無茶をしないように


「アカデミーでは今、パラドクス兵器の開発を進めています。時の歪みのエネルギーを利用した強力な武器です」

「毒には毒でって事か?」

「そうです。予言の書の男と戦わなければいけなくなる可能性もありますから」





新都アカデミアを訪れている時、ホープが言っていた話。

アカデミーではパラドクスの歪みの力を利用した兵器の開発をしている。

いつカイアスと戦うことになるかわからない。
もう未来を守るための戦争は始まっているから…って。

だけどそのパラドクス兵器の完成にはあとひとつ、カオスクリスタルと言う結晶が足りず、それは今ホープがいるAF400年の時代では発見さてていないとのこと。





「待って!この時代にはなくても」

「ヒストリアクロスを探せばあるかも」

「ってなれば、あたしたちの出番、だね!」

「期待していいでしょうか?もし見つかったら、試作品は贈呈します」





こうしてあたしたちはヒストリアクロスを巡る中、ホープからちょっとした御使いを請け負った。

カオスクリスタル。それは、時の歪みの結晶。

今いる時代で見つからなくても、ホープが欲したシロモノ。
手に入れるのはちょっと苦労した。

だけどそれは、その苦労に見合うような物だったみたいだ。





「うん、いい感じ!」

「うんうん、見ててわかる!さすがホープくんだね」

「だな。ありがとな、ホープ!」

「喜んでもらえて良かったです」





カオスクリスタルを渡せば、ホープは約束通り試作品をプレゼントしてくれた。
それは剣だった。となれば扱えるのはノエル。

ノエルはその剣を手にし、軽く振ってその使い心地をその場で確かめた。

チャキ、と音が鳴る。
馴染みは良かったみたいで、セラはその様子を見て喜び、ノエルはホープにお礼を言った。

それを聞いたホープも嬉しそうに笑った。
あたしも剣を振るノエルを見て、ふっと笑みを零してた。





「あ、ナマエさん、少しいいですか」

「ん?」





でもその時、ホープに呼ばれてちょっと来てほしいと手招きされた。

なんでしょう、とあたしはホープの傍に歩み寄る。

すると、ホープはあたしの手を取り、その腕にひとつのブレスレットをはめた。





「えっ、なに?これ」

「ちょっとアレを作るついでに。魔法を使う際にその威力を少し混沌の力で底上げできるようにしたものです。僕が戦闘の癖を把握してるのがナマエさんだけだったって言うのもあって急ぎ作れたのはそれだけなんですけど、何か間接的にでも貴女を守れるものが作れたらって思って」





ホープはそう言いながら少し照れくさそうに微笑んだ。
あたしはその笑みから視線を落とし、手首にはめられたブレスレットにそっと触れる。





「へえ、魔力の強化が出来るのか」

「わあ、デザインも可愛いね!」

「休憩時間にもこそこそ何かしてると思ったら、それ作ってたんですか」





触れて見ていると、ノエルやセラが同じように覗き込み、アリサが呆れ気味にそう言ったのが聞こえた。
ホープは最後のアリサの言葉には「あはは…」なんて眉を下げて笑ってる。





「…ホープ」





あたしはそんなホープの顔を見上げた。
名前を呼べばホープも視線を向けてくれて、視線がしっかりと合う。

あたしはそっと、また一歩ホープに歩み寄り、そして…。





「なにしてんだ、バーカ!!!」

「っいって!?」





その太もも辺りに向かってすぱっと足を蹴りあげた。

うん、今のはちょっと良いところに入った。グッド!

ホープは太ももを押さえて少しうずくまった。
その一方で唐突に蹴り技を見せられたセラ、ノエル、アリサはギョッとしたように目を見開いていた。





「お、おい、ナマエ!?」

「ちょ、ちょちょ、ナマエどうしたの!?」





ノエルとセラがそう驚いたように言う。

あたしは、ブレスレットをはめた手首がじわじわとするのを感じた。
それは、いろんな感情の混じり合った感覚がそこにも伝わっているような感じだった。

すとん…と蹲ってるホープの傍にしゃがむ。

前にも、ホープはあまり寝てないって聞いた。
気持ちはわかるけどあまり無理はしちゃダメだよって、それを聞いた時あたしはそう伝えた。

けど、ホープはまた休憩時間を削ったと。





「無理すんなって言ったでしょーが!」

「わわわ!ちょ、待って待ってナマエさん!」





この野郎。どうしてくれようか。
そう思いつつ手を上げれば、慌てたホープにガシッと手を抑えられた。
まぁ当然、力は敵わなくなってる。

仕方ないから手を下ろした。
するとホープはホッとしたように息をついた。

さっきまでビックリしてた他の皆も、とりあえずあたしの言い分を聞いて少し納得したらしい。

まぁひとまず、あたしも蹴りでスッとしたところはある。





「まぁいいや。とりあえず蹴りがいい感じにヒットしてスッキリしたからひとまずは勘弁してあげる」

「ええ…」

「え、殴られたいの?」

「いやいや、そんなわけないでしょう…」

「あそ」





ゆっくり首を横に振るホープ。
まあ別にそこは冗談だけどさ。

だけど、ちゃんと言っておきたいこと。

あたしはホープをじっと見つめた。





「あのさぁ、ホープが参ったら何の意味もないんだよ?」

「…はい」





つねろうとした手は下ろして、優しく問う。
ホープは頷いた。

本当、みんな無理をする。
サンレスの時、スノウにも怒った。

もしホープがあの場にいても、きっとスノウを怒っただろう。

でも結局自分だって無茶をする。

…でもまぁ、あたしも旅をしてるのだから、あまり人のことは言えない部分はあるけどね。

あたしのためにしてくれた事はわかってる。

ホープはひとつ落ち着くように息をついた。
そして話し出してくれたその心情に、あたしも耳を傾けた。





「…今の僕はどうしても貴女の傍にいることが出来ないから、もし何かひとつでも貴女に出来るとがあったらしたいと思うんです」

「うん」

「少しでも貴女の役に立つ、貴女が自分を守れる力を1%でも上げる可能性。それが目の前にあったら、試さずにはいられない。だってもししなかったら、僕は後で絶対に後悔するから」

「……。」

「でも、心配かけてごめんなさい。それと、ありがとうございます」

「…ん。覚えててくれたら、それでいいんだ」

「はい。ナマエさんも、ですよ?」

「うん」





ホープは微笑む。
あたしも頷いた。

自分のために無茶しなくていい。
でも、こんなに想ってもらえる気持ちはすごく有り難くて、そして嬉しい。

たまには必要だろうし、したくなる気持ちはわかる。

ただ、頭に置くことを忘れないでいて欲しいだけ。





「痛かった?」

「そりゃもう」

「ふふふっ」





お互いに笑った。
そしてあたしはそっとホープのくれたブレスレットに手を触れた。





「ありがと、ホープ。すっごく嬉しいよ。これでちゃんと、自分のこと守るね!」

「はい!」





ちゃんと君のところに帰ってくる。
だからちゃんと、帰る場所を大切にしてください。



END


毎年恒例のお正月ホープ夢に書いたお話。

内容としては13-2の最強武器を貰う時の話ですね。
セラとノエルどっちにしようか悩んだんですけど剣の方がザ・武器って感じ?なのでノエルのフツノミタマにしました。

あとホープに蹴り入れる的なのが描きたかった。(!?)

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