目が覚めた。といっても、まだ視界はぼんやりしてる。
ふかふかのベッドの中。柔らかくて心地がいい。
あたしはゆっくりと体を起こし、肩に掛け布団が掛かったままベットの上に座る形でふわっとひとつ欠伸をした。
「あれ、起こしましたか?」
その時、少し離れたところで声がした。
まだ開ききっていない目を声の方へ向ければそこにいたのはワイシャツ姿のホープがいた。
ベット際に置かれた時計を見れば、まだ結構早い時間。
あたしは寝ぼけ眼のまま、ホープに問いかけた。
「…早くない?」
「ですね。今日は少し早めに本部に顔を出さなきゃで」
「…起こしてくれればいいのに」
「旅で疲れてると思って。出る前には声掛けようとは思ってましたよ」
ホープはそう答えながらアカデミーのジャケットを羽織った。
…お疲れなのはあんたなのでは。
ちょっとそんな事を思いつつ、あたしは瞼を擦った。
あたしとセラとノエルは昨日、AF400年の新都アカデミアで休息を取った。
ヒストリアクロスで旅をしているあたしたちは結構AF400年の新都アカデミアを拠点として行動することが多い。
なんだろう。ショップも沢山あるからアイテム補充に便利だし、有り難い事に宿もアカデミーの方で用意して貰えたりとか。
あとはまあ単純にホープがいるから情報の整理もしやすかったりと何かと勝手が良い時代なのだ。
「ナマエさんたちは、今日は?」
「うーん…詳しくは決めてないけど、とりあえず新しいオーパーツ見つけたって昨日言ったじゃん?」
「はい。じゃあゲート探しですかね」
「うん。行けたらその時代にも行くかもね。あ、でもアカデミー本部に一回顔出すよ」
「はい。そうして貰えると嬉しいです」
「あーい…」
口元に手を当てる。
またふわっ…と欠伸が出た。
少し涙が滲んだ目でホープを見やると、彼はネクタイを手にしていた。
これから結ぶ、というところ。
それを見たあたしは彼を呼んだ。
「ホープ」
「ん?」
ちょいちょいと手招きする。
するとホープは首を傾げ、でも大人しくそれに従いこちらに近付いて来てくれる。
それに合わせてあたしもベットから立ち上がり、傍に来たホープの手からネクタイを抜き取って彼の襟に掛けた。
「ふふ、やってあげる」
「えっ…」
すっかり背が伸びた彼を見上げ、そう言ってにっこり笑う。
まあ文句はないでしょ。
シュルシュル…っとアカデミーの水色のネクタイを結んでいく。
そして最後にキュッ…と襟元で締めて、トンと肩を叩いた。
「よし、完璧!」
「あ、ありがとうございます…」
「うん」
あたしは満足げに笑う。
するとホープはそっと今結んだネクタイの結び目に手を触れた。
うん?何か問題ありだろうか。
「苦しい?そんなきつく締めてないと思うけど」
「え、あ、はい、それは全然大丈夫です」
聞けばそうは言うものの、手は結び目に触れたまま。
…遠慮?いやしないだろ今更。
普通に苦しいですって言う姿は想像に難しくない。
じゃあなんだろう。
そう再び彼の顔を見上げたら、その頬はふわりと穏やかに綻んだ。
「なんだか嬉しいな、こういうの」
微笑んだまま、そう口にしたホープ。
ちょっときょとんとした。
でも、窓から差し込むのは朝特有の白い光。
それを感じて、目の前にいる彼を見てたら…ああ、確かに…なんて。
なんだか釣られてこちらも綻んだ。
「お仕事、頑張ってね、最高顧問さん?」
あたしは改めて笑みを向けて、ホープにそう言った。
少し軽めの、乗っかる感じの口調で。
「はい!」
彼も笑って頷いてくれる。
うん。確かに、ちょっといいかもしれないね。
END