★ そっと、触れる声
《ねえ、クラウド。ナマエって不思議よね》
《…なんだ、突然?》
《ふふ、本当だね。でも、思わない?私はよく思うの。でもそれは決して嫌な感情じゃない。なんだか、気が楽なのよ》
いつか、ティファが言っていたこと。
ナマエは不思議だ。
彼女と接していると、自然と心が楽になる気がする…と。
その時の会話は、凄くよく覚えている。
だって…その気持ちは、俺もよくわかると思ったから。
ナマエと話していると気が楽。
交わすのは他愛のない言葉ばかりだ。
なのに…それでも、その節々に…きっと、ナマエの気遣いがあったんだろう。
俺は…幻想に溺れている。
都合のいい夢を見て、現実から逃げている。
もしも…その、今の自分を繕う夢の鎧を剥いでしまえば…。
そうすればきっと…今の俺は自分を見失って、その精神を崩壊させるのだろう。
だから、都合の悪い記憶は…真っ白になって、表に出すことが出来ない。
でもそれと同時に、心の片隅で…苦しくなるんだ。
本当の俺は、ちっぽけなのに…。
嘘で塗り固めて、真実にして語る。
…それは自分の首を絞めているのと、等しいこと。
もともとほつれているのに、それをどんどん広げていく行為。
だから俺は…都合の悪い部分を隠して幻想に溺れる裏で…きっと、偽りの自分を語ることも…どこかで痛みを覚えていた。
自分じゃ…もう、どうしようもなかった…。
でも、ナマエは…。
ナマエと接している時は不思議と…ナマエはそういう俺のほつれに、あえて手を触れないでいてくれているような…そんな感覚を覚える気がした。
「クラウドってさ、興味ないねなんて言いながら、結構回りの人のこと気に掛けてるよね」
「は…?」
「うーん…なんていうのかな、本当に困ってる人がいたら、何とかしてやろうって思ったり」
「…別に、そんなことした覚えはないな」
「そっか。覚え無しにそういう風に出来るのは、凄く良いことだね」
「………。」
神羅ビルへ、エアリスを助けに行った。
ダインの件で、ひとりで無茶しそうなバレットについて行った。
ナマエは指を折りながら、いくつかの例を挙げた。
その度…俺は、ボディーガードだとか、もし死なれたら夢見が悪いだとか…理由をつけて言葉を返した。
だけど…またその度に、彼女は楽しそうに笑った。
俺は…意地を張る。
でも、きっと…ナマエがそう思ってくれてることに、悪い気はしてなかったんだ。
そしてそれは…幻想じゃない…。
自分の理想と関係のない部分を…そう、褒めてくれてる気がした。
なあ…ナマエ…。
俺は、自分が非力だと…本当は知っている。
だから、理想に溺れるのだと。
でも…あんたは、俺の現実にも…そうやって笑ってくれるのかな。
「なあ…、ナマエ」
「うん?」
心が疼いて、つい…呼んでしまった。
だけど…ナマエが振り返ってから気づく。
幻想の俺じゃ、何を聞いていいのかわからない。
ただ残る…自分でもわからない胸の中の疼きだけ。
「クラウド?」
「…いや、悪い…。何でもない…。なんで、呼んだんだろうな…」
「なにそれ?ふふふ、変なの」
それだけ言って、ナマエはくすくすと笑ってた。
…ナマエといると、気持ちが楽になる。
柔らかい…居心地の良さを覚える。
なあ…もし、俺がそれを口に出したら、あんたはどんな顔をするんだろう。
…そう思うのは、偽りのない心。
だから…幻想だろうと現実だろうと…聞くことなんて、出来ないけど。
今は…この気持ちを大事にしていたいと、そう…思ってた。
END