キミノイナイミライ


――被験体ナンバー1、および被験体ナンバー2、被験体ナンバー3についての中間レポート。演算空間内で極めて危険な戦闘能力を発揮した3名に勝利の幻影を見せ、本体はデータ化された状態で演算空間内に隔離した。
今後は、ナンバー1、およびナンバー2、ナンバー3の記憶を一時的に抹消しデュプリケート化して実践データを収集する方針とする。





『これより実践テストを開始する。目標はネットワーク上に発生したモンスター型ウィルスの排除』

「了解」

「わかりました」

「クポ」

「はい」





下された命令。答えたのは何の感情も感じられない無機質な声だ。
だって、感じるものがないから…。

ただそこにあるのは、与えられた任務を果たすということ。

武器を構え、その目標排除に向かい、それぞれが一斉に走り出す。





『ミッションコンプリート。帰投せよ』





ウィルスはひとつ残らず排除した。
それが確認出来ると帰投命令が下る。

あたしたちは、ミッション開始地点へと戻った。





「いつか、見つかるのかな…?」





戻ったその時、隣にいた並んでいたセラが小さく呟いた。
どこか寂しげな声。そんな彼女に、あたしとノエルはそっと目を向けた。





「セラ?」

「見つかるって…?」





声を掛ける。そうして見たセラの顔は悲しげだった。





「私、誰かに会いに行こうとしてた。大切な、誰かに」





セラはあたしたちにそうか細く伝えた。

大切な誰かに会いに行こうとしていた。

それを聞くと、なんだか胸の奥の方が疼いた。
そう…何か、大切なものがそこにあるような。

多分セラも同じような感覚を覚えているんじゃないだろうか。
ううん、セラだけじゃなくて…きっと、ノエルも。

ノエルを見れば、彼も胸を押さえ、何かを思い出したように呟いた。





「俺にも約束があった。大事なあいつと…」





セラもノエルも、大切で大事な人との何かが胸の奥で疼かせている。

あたしも同じ。
あたしも、胸に両手を当ててその疼きを探ろうとした。

そう…。あたしにも、いた。
すごく、すごく、大切な…誰か。





「…あたしも、すごく…すごく、会いたい人がいた…」





思ったまま、言葉にする。
そう。すごく会いたい、大切な人がいた。

でも、大切なのに…顔が思い出せない。
それが一体誰だったのか、真っ白で、全然頭に浮かんでこない。

だけどその時、あたしはふと、自分の指にキラッと光るものを見つけた。





「あ…」





左手の薬指。はめられていたひとつのリング。
そうだ。これは…きっとその人に関係があるもの。

そしてそれに気が付いたその瞬間、フッ…と一瞬だけ、脳裏に走った映像があった。





『うわああああ!!!!』





何かに襲われた様に、顔を覆った腕。
そして響いた悲鳴。

本当に、本当に一瞬。

それを思い出そうと探っても、もうそれ以上思い出せない。





「おい、ナマエ…」

「どうして泣いてるの…?」

「え…?」





その時、ノエルとセラが心配そうにあたしの顔を覗きこんでいる事に気が付いた。

…泣いている?
その指摘に、そこではじめて頬を伝う雫の存在に気が付いた。

本当だ…なんであたし、泣いているんだろう。

理由がわからない。
記憶が無い。何もかも真っ白だ。

ぽっかりと、そこにあるのは…喪失感…?

でも、なんでだろう…。
胸の奥が、じわじわと鈍く痛むの…。





『繰り返す。ナンバー1、ナンバー2、ナンバー3、帰投せよ』





その時、帰投命令が繰り返された。
あたしたちはハッとして、大人しくその指示に従った。

…引っ掛かる。

だけどきっと、考えたところで…もうわからないから。


――被験体ナンバー1、およびナンバー2、ナンバー3は任務を完遂し、予定通りのパフォーマンスを示した。
エデン再生計画は遅滞なく進行中であるが、万が一、市民の暴動などが発生した場合、ナンバー1、およびナンバー2、ナンバー3を鎮圧に投入することも視野に入れる。

なお被験体に一時、記憶の混乱が見られ、3名の人格データを構成する思考素子の内部でパラドクスに似た時空の揺らぎが観測された。揺らぎは不可視世界の混沌と同一の性質を示しており、この揺らぎこそ『心』の正体である可能性がある。

人間とは文字通り、心にパラドクスを抱えた存在であるのかもしれない。



END


魂のレプリカ。デミ・ファルシをグランドクロス状態で倒した時のエンディングです。
倒したと言う偽の幻影を見せられて、そのままセラたちが幽閉されちゃうお話。

これつまりホープがあのまま死んだことになってる幕切れなんですよね〜。

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