「クラウドー。服、買ってきたから合わせてみてね」

「…ああ、悪い…」

「ふふ、どういたしまして」





はい、と手渡す紙袋。
受け取るのは、金髪のつんつん頭、整った顔立ちの男の人。

今日、うちには秘密の居候が出来た。






《…すまない、ちょっと尋ねたい事があるんだが》

《へ…?!》





出会ったのは、うちの近所の路地裏だった。

近道だと通った人気の少ない道。
するとそこには、とても目立つ金髪の人が立っていた。

最初は目を引くなあ…って思っただけだったけど、ちょっとよく見て驚いた。

だってその人は、あたしの大好きなゲームの登場人物にそっくりだったから。

思わずずっと見つめてしまったら、彼はそんなあたしの視線に気が付いて近づいてきた。
そして尋ねられたのは…。





《此処はどこだ?》





…なんて、そんな質問。

他にも彼の口から出るのは、どれも的外れで大それたものばかり。
だけど嘘をついているような様子は微塵も感じ取れない。

…代わりに、彼の言葉から感じ取れたのは…その、頭に浮かんだゲームのこと。

よく話を聞いて、考えて…整理して。
結局導き出された結論…。

とある日、あたしはクラウド・ストライフを拾ってしまった。





「…着てみたんだが」

「あ、ぴったり!クラウド格好いいから結構何着ても似合うとは思ってたけど、うん!見立てばっちりだったね」

「…かっこ…」





この世界でも浮かない服装を纏った彼。
クラウドに似合いそうなものを…とそれなりに考えて選らんでは見たけれど、思ったとおりになかなか決まってくれて、あたしはちょっと満悦な気持ちになる。

クラウドは格好いいといった言葉が気になったのか「…何を言ってるんだ」と、軽く目を逸らしていた。

ちょっとド直球に言い過ぎただろうか?
だけど紛れもない事実だったから、まあその辺は仕方がない。

別に悪口を言っているわけでもないし。
褒められて気を悪くする人もそうそういないだろう…と、適当に結論を出してみた。





「…なあ、ナマエ」

「うん?」





渡した紙袋に入っていたいくつかの服。
クラウドはそれと取り出し眺めながら、あたしに目を向けてきた。





「…なんであんたは、俺にここまで良くしてくれるんだ?」





彼は問う。

恐らく、自分が不信な存在だという自覚はあるのだろう。
そして、あたしには自分を助ける義理も利益も何も無い事を。

あたしはふっと笑った。





「さあ、なんでだろうね?」

「…なんでだろうって…」





あたしがクラウドを助けようと思った理由は…なんだっただろう?

多分、理由は色々だ。

クラウドがゲームの世界から来たのなら、この世界の勝手など何もわからなくどうしようも無くなってしまうだろう。
そういう、良心的な気持ちも勿論ある。

だけどきっと、クラウドと話せるなんて凄いとか…そういうちょっと不純な気持ちもあって。





「…んー、まあ…色々、かなあ。あたしにも色々あるんですよ」

「…色々、で片付けて良い問題なのか?…見知らぬ男を住まわせるとか、普通じゃないと思うんだが」

「ふふ、確かにね。でも、あんまり気にしなくていいよ?…クラウドが出て行きたいなら、別だけど」

「いや…俺は、助けて貰わなかったら途方にくれてただろうし…感謝してる。ただ、迷惑だろう?」

「だから、気にしなくて大丈夫だよ。あたしがしたくて助けてるんだから」

「………。」





クラウドは、ちょっと納得のいかない顔をしてた。
確かに、あたしがクラウドの立場だったら微妙な気持ちにはなるかもしれない。

理由のわからない度の過ぎた厚意って、ちょっと変な感じするよね。

でも、まさかゲームの登場人物ですから…なんて言えるわけも無く。
…まあ、少しくらいなら…いいかな?

クラウドも変に遠慮したままで居るのは疲れるだろう。





「ふふ、あたしはね、クラウドがいい人だってこと…知ってるからね」

「え?」

「クラウドが、信頼しても大丈夫だって人だってこと。あたしは知ってるの」

「……なんだ、それは」





言ってみたところで、相変わらず納得のいかない顔。

それがちょっとおかしくて、あたしはクスッと笑った。
確かに、これは少し中途半端すぎたかもしれない。

でも、本当のことだけど。





「…変な奴だな、あんた」

「む、失礼な。ふふ、まあ…そうだね。でも本当、あんまり迷惑とか気にしなくていいよ?」

「…と、言われてもな…」

「うーん…」





本当、あんまり気にする必要はないんだけど…。
だけど確かに、ただ厚意だけを与えるというのも…居心地は悪いのかもしれない。

だったらいっそ、何か見返りを求めてみようか?





「じゃあ…クラウド、ボディーガードでもしてくれる?」

「え?」

「うん、ピンチのときにでも助けに来てもらおうかな」





くすっと笑う。
ちょっと、彼女達の台詞を借りて。

幸いな事に、あたしは死と隣合うような、そんな経験をしたことはない。
特別、何か問題を抱えているとか…そういうことがあるわけでもない。

だけど、もしも…だ。
もしも何かあって、ひとりじゃどうしようもない事が起きた時、クラウドに助けて貰おう。

それが、あたしがクラウドの世話をする対価だ。





「ね。どうですか?もしも何か困った事が起きたとき、助けてくれませんか?」

「困った事って…例えば何だ?」

「うーん、わからないけど…でも、生きてたら何が起こるかわからないじゃない?そのうち、想像もつかないすっごく困った事が起こるかも。そういう時に助けてよ」

「…随分とふわふわしてるな」

「えへへっ、駄目かな?」

「駄目じゃないけど…そんなことでいいのか?」

「うん。十分だよ。もしかしたら、すっごい無理難題を言い出しちゃうかもよ?」

「…それで丁度いいくらいじゃないか?それでも、釣りは来そうなものだ」

「ふふっ」





ニコッと笑う。

ああ、クラウドが自分を助けてくれる。
言っておいてなんではあるけれど、なんだか凄いなあと思う。





「わかった…それでナマエがいいのなら。腕には多少覚えがある。モンスターでも何でも任せてくれ。そうだ、此処にはどんなモンスターがいる?」

「……うん、まあ…その辺も…ゆっくり説明するからね…」





ひとまず、ある程度この世界のことを教えるところからだな…と。
あたしは心の中で密かに決意を固めた。



END

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