと思うから」

「ホープ…」





確かに、スノウも声を掛けてくれた。

ノラのみんなと一緒に新しく村を作るから、ナマエもどうだって誘ってくれた。
最初はあたしも、その案に乗せてもらうのがよさそうかなと思った。

でも、リグティさんに協力を頼まれて…。
それならエデンから首都に成り代わるパルムポルムの方がいいだろうって事で、あたしはホープの誘いを受けることにした。

でも、それは…。

本音を言うのならあたしも、きっと理由はそれだけじゃない。

あたしはふっと笑った。





「一緒にいたかったのは、あたしも同じだよ」

「え…」





ホープとバルトロメイさん。
ちょっとしたすれ違いがあって、でもそれが解けて、親子ふたり…きっと探り探りで生活していく。

そんな中にあたしが入っちゃうの、どうかなって思ってた。

でもふたりとも優しく受け入れてくれて、本当に感謝しかない。




「ていうか勿体ないくらい良くしてもらってるし!むしろ有り難すぎてどうしようって感じなんだけど」

「そうですか…?」




そういえば少しホープの表情が和らぐ。
それに…あたしもホープとは、離れがたかった。





「そういえば言ってなかったね」

「え?」

「ホープ。うちに来ませんかって、そう言ってくれてありがとう」

「ナマエさん…」





色々思うことはあった。
でも、君がそういってくれたことは本当に嬉しかったんだよと。

ちょっと機会逃してたけど、伝えられてよかったと思った。



END

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