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★ せめて、届いて欲しいもの

ゴールドソーサー。
煌めく夢に溢れた娯楽の殿堂。

…そんなゴールドソーサーにある、おどろおどろしいホテル。
その中の、とある一室の扉の前。

俺はその扉を数回…トントンとノックした。





「………。」





響いたノックで、少し我に返った。

…俺、何してるんだ。
エアリスに煽られるまま…、一体何を。

はた、と…。
でも気づくならノックする前に気が付けと。

時は既に遅し。





「クラウド…?」





カチャリと開いた扉に、そこから覗いたナマエの顔。
それを見た瞬間…もう覚悟を決めるしかないのだと思った。





「ど、どうしたの?」

「や…その、」

「うん…?」

「だからつまり…」

「うん、なに?」

「…あんたは、此処のこと、どう思う?」

「……はい?」





口ごもる。
挙句の果てに、意味の分からない質問をしていた。

話を聞いてくれているナマエも、困惑しているのが見て取れる。

…穴があったら入りたい…。
本当、正にそういう状況だった。

だけどもう、ここまで来てしまっては退くに退くことは出来ない。

だから俺は必死に思いつくまま言葉を並べてた。
この間回れなかっただろ、興味あるんじゃないのか、なんて…。





「だから、もし興味があるなら…回ってみないか?」

「えっ?まわる?」

「…ゴールドソーサーの中。この間回れなかったし、どうだ?」

「えっと…クラウドと?」

「…ああ」

「クラウドと、あたしがってこと…?」

「…ああ」





ナマエが聞いてきたこの確認に、俺がどんなに緊張していたのか…ナマエは知っているんだろうか。





「…悪い。回りくどいな、色々と」

「え…?」

「ゴールドソーサーに興味無いか、なんて…ただの口実、だな。ナマエ。少し、あんたと話がしたい。付き合ってくれないか?」





この言葉を言うのに、どれほど拳を握りしめていたのか…。

俺は…自分が情けない人間だと知っている。
認めたくないけど…心の奥底ではずっと気が付いていた。

だから本当は…頼って欲しいなんて、言えるほどの度量なんてなかったんだ。

でも、この時は幻想に溺れていて…ほんの少し、その幻想に背を押されて言葉に出来た。

遠慮なんかしなくていい。
頼っていい。寄り掛かっていい。





「…もし、本当に助けが欲しい時は、迷わず助けを求めてくれ。ナマエがそう言ってくれれば…俺は」

「……クラウド…?」

「何を振り払ってでも…俺は全力で、あんたのことを助けるから…」





本当は頼りない人間だ。
胸を張って、頼ってくれなんて…本当の俺じゃ、きっと言えない。

だけど…頼って欲しいと思ったこの気持ちは嘘じゃない。

…継ぎ接ぎだらけの自分でも、この気持ちは偽りじゃなかった。
ナマエを好きな気持ちは…本当の気持ちだから。





「……あんたの事が、…好きだ」





雰囲気に当てられて…。
口にした一番大切な、俺の…ナマエへの気持ち。

それは、花火の中に消えて…届かなかった。

…でも、それで…きっと良かった…。
実際は届かなくて、ほっとしてたのかもしれない。

もしもナマエが困ったように笑ったなら…俺は、どうしたのかわからなかっただろうから。

でも…本当はそれだけじゃない。

だって…今の俺は、本当の俺じゃないんだ。
だから、偽った自分のまま伝えるのは…どこか、後ろめたさみたいなものがあったんだと思う。

でも、そんな欲張りが覗く癖に…ナマエは本当の俺を知ったらどう思うのだろうって…、そう怯える自分もいる。

だけど、偽りの気持ちじゃないからこそ…嘘の自分じゃなくて…。

それ程に…俺にとって、この気持ちは大きくて。

だから、ただ…せめて。





「…報酬、何もいらないから」

「え…、でも…」

「…何も、いらない…。だって、仲間だから助けるんだ。雇われてるからじゃない…。俺がしたいから、ナマエを助ける。俺が…守りたいから守ってる」

「…クラウド…」

「だから…変に遠慮することもいらない。悩み事も、言えないならいい…。けど、もし言える時が来たり、ひとりじゃどうしようもなくなって、助けが欲しくなったら…」

「………。」

「ちゃんと言え。それだけ覚えててくれれば、それでいい」





俺はナマエを信じてるから…と。
だから、俺に出来る事なら…なんだってしたいと思うから。

…せめて、今はそれだけは伝わればいいって…そう、思った。



END



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