パラドクス。 混沌の力で時空が歪み、世界に現れる不可解な現象。 そんな謎を調べて、少しずつ解き明かしていく。 わからないことが、ちょっとずつわかってくる。 それは私にとって、これ以上にない至福だった。 アカデミーに入り、研究に没頭すること…それが、何よりも。 だから、約400年前に使用されたタイムカプセルの目覚めの瞬間に立ち会えることも…凄くラッキーだと思った。 「ホープさん、アリサさん、お会いできて光栄です」 銀色の髪の優しい顔立ちの男性と、金色のショートの髪の小柄な女性。 目覚めたおふたりに、私は微笑みかける。 私はおふたりの世話役に立候補し、おふたりにとても近くで関わる機会を得た。 それは、私の興味…探究心から始まったこと。 でも、それが私の人生一番の機転のはじまりだった。 「ホープさん、何してるんですか?」 「ああ、ナマエ。混沌の力を使った武器の研究だよ」 「あ、セラさんとノエルくんのですか」 「うん。あ、そうだ、君の知恵も貸してもらえたら助かるな」 「私でよければ喜んで。お力添えしますよ?」 「はは、ありがとう」 彼らが目覚めて、もうだいぶ時間が経った。 おふたりがこちらの世界の生活に慣れてきた頃。 もうすっかり、こちらの人間は彼らに信頼を置いていた。 特にホープさんに関しては、絶大的に。 なんというか…この人は、人を惹きつける魅力みたいなものを持っていたと思う。 頭が良くて実力もあるし…でも決して鼻に掛らない。真面目で、誠実で、本当にいい人っていうか。 アリサさんは、どちらかと言うと食えない部分があるなっていう印象なんだけど…。 あ、いやでも発想とか凄く面白いし、彼女と話しをする時間も私は嫌いじゃない。でもそれはやっぱり、私の性格による部分が多い気がする。 だけど、ホープさんの場合だと、何か知識欲とか…そういうんじゃない。 それとはまた違う、別の感情があった。 「そうか、なるほど。じゃあやっぱりあとはセラさん達がカオスクリスタルを持ってきてくれれば…ってところだね」 「そうですね。少しはお役に立てました?」 「勿論!ありがとう、ナマエ」 「いえいえ。光栄です」 最初は本当に…知識欲とか、そういう部分で接したいっていう気持ちが大きかった。 遠い過去の、普通なら絶対に触れる機会などない人なんて…会えるってだけでワクワクした。 でも今は、この人の役に立ちたいなっていう…。 心からの信頼というか、尊敬というか、そういう気持ちが強かった。 ああ、私、世話役に立候補して本当に良かったなって。 あの頃とは全然別の意味でその気持ちを抱いてた。 「人工コクーンか…」 ホープさんたちがこの時代にやってきた目的。 私が生まれるずっと前から動いてきているプロジェクトのデータを私は見つめた。 今、コクーンはクリスタルの柱に支えられて守られている。 でもそれは永遠じゃなくて、いつか支えを失い壊れてしまう未来が来る。 ホープさんは、その崩壊の被害を減らすため…そして、クリスタルの中で眠る古い友人のため…未来まで来てその計画を見守ってる。 だから、人工コクーンを浮かべるための結晶…グラビトンコアをセラさん達が持ってきたら、それは永遠のお別れになる。 彼は、更に未来…きっと、100年くらい先。 そこに…人工コクーンの完成を見に行ってしまうはずだから。 「グラビトンコア…早く、セラさん達が揃えてくれるといいですね」 グラビトンコアが揃ったら、きっと…それは人類の大きな力になるだろう。 私も、人工コクーンを浮かべるほどの力を持った結晶なんて…調べてみたくてたまらない。 だから、今…彼に掛けた言葉は本音。 それは間違いなく、私の本音だ。 だけど…半分だけ。 「セラさん達なら…期待出来る。きっと、すぐに集めてくれると思うよ」 「…そうですね」 微笑む彼に、私は頷いた。 ホープさんが嬉しいなら、私も嬉しい。 知識欲の塊だった私が、こんなこと思ってるなんて…ちょっと自分でもビックリだ。 でもそれが永遠の別れも意味していると思うと…じわじわ、胸の奥が苦しくなった。 「ナマエは、凄く向学心があるよね。色んなこと知りたいって、いろんなことに興味を持ってる」 「向学心なんて。ただ、知ってることが増えていくのが楽しいだけですよ」 「それが凄いんだよ。きっと、誇っていいことだと僕は思う」 「はは、ホープさんにそう言われると、ちょっと照れますね。でもありがとうございます。嬉しいです。本当にパラドクスの勉強は好きだし、楽しいですから」 なんだかくすぐったい。 今度は、じわじわ、嬉しい…かな。 私は、この人の言葉でいとも簡単に浮き沈みする。 …今の言葉は本当に嬉しかった。 認めてもらえる、褒めてもらえた。 他でもない…ホープさんに。 それはきっと、私にとって最高の財産だと思えた。 「好きで、楽しい…か」 私の言葉を聞き、ホープさんは呟く。 そんな彼の顔を見上げると、彼もこちらを向き、自然と目が合った。 その瞳は、どことなく真剣さを帯びているように見えた気がする。 「ねえ、ナマエ…」 そして、静かな声で私を呼ぶ。 「…じゃあ君は未来に行って、人工コクーンの完成をその目で見たいとか、思う?」 尋ねられた。 視線が絡んだまま、まっすぐ。 人工コクーンの完成を…その目で? 「えっ?」 ぽろっと。 それを聞いて、私の口から自然と零れたのは…そんな呟き。 その直後、ホープさんは途端にハッとしたように顔色を変えた。 「あっ…ご、ごめん!はは、何言ってるんだろうな、僕…。なんでもない、忘れてくれていいよ」 「え、ホープさん…?」 誤魔化すように、彼は首を振る。 人工コクーン…。 その完成は、あと100年程の年月を要する。 私はまだ若者と部類される年齢ではあるけれど、その完成を見届けることはきっと出来ないだろう。 「ごめん、本当…なんとなく聞いてみただけだから。気にしなくていいよ」 「いえ…」 見届ける事は…普通に考えれば出来ない。 でも、見たいか見たくないかで言われたら…。 「見てみたいと思いますよ」 「え…っ」 私は笑って、ホープさんに答えた。 私は…空に浮かぶコクーンの姿を知らない。 生まれたときにはすでに、コクーンは柱に支えられてた。 カタストロフィー…。 コクーンが浮力を失った瞬間なんて、遠い遠い…大昔の話。 ホープさんやアリサさんはその瞬間を知っているから、その話は大変興味深く聞かせてもらった。 でも、それはあくまで聞いた話を想像するしか出来ない。 だから、見られるなら見てみたいと思う。 そして…私がそれを可能にする唯一の方法は…。 「タイムカプセルに入ったら、私も完成に立ち会えるかな」 「!」 ふふ、と軽く笑みを含みながらそんなことを言ってみる。 冗談にも取れる、本当に軽い感じ。 でも、私はそれを…冗談で言っていたのだろうか。 そうなってもいいって…心の中で思ってたんじゃないだろうか。 そんな私の言葉にホープさんは大きく顔色を変えた。 「…タイムカプセルはセラさんたちとは違う…。入ったら最後、二度とこの時代には戻ってこられないよ」 「うーん、確かにそれはそうなんですけど…。でも、このまま見送ったら、ホープさんと二度と会えなくなっちゃいますね」 「…え」 なんとなく、ふにゃふにゃした言葉だった。 聞き様によっては、変な意味で…聞こえなくもない。 でも、聞こうと思わなければ…ただの、何てことない言葉になる。 事実、私はきっと…どちらの意味も含めていただろう。 ううん…もう少しだけ、賭けに出てみようかと思った。 「ね、ホープさん。貴方が私の知恵を買ってくれてるなら、未来でも私は貴方の力になることが出来るでしょうか?」 「…、ナマエ…」 じっと、彼を見上げたまま。 多分ね…私は、どっちの転んでも逃げ場があったんだと思う。 ホープさんはそこまで鈍感じゃないから、きっと気が付く。 それで逸らされたら、それはそう言うこと。でも伝えられなかったという後悔は避けられる。 ホープさんの、答えは…。 「…ナマエ…。君は、この時代の全てを捨てられるのか?」 「…ホープさん」 「ははは…、ダメだな僕…。君は将来有望だし、こんなの僕のわがままだから…言わないでおこうって…思ってたんだけどな…」 ホープさんは額を押さえ、困ったように笑った。 その声でもには、どこか吹っ切れたようなそんな印象を受ける。 「まさか…本来僕が生きるはずない400年後で、こんな感情を覚えるなんて…思ってもみなかった」 「…ホープさん」 額から、彼が腕を下ろす。 少し隠れていた顔が見えて、そこから覗いたその表情は…。 「ナマエ」 穏やかに微笑んでいて。 でも、ほんの少し緊張してる…。 「見知らぬ時代へ…僕と共に来てくれませんか?」 そして…その表情と同じ声で、彼はそっと囁いた。 それを聞いたら…。 ちょっと…目頭が、熱くなった気がする。 「はい」 私は笑顔を零す。 そして、思わず…彼の胸に、そっとその身を寄せた。 END 愛美様リクエスト。 13-2ホープ。 シチュエーションはお任せという内容で頂きました。 時期はAF400年の新都アカデミアですね。 セラ達がグラビトンコア探してる真っ最中。 内容はお任せという事でしたので、今回は今まで書いたことない設定で書いてみようかな〜と思いました。 っていうのも敬語じゃないホープがずっと書いてみたくて!なので、この機に書いてみる事にしました! …って、なんか私のチャレンジの場にしてしまってスミマセン! いや、ホープがタメ口なのってスノウとかアリサとか、そのくらいじゃないですか。 このレア感が個人的にたまらなくてですね!(笑) もし敬語のほうがお好みでしたら申し訳ないです…。 最後だけちょろっと使ったりしてますが…。 それでは、企画に参加してくださりありがとうございました! |