想いの重なる日


「…ナマエさん。もう、知っているでしょうけど…僕は、…ナマエさん、僕は…貴女が好きです」





机に向かっていた僕は、飲み物を持ってきてくれたナマエさんにそう告げた。

立ちあがって、自分が座っていた場所にナマエさんを座らせて。
彼女の手を両手で包んで、まっすぐ…彼女だけを見つめて。

ずっと、ずっと考えていた事だった。
いつまでも曖昧なままじゃなくて、はっきりさせたい気持ちが…ずっとどこかに渦巻いていた。

ルシじゃなくなって、あの頃より少しだけ…明確に明日が見えるようになった。
だけどまだ僕は子供で、ナマエさんの世界の事も何一つわからず…問題は沢山ある。

でも、だからこそ…一番に力になれる存在でありたかった。

うん…それに、自分だけのものにしたいって強く願う程、僕はこの人が好きでたまらなかった。





「僕は…貴女に触れる、権利が欲しい…」

「………。」

「…無条件に、貴女を守れる理由が欲しい…貴女が、頼れる場所でありたいんだ…」





頬に触れて、そっと想いをひとつひとつ伝える。

すると彼女は軽く目を伏せ、ふう…と小さく落ち着くように息をついた。
そして僕を見ると、柔らかな笑みを浮かべ、想いに応えてくれた。





「…あたしも、」

「…え…?」

「あたしも、好きだよ。ホープのこと」

「……ナマエさん…」

「ホープのことが大好き」





優しい声で、彼女は言う。

僕が好きだと。
僕だけを見つめて。

悪く思われていないことは、正直なところ…わかってはいた。

でも、好きだと言って貰えたのははじめてで…その声を聞いた瞬間に、胸の奥から熱い波が押し寄せて…。
僕はその波に突き動かされるままに、ナマエさんの体をぎゅっと抱きしめていた。





「ナマエさん…好きです。好きだ…、大好きだ…。いくらいったって足りないくらい、ナマエさんが好きです…!」





たまらなくなって、溢れ出して、その想いをぶつける。
嘘じゃないと確かめる様に、塗り固める様に、何度も何度も。

するとナマエさんも、背中に手を回してきゅっと抱きしめ返してくれた。

それを感じた瞬間に、まだ溢れ出るのかと自分でも驚く。
でも、また確かに愛おしさが溢れて、僕は力をまた強めた。

それからどれくらいだろう。

時間なんてわからなくなるくらい、僕たちは抱き合っていた。





「…そろそろ、夕食の支度しなきゃ」

「あ…」





それに気が付いたのは、ナマエさんがそう言って背中に回した手を緩めた時だった。
僕は夢中で、彼女のぬくもりを噛みしめることにいっぱいになっていて…その時に我に返った。

でも、確かにいつまでもこうしているわけにはいかなかいから、そっと身体を離す。

そうすると、やっぱりちょっと…名残惜しさを感じた。
本当は、もう一度引き寄せて抱きしめたい。そんな衝動をぐっと耐える。

そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ナマエさんは微笑むと椅子を立ち上がった。

でもその時、僕はハッと思い出した。





「あっ、ナマエさん、待って」

「え?」





立ち上がり、ドアに向かう彼女の手を掴む。
きょとんと振り返るナマエさん。

…つい、思わず突き動かされるままに抱きしめてしまったけど、本当はナマエさんに渡したいものがあったんだ。

僕は机の引き出しを開けた。
そうして取り出したのは、ふたつの輪。





「…あの、これ…安物で申し訳ないですけど、よかったら受け取って欲しくて」

「え…?」





僕はそう言って引き出しから取り出したものをひとつ彼女に握らせた。

ゆっくりと手を開いた彼女は、目を見開く。
そこにあるのは、シンプルながらもそれなりに考えて選んだ…揃いの指輪。





「え…これ、くれるの…?」

「…よければ」

「…ペア?」

「…はい」





こくりと頷く。

結構、ドキドキしてた。

ナマエさんは手の中にある指輪を見つめ、そっともう片方の手で触れる。
そしてくすっと笑みを零すと、それを僕の手に握らせた。





「じゃあ、ホープがはめてくれる?」

「えっ…」

「ほらほらっ」





そう言ってナマエさんは僕に左手の甲を上にして差し出す。

左手…。
ちゃんとそちらを出してくれた事に、なんだかたまらなく嬉しくなる。

僕もふっと笑った。
そして差し出してくれたその指に触れて、薬指に輪を滑らせた。





「えへへ…ありがとう」

「いえ…」





きらりと薬指に光る。
ナマエさんはそれを見つめ、顔を綻ばせた。

その顔は自惚れでは無く、本当に嬉しそうにしてくれて…僕は心が満ちるのを感じた。





「お返し。じゃあ、ホープの…あたしがはめてもいい?」

「そうしてくれると嬉しいです」





ナマエさんにもうひとつの指輪を渡す。
すると彼女は僕の手をとり、さっき僕がしたように、僕の左手の薬指に指輪を通してくれた。

ふたりで手を並べる。
同じ輝きが、ふたつ。

それを見て、ふたりで照れ笑い零した。





「じゃあ、行くね。ホープも夕飯まで勉強するでしょ?頑張って」

「はい」





ナマエさんはそう言って部屋から出て行った。

ぱたんと扉が閉まる。
その瞬間、僕は思わずぐっと拳を握ってしまった。





「…やった…っ!」





つい零れ落ちる喜び。
本当は叫び出したいほどだったけど、同じ家の中で流石にそれはまずいから…小さく。

想いが届いた。伝わった。夢じゃない。
それは指に光る輪が物語っている。

気持ち、届いたんだ…。

ナマエさんはこの世界にいることに…きっと色々悩んでいる。
だから僕の気持ちを、貴女の安心に使えたら…ってそう思った。

指輪を渡したのも、形があったほうがその実感をしやすいと思ったから。

でも、やっぱり…思いが通じ合ったことが、嬉しくてたまらなくて。





「はあ…」





椅子に座って、そっと息を吐く。
そうして落ち着いて、また滲みる。

今は、頬の緩みをどうする事も出来なさそうだ。

そんな諦めをして、僕は彼女の淹れてくれた飲み物にこくんと飲み込んだ。



END


両思いになった日のお話。
本編の「不安定な存在」という話で回想として書いてるんですけどその辺の後のことをホープ視点でって感じです。

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -